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日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。

国内総生産(GDP)の推移:実質横ばい

GDPは生産指標の一つにすぎず決して万能の物差しではないと思うが、一国の経済を分析する上で避けて通れない。ところで安倍政権が2020年までに名目GDP600兆円という目標を掲げている。

 

2011年は東北大震災原発事故の年であり、それゆえ同年GDPは異常値と言えるが、2013年から始動した安倍政権で実質成長はむしろ鈍化している。いずれにしてもGDP指標では大雑把すぎて何も掴めない。GDPは人口、技術基盤その他が大きく変化しない限り、急増急減はないものだろう。また潜在成長率もGDPを詳しく分析する上で確認する必要があるとは思うが今回は踏み込まない。

 

為替相場の推移:大幅な円安への道筋つける

安倍政権=日銀黒田体制の功績を挙げるとすれば、円高の是正であったと言えるだろう。

日本輸出企業の採算レートは80円から100円程度まで弾力性があるようだ(企業が迅速に対応しようとするためか)。それでも1ドル=70円台は世界金融危機以降の米国の金融量的緩和によるドル安がもたらした異常水準と言え、その是正は必要だった。また円安誘導はアベノミクスの目玉の一つであり、輸出企業に勢いをつけ、株価を引き上げ、好循環をもたらすはずであった。

 

貿易収支の推移:輸入急増(石油と円安か)

輸出総額は確かに順調な改善方向を歩んでいるように見える。しかし輸入総額は輸出を上回る伸びで推移し、結果的に2011年から2015年は5年連続貿易赤字となった。それに輸出入ともに急激な円安のトリックがあり、数量ベースでは輸出量も増えていない可能性がある。

 

これは原発停止・火力発電への切り替えによる石油輸入増の影響があるのではないかと思われる。ちなみに、2014年から原油価格は暴落し2015年になっても下落が続いていた。また2015年には九電川内原発が再稼動し、原発廃絶の方向はなくなっている。今後それがどのように貿易収支に現れてくるか。

 

ところで円安は輸出企業を後押しするが、輸入企業とりわけ電力会社には重荷になる。しかし数量ベースの推移や為替の影響、石油輸入動向などのもっと詳細なデータがなければ実態はわからない。

 

国際収支の推移:貿易赤字縮小・債権国

貿易収支以外を見ると、所得収支の伸びが顕著となっている。これは円安の効果もあるが、日本の対外資産や対外投資の収益が大きく、ものづくり輸出国というより債権国(投資国家)となっている状況を如実に示している。また貿易赤字縮小により経常収支が大きく改善している。これはやはり原発再稼動が効いているのか?

 

GDPデフレーター:デフレ脱却への方向

2011年以降のデフレーター悪化と2013年以降の改善は安倍政権と日銀のデフレ退治の取り組みの成果の一つを物語るものであろう。このデフレーターは日本のバブル崩壊以来下がり続け、上がることはなかったのである。安倍政権がアピールできることの一つとなる。

株価の推移:大幅な上昇

アベノミクス以前は、日本の上場株式の多くが「解散価値」より株価が低いという腐った果実のような状態だった。

 

しかし円安政策、そして日銀によるETF購入による下支え、GPIFによる株買いなどもあって株価は息を吹き返し上昇基調にあるように見える。日次の推移では円安進行あるいは円高一服となれば株価が躍進する傾向がある。

 

2016年に大きな異変がまた生じたのだが、今回は2015年までとし踏み込まない。2015年の中国株大暴落も年平均レベルではまだ影響は見られない。

 

金利指標の推移:住宅ローン金利も低下

中央銀行の金融緩和の目的は金利を下げることにある。この点、日銀黒田体制はすでに低かった長期金利を引き下げ、その伝播効果として住宅ローン金利も下げている。

ただし、2016年には日銀によるマイナス金利導入によって各種年限の国債利回りがマイナスに突入するという歴史的事態も生じている。また日銀が新発債の7割を買い支える体制では、財政がどれだけ悪かろうと日本国債が下落して金利が高騰することはない。2015年で締めくくったのでは足りない。

 

住宅着工件数の推移:金利低下の効果鈍い

住宅は大きな買い物であり、住宅指標は経済のバロメーターの一つである。住宅着工件数は住宅ローン金利低下にそれほど反応していない。2011年は大震災によって異常に減少しており、2013年は2014年消費税導入前の駆け込み需要で先食いで異常に増えている。また復興活動による着工増もある。こうした異変を別とすれば、消費税導入後も着工数は増えてはいるので緩やかな増加と言える。他方で都心部の億ションの活況なども伝えられたが、このデータではわからない。

