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日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。


どうも、賃金というものが公的制度化してしまっている。


最低賃金の公定やサラリーマン生涯賃金体系などにより、本来は賃金=労働力も市場の商品・価格であり、市場原が働くことを忘れさせてしまっている。


賃金に関する号令


そして安倍政権が例の号令主義で「賃金を上げろ」「賃上げできない会社は恥ずかしい会社」とプレッシャーをかけているのも、国家主義的である。さすがに「賃上げをしないと非国民だ」とまでは言っていないが。
最低賃金14円上げ 審議会、脱デフレへ所得底上げ(2013/08/06日経新聞)
政治介入けん制=賃金めぐる政労使協議で-日商会頭(2013/09/18時事通信)
賃上げは正しいのか?甘利氏「賃金を上げないと恥ずかしい環境つくる」 (2013/10/20Huffington Post)

考えてみれば、安倍総理の祖父・岸信介官僚的国家主義に似ている。岸信介は戦前国家総動員に向けた体制の中で「経済企画院」から経済統制を展開し、商法を改正して「経営者は資本に奉仕するのではなく国家に奉仕せよ」という方向を目指したことがある。
*この商法改正は財界の反発で実現しなかった
岸信介(wikipedia)

経営を度外視して賃金を引き上げれば、金融機関は難しい顔をするのは当然である。
賃金引き上げ会社に融資しない金融機関も(2013/10/2エコノミックニュース)

アベノミクスの命運


なぜ、安倍政権は社会党みたいに「賃金上げろ」と言うのだろうか?
「春闘で賃上げ要求を」 古賀連合会長が呼びかけ(2013/10/03産経新聞
連合 5年ぶりベア要求 春闘方針、1~2%程度(2013/10/24産経新聞)

それは賃上げがないと、アベノミクス物価だけ上昇し、増税もあり(社会保障負担もじわじわ重くなる)、結果的にスタグフレーションになっていってしまうからだ。しかし法令で賃上げを強制するような手段もないことも安倍政権は認識している。
「賃上げ要請」でスタグフレーションが起こる(2013/02/13池田信夫アゴラ)
時論公論 「薄日が差した 2013年春闘」(2013/03/13NHK)

物価上昇「困る」 81% 日銀調査 下落「好ましい」は5割(2013/07/06しんぶん赤旗)
*日本総研の試算では2%の物価上昇が実現するなら、今後3年間毎年4.3%の賃上げが必要
*だがここ10年間にわたり賃上げが2%を超えた年はない


トヨタのように業績が伸びている会社は賃上げできる。また将来の販売市場拡大が有望な会社も賃上げは合理的である。しかし日本経済全体のデフレからの浮上という意味では全産業の嵩上げがないと意味がない。
賃上げ予定、1割未満=信金中金の中小企業調査 (2013/09/26WSJ)

ロイター企業調査:消費増税時の賃上げは業績次第、ベア回避8割超(2013/09/20ロイター)


バブル崩壊以降の日本企業は、人件費等を下げることでレバレッジ縮小に対応してきた。利益売上増でもコスト減でも叩きだせる。市場の飽和・魅力的な高付加価値品への需要減退で、労働単価は減少一途であった。生涯保証型のサラリーマンも基本給減額がなかったとしても残業や仕事量増大で、労働単価は下がっている(同じ月給で今までより長時間労働)。


円安で輸出額が膨らみ、リフレによる株式市場リスクオンだけでは、多くの経営者にとって賃上げをする体制が整ったことにならない。賃上げは、人口増大でもない限り一番最後に来るものである。


だから、「賃上げ先行」という言葉が、「まだ経営的には難しいが経済合理性を無視して先に頼む」という意味で発せられている。
経営者は賃上げ先行を=物価上昇で対応要請—甘利再生相(2013/07/01時事通信)

日銀は楽観的すぎるか?


