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日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。

「安く仕入れ高く売る」


この黄金律をベンチャー起業に適用すると以下のようになる:

「ベンチャー企業を安く仕込み上場させる」


しかし、起業家から具体的に未公開株を安く譲り受けない限り、ベンチャーファンドは儲けるのが難しくなる。


起業家=創業者は通常、自らの会社を「一心同体(俺の魂)」のものとして愛している。株価を高めていくことが起業家にとっての成長であり、自己資本の増殖であり、株主への報恩であった。どうして起業家が「未公開株」を安く売るだろうか?


グルーポンで露呈した金融屋と起業家の結託


ここでグルーポン騒動のケースがある。


創業者が上場前に手持ち株式約9億円を売却して株価が下がったことが、上場前の経営者の行動としては不可解で「株主を裏切る」ものと批判されたことがある。


しかし、その頃からその「金融屋と起業家の結託」の内実がかなり具体的に暴露されるようになった。
*90年代のITバブル時には、起業家はとにかく株式公開でしか資金を獲得し金持ちになる方法はなかった。現在のアメリカでは「プライベート市場(非公開市場)」が発達・進化している。


■金融スキーム(100倍)「安く仕入れて高く売る」
つまりベンチャー経営者が「未公開株」を安くベンチャーファンドに提供する。これ
によりベンチャーファンド等仕込み屋は宣伝して上場まで盛り立てていく。金融屋にとっての「安く仕入れ高く売る」構図がこれで可能となる。
*グルーポンの場合、ベンチャーキャピタルを創設するエリック・レフコフスキーが1億円相当の小切手をアンドリュー・メイソンに渡して大学院を退学し起業するようくどいたところから始まったとされる
*NFL、Lighbankが初期に参画したベンチャーキャピタルであったとされる。その他NEA、Accel Partners、ロシアのベンチャーキャピタルDigital Sky Technologiesも出資
*グルーポン上場については大手モルガン・スタンレーゴールドマン・サックスクレディスイスが関与
*グルーポンのケースでは10億円程度の投資が1500億円相当に膨らむ「100倍」のスキームとなる


だが、将来の上場が騒がれている有望企業が安く株式を提供するのは損である。


そこで、ベンチャーファンドは他のベンチャー企業「未公開株」で安く仕入れものを起業家に渡すのだ。自社株は安く提供したが、他者の安い株を手に入れて金融屋と同「安く仕入れ高く売る」仲間(インサイダー)になるわけである。


つまり起業家と金融屋がベンチャーブームの中で「安く仕入れ高く売る」を共有して結託しているわけだ。IPO(上場)とは「インサイダー」が儲ける仕組みかもしれない。そして上場で飛びつく新規株主はカモとなるリスクがある。
*上場後、グルーポンは期待ほど業績も伸びず株価も下がっていったが、創業者は自己所有の株を売って換金し、さらに株価下落に拍車をかけていたのである。

With Groupon shares at new low, will founders save it?(2012/11/12Chinago-Sun-Times)


グルーポンは上場前からプライベート市場で1100億円相当の出資を集めている。通常、出資を集めるのは事業拡大の元手のはずだが、約900億円以上が創業者、ベンチャーキャピタルの懐に入った。上場後でも募集により獲得した資金の大部分80%~90を、会社の拡大ではなく創業者等インサイダーのポケットに入れていた(上場時に7,000億円相当獲得)。それゆえ、IPOが事業拡大手段というより金融錬金術の匂いがするわけである。
For Groupon’s Founders, the IPO Has Long-Since Happened(2011/11/04Daniel Gross)


    獲得資金 →  事業拡大の元手 vs インサイダーのポケット


それは頑張った文無し起業家への「努力の報償」というより、ネタ仕込みに貢献したインサイダーに莫大なリターンを渡すもの(キャッシュアウト)であった。これはグーグルが株価を高めた(上場時85ドル→1000ドル超え)のと比べると、あからさま過ぎる「金融スキーム」である。さらにカネはポケットに入れたが事業は赤字続きでついに創業者がクビになった。
業績不振の米グルーポン、創業者メイソンCEOを解任(2013/03/01AFP)

もちろん、上場して最初の株式公開の株式を取得する人達も「安く仕入れて高く売るという目論みで買っている。


そこであなたは


「何も作り出さず、生み出していない輩が転売で儲けている!」


と不快になるかもしれない。しかしそれが米国で一挙にグローバル企業を生み出すエンジンのようである。そして仕組みがなく、仕組みが作れなければビートルズもアップルも生まれはしない。精神論を学び、賢者の言葉やアフォリズムを暗記しても、「金融レバレッジの仕組みがなければ「発明をあっという間に世界展開」などできない。そろそろ日本で「うおおおベンチャースピリッツ!」「弾がなければ魂で戦え!」という精神論傾倒はムダなことだと気がつくべきである。