新車販売の推移:台数ベースでは冴えず

自動車大国で輸出大国の日本では自動車業界のインパクトは大きい。しかし安倍政権以来、台数ベースでは輸出が躍進しているわけではない。国内販売も台数ベースでは増えていない。

2014年の消費税引き上げのみならず、2015年の軽自動車税引き上げも大きな打撃となったように見える。

 

工業活動の推移:消費税引き上げの打撃か

産業全体を俯瞰する鉱工業生産指数は2014年を境にくじけている。製造業稼働率も似たような状況。金融緩和と円安という環境があったにもかかわらず2011年~2015年を均せば実質微増にとどまる。細目を見ると資源価格等の暴落が影響しているように見える。

物価の推移:結果不十分

日銀の黒田バズーカ砲というのはインフレを醸成するリフレ政策である。確かに黒田体制以降、消費者物価指数は急激に上昇してはいる。しかし日銀の目標実現2年間が反故にされ、どんどん実現時期が先送りされていることからわかるように、期待されたほどインフレになっていない。

また企業物価指数が2015年には大幅にマイナスに転じている。これは原油、鉱産資源の暴落が要因ではないかと思われる。しかしこれだけのデータでは実態は解明できない。

 

石油関連指標の推移:歴史的な大暴落

石油価格はご存知のとおり2014年から歴史的な暴落を経験しており2015年になっても下げ止まらなかった。1バレル100ドルから50ドルへの下落は激烈なものである。おそらく、これが日本の物価に大きな影響を及ぼしている。また米国株価は原油価格が持ち直すとこれに反応して反発する傾向がある。ところで国内ガソリン店頭価格が2014年に上昇基調となったのは円安進行が原因だと思われる。

金属関連価格指標の推移:資源価格の暴落

物価低迷の要因は石油だけではない。金属関連指標はいずれも大きな下落傾向にある。

石油も金属も結局は中国の生産能力過剰の限界に達したことが遠因でないかと思われる。しかし、中国経済の実情までは今回掘り下げない。こうした資源価格の暴落が日本のリフレ政策に悪影響を与えたと思われる。

 

売上関連指標の推移:突然急落

商業販売総額(小売+卸売/法人向け含む)はデータの取り間違いかと思うほど2015年に激減している。2011年から復興関連需要という一時的な急増があったとは言え、これほど激しい変動は、やはり資源価格の暴落が影響しているのではないか。

また、中国人観光客等の爆買いが2014年から顕著となって2015年も続いているが、小売販売額の落ち込みを押しとどめるわけにはいかなかったようである。

 

家計最終消費の推移:消費税の打撃か

商業統計では法人向けが含まれるため、庶民生活はまるで見えない。一般論として資源が安くなれば本来は消費者にとってプラスとなるはずである。

しかし家計レベルでの消費の実態は2014年からマイナスの伸びとなっている。これは消費税引き上げの打撃のせいであろうか。また円安は輸入を割高にするため資源暴落のメリットが相殺された可能性もある。小売・消費に何か大きなマイナス要因が作用していることは確かである。

 

失業率の推移:順調に低下傾向

安倍政権を賞賛する材料を探せというならば、失業率の低下があげられる。世界大恐慌の後で経済政策の目的の一つは無産階級の失業という不幸を減らすことになった。ただ野田政権下でも失業率は低下傾向ではあったが、これを引き継いで引き下げることとなった。

データ上は失業は日本経済の問題の範疇にない。ただし米国などで活用されているU6失業率(正規を望んで非正規で妥協している労働者、求職自体を辞めてしまった者などを考慮)などのデータがないと就業の質までは見えない。

 

労働関連人口の推移:生産年齢人口縮小

生産年齢人口、労働力人口(就業者数+失業者数)、就業者数という大きな数値をまとめているのでグラフは少々わかりにくい。

日本の生産年齢人口(15歳から64歳)のピークは1995年の8,716万人となっている。この数値が着実に毎年100万人程度減少を続けているところが懸念となる。ナショナリストという評判の安倍政権が移民受け入れ、女性の職場参画に熱心なのは明らかに長期的な人口問題が眼中にあるからであろう。労働力というインプットがたっぷりないとアウトプットを増やすことはできない。労働力が少ないと「成長なき賃金上昇」という経営者の悪夢が始まる。労働人口は社会保障など多くの重荷に影響を与える事項だが、今回は立ち入らない。

 

非正規雇用の推移:2000万人に迫る

これも大きな数値なので実数では変化はわかりにくい。非正規雇用はゆっくりだが着実に増加していっている。就業者6400万人程度のうち2000万人近くが非正規となっている。

 

また2013年と比較すると2015年は正規雇用が9万人減少非正規雇用が74万人増加したことになる。

もはや旦那の稼ぎの少ないパートのおばちゃんと学生アルバイトという次元ではない。やがて正規と非正規の比率は2:1になっていくのではないだろうか。安倍政権が唐突に「同一労働同一賃金」を言い出したのはこういう実態もあるだろう。一部上場企業の正社員労組が賃上げに成功するだろうが、非正規の賃金交渉能力はこれに対し非常に弱い。正社員の給料は上げるが派遣労働者は下げるということになれば、日本経済全体では相殺され賃上げ効果は弱い。社会保障そして30年後の老人達の世界を考えると不安は高まるが、今回はそれに踏み込まない。

 

賃金統計の推移:実質賃金マイナス続く

経済政策の目的とは何であろうか?