日銀は異次元緩和政策について自信を揺るがせていないが、海外からはもっと冷静の指摘もある。

物価上昇見通し、「2年で2%」維持 日銀リポート (2013/10/31日経新聞)
黒田総裁は楽観しすぎ? 日銀の経済予測に海外紙から疑問(2013/11/02BLOGOS)

すなわち物価の微増・賃金の微増もあるが、物価上昇の方が早く、実質ベース賃金はむしろマイナスの伸びとなっている。「日銀異次元緩和は成果を産んでいる」と喜ぶべき結果ではない。

消費者物価、4カ月連続上昇 実質賃金は下落鮮明(2013/10/25日経新聞)


日本の株式市場は、米国FRBの緩和縮小懸念から5月に急落して個人投資家に打撃を与えた。その後参院選を経て株価の上昇は鈍くなっている。参院選まで買い越しだった海外投資家は、参院選後は慎重になっている。つまり日本人の「うおおおパラダイム・シフト」ではなくFRBの金余りの投資ネタ・海外マネーのフローの問題だった。ヘッジファンド決算の11月までに「第三の矢等で海外投資家にインパクトを与える産業改革が打ち出されないと、マネーの流れがマイナスに作用する可能性もある。またリスクオン自体は日本というより米FRBの動向次第である。さらに円ドル為替相場もかつての勢いは失われ1ドル100円の壁はますます高くなっている感じだ。


また米国が緩和縮小を中止したのは、流動性相場によるリスクオンが続くということ株式市場には悪くない話しだが、米国の病も重い(クスリを減らすと言っただけで体調が悪くなってしまった)ということである。そして日本は、まだまだ不安な欧州も頼れず、中国には経済リスクと政治リスクがあり、結局米国人の財布をあてにしている。

*毎月8兆円以上もの量的緩和を実施しているのに米国経済の回復ペースは鈍く、おまけにインフレにもならない。


■リフレというバイアグラ
日本の構造と世界の最適化

つまり日銀の異次元緩和は、リーマンショックによる米国の人為的ドル安(急激な円高)を是正した点は評価できるが、それは世界金融危機以前の水準に復帰するだけである。バブル崩で露呈した日本型経済システムとデフレを本当に治癒できるか?どうも異次元緩和は、勃起しないのをバイアグラで勃起させているような感じだ。クスリに頼ればますますクスリに依存し、ますます老衰化していくことにもなりかねない。


一方で、東北復興、東京オリンピックなどの労働需要が建設業関係を直撃している。公共事業縮小により人材が縮小していたところだったので、偏った形人材不足・労賃上昇が起こっている。これは周囲の小売販売員などの労賃にも影響を与え始めているが、経済全体というよりは一部作業員の極端な不足による悪影響だ。日本の家芸ゼネコン体質のツケが回ってきているのである。

*ゼネコン体系にメールを転送するだけの中間請負(ホワイトカラー)はいるのだが、技術のある現場作業員がいない。なぜなら現場作業員よりメールを転送するだけのホワイトカラーの方がいい生活をしているからである。

ミドル・マネージャー(中間管理職)の過剰というのも解決の難しい問題である。クビにできたとして、今度は社会保障費を支払う層が減少してしまう。


さらにこれから成長が必要なのだが、設備過剰感が高い。設備投資拡大や雇用拡大という好循環の前に、設備過剰をどうにかしなければならない。つまりゾンビ企業延命を止めなければならない。ちなみに不況というのは「神の見えざる手」による過剰の抹殺の効果があるが、企業救済!経営者救済!雇用救済!をやってしまうので過剰が一掃されない。成長が素直にすくすく育つのが難しい状態となっている。単に中央銀行の金融操作ではここはどうにもならない。本来は市場原理が働いて敗者退場・ダメな野球監督更迭、倒産、買収・合併、不採算事業整理となるのだが、日本的な国家資本主義がこれを阻んでいる。


一見するといまだに豊かな日本だが、ナイチンゲールの三重苦のような問題が深い根をはっている。前に進んでも後ろに進んでも誰かが傷つくのは確かである。何もしなければ子供が大きくなった時代は闇となる。サンタクロースのように幸せを配るのではなく負担やリストラを配る時代だ。誰にしわ寄せするかリーダーは決めなければならない。アントニオ猪木みたいに「元気あれば何でもできる!元気元気」というような精神論をホワイトカラーが叫ぶべき時代ではない(アントニオ猪木が言うのは許せるが)。