ベンチャー・スピリットという和製英語(当ブログ)


「金融レバレッジ」がなければ、日銭を稼げる事業に新規事業が集中し、結局は外食・人材手配・零細請負という新興事業ばかりになってしまう。そこには「うおおお技術立国・ものづくり」の姿はない。



プライベート市場(未公開株市場)


「いずれ上場する有望企業だ」として未公開株市場を盛り上げておいて上場しないのは、詐欺的な違法スキームとなってしまう。
*1920年代米株式ブームでは、ありもしない会社が「いずれ上場するから今のうちに買いましょう」と電話営業する金融詐欺「ボイラールーム商法」があった。


米国プライベート市場は、沿革としては引退する非上場企業のオーナーが何らかの資金を回収できるよう発達してきたようだ。日本でも戦後勃興した中小零細を延々と創業者の子孫で継承していくのは難しいはずだが、まだ抜本的な対策は取られていないようだ。


そしてSNSの上場ブームにおいて、また新興事業の金融(シード・グロースのキャピタル)においてプライベート市場はますます大きなものになってきている。現在では、日本の閉鎖的な店頭取引は異なり、ネットで株価もわかるインターネット取引可能なプライベート市場となっている。公開市場との違いは、規制の有無であろうか。
*未公開市場(プライベート・エクイティ)の弱さは日本でも認識されている。
*日本の民間プライベートファンドの運用資産は総額わずか1兆円程度とされる
GPIFがPEファンド投資を本格化へ、民間の専門家採用=関係筋(2013/10/18ロイター)


会社というものが純粋に金融のハコとなり、手段となっている。


金融レバレッジと会社


■会社は売り物・商品か?
ただ、米国にしてみれば、工業化の時代から「会社」というものを売買可能な「カネ
のなる箱」と見る向きが強かったようである。必ずしも自己と一体化しておらず、い値で売れるときは売り飛ばしたりもする。
*リンカーン大統領の「大陸横断鉄道プロジェクト」は、壮大な詐欺的金融スキームによって実現した。出来高払いの自腹負担先行では当初の応募企業ゼロであった。詐欺によるぼろ儲けが荒野に延々と鉄道を敷設することを可能としていた。
*工業化初期のアメリカでは、オーナーが株を密かに空売りして突然工場を閉鎖して株価を下げ儲けるということすらあった。
*初期の米国音楽産業は、軍事企業系の子会社で税金対策のための赤字事業を欲していたため成立していたともされる。
*ただし大企業については労働組合の発達もあり、とりわけ世界恐慌以降はこういう金融手段としての会社という発想は後退していたようだ。


そしてそれは日本法上も、「会社」は売買可能な商品の一つである。


だがそれゆえに、日本でも欧米でも経営者は買収防止などの手法で対抗しようとする。これは経済・金融と資本主義をどう捉えるかという問題であろう。


■日本の中小オーナーの家的思考
だが、日本の中小零細オーナーの思考はかなり違う。

オーナー社長が一般的に夢見ているのは己の「小財閥」の形成である。もしかしたら、前近代的な武士の時代の感覚で経営者も従業員も、生存保障としての「家」という感覚で会社を捉えているせいかもしれない。
*ただ、「ドル箱」という感覚は、東証一部以外の従来型上場事業会社では顕著なようだ。オーナーのために100%を超える高い配当性向であるところが目立つ。
*日本の中小企業はオーナーの箱としての性質を守りたいのか、優秀なのに上場しない会社も多い。また上場しても株式持ち合い(取引先と)で閉じている。


それに日本の中小零細は、プライベートファンドも発達しておらず銀行も簡単には貸さない。
*銀行は売上5億程度ないと相手にはしない。
*あるいは売上が小さくとも、保有不動産の担保価値までは貸してくれる。


ではどこで資金繰りを?


高利貸しである。零細でブレイクスルーが難しい上に高利に頼り、ますます苦しくなるという構図がある。『ナニワ金融道』という高利貸しを描いた漫画ではカモとなるのは零細経営者である。さながら高い小作料にあえぐ小作人のように中小零細は生きていく。。
*高度成長期には金融競争も激しかったので、零細の資金繰りも回っていたが、突然のレバレッジ縮小やデフレでは中小零細は借金が重くなる一方である。

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つまり「アメリカはダメだ!日本は素晴らしい!」というチンケなことを言いたいわけではない。そういう言説の本などは良く売れるようではあるが・・・空気に迎合しているだけだろう。
*中小零細経営者が「カネを借りて返せなければ自殺して生命保険で返す」という日本がそれほど「美しい!うお!おおおお!」というわけでもなかろう。


批判的精神で欧米の金融レバレッジを研究し、産業投資に必要な金融を育ててゆく必要がある。
*もしくは主要大企業が国有のフランスみたいになるか