無駄なものを大量に作っても破産するまでは大きなGDPを稼ぐことはできる。後で破滅的状況に陥るが米国のような金融バブルでGDPを積み上げることもできる。また企業の株買戻しや政府の株価下支えによって株高を作ることはできる。不況でも出世して儲ける個人はいるし、破滅的バブルでもトレーダーとしては大歓迎という人もいるだろう。経済という大きな総体では「誰の何のために」という視点がないと数字に溺れ踊らされそうになる。

 

しかし経済の最終的な果実は実質賃金の上昇だと思われる。

この点、物価を勘案した国民の賃金は2012年からマイナスの伸びとなっている。日銀がリフレのための物価引き上げを想定どおり実現できていないのに、物価上昇に不満を持つ人が多いのは、賃金がこれについていっていないからである。2016年もこのまま実質賃金マイナスだとさすがにアベノミクスと日銀への批判は止めようもなくなる。しかし政府には企業に対し賃金引上げを命令する権限はないので、日本企業の内情が問題となる。

 

日本経済の雑感のまとめ

これだけの基本指標を見ても、結局よくわからないというのが本音。

 

円安を醸成し、輸出を拡大し、金利を下げ、株価を上げ、失業率を下げた安倍政権であったが、2016年にはご存知のとおりますます不信感が高まる事態となっている。何が問題なのか?何故うまくいかないのか?

 

どうも日銀の思惑とは裏腹に、海外動向などの国内指標からは見えない外部的要因で効き目が殺されてしまった観がある。更に原発停止などのエネルギー問題により円安が石油輸入を割高にしてしまう事態ともなり、石油価格暴落が今度は逆の波となって襲ったようである。

 

歴史的にはプラスと見られてきた資源価格下落が広範囲にわたるダメージを供給側にもたらしている気がする。

 

その大元は中国の生産能力過剰(そして過剰をそぎ落とす今後の作業)と思われ、どれだけ悪影響があるのかもっと別の多角的なデータに当たらなければよくわからない。世界の経済牽引車であった中国の低迷を打ち消すほどの力が、日本・米国・欧州にはない。

過剰生産能力の解消に動き出した中国(2016/4/28日本総研)

地方でも過剰生産 後遺症に苦しむ中国経済(2016/2/18ウォールストリートジャーナル)

 

日銀黒田総裁は、原油価格動向や中国経済先行きについて楽観的な発言が多かったと思うが、それらが裏目に出て計算が狂ったのだろう。米国経済は思ったほど伸長せず、中国経済はますます低迷していっている。

黒田日銀総裁、世界経済に楽観的(2013/11/22ウォールストリートジャーナル)

海外経済「先進国中心に回復」 1月日銀金融経済月報(2014/1/23)

日銀の黒田東彦総裁、中国経済の「急減速説」を否定(2015/8/28レコードチャイナ)

原油価格が再び下落、日銀の物価加速シナリオに黄信号(2015/7/8ロイター)

 

ところでダメさ加減の漂う日本経済といっても、国家としての対外資産収益などを示す所得収支は世界の羨望の的と言える状況にある。こうした富は庶民には還元されていないのか?その実態把握にはもっと深いデータが必要なのだろう。

 

2016年には中国経済不安の高まり、米国経済鈍化で金利差が縮小し円安基調が崩壊日銀のマイナス金利導入がまた大きな影響を及ぼしているはずである。そして目前にあるイギリスのユーロ離脱懸念は世界経済不安となって急激な円高をもたらしている。変化はまさに今起こっている。

 

また今回は、時系列データがうまく集められなかったため、企業活動の詳細とりわけネットでの設備投資や内部留保、労働分配率、銀行の貸出動向などまで見れていない。日銀の政策効果を見るにはコアコアCPI、短期金利、実質金利なども重要である。また専門家ならばデータの引用元までしっかり記載すべきだが素人の作業としてはこんなもの。疲れたので省略する。

割と表層的で大雑把なデータしか示せなかったが2011年以降、異変の大きい予断の許さない経済環境になっているのは確かだろう。