日本の構造と世界の最適化 -20ページ目

日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。

国策金融が政府のために買う


■国債は誰が買っているのか⇒5割以上は国策金融
日本の国債は国内保有率が高いことから財政悪化の悪影響が出にくいとされている。ただ、それは戦時国債を買うような愛国心によるものではない。端的に国策金融が買い支えている。郵便貯金・かんぽ保険による国債購入・日銀による国債購入(現在新発債の7割に迫る)や公的年金の運用先としての買いがある。もちろん民間の金融・保険もある。アベノミクス(日銀異次元金融緩和)により、日銀の保有は拡大していく予定であり、2014年には最大の日本国債保有者となる。
*郵貯・簡保における国債保有割合は2009年時点で3割強、公的年金が1割強、日銀が1割弱であった。
日銀の国債保有残高、過去最大 保有比率は保険に次ぐ2番手に(2013/12/19日経新聞)
日銀が日本国債の最大保有主体、14年末に20%超へ=黒田総裁(2014/4/23ロイター)
*中央銀行による国債買い取りが増えると「財政ファイナンス」の疑念を持たれるようになる。


■株式は誰が買っているのか

上場企業であっても、株式すべてが売買・流通の対象ではない。経営上の義務的保有や塩漬けの株式がある。株式持合いも流通しない固定株である。これらは流通性がないので株価変動への影響は弱い。浮動株の売買が株価を動かしていく。流動性が高い部分はやはり、外国人投資家(3割弱)個人投資家(2割)であろう。つまり5割弱は短期的保有という感じだ。


ところで、安倍政権の麻生副総理がGPIF(公的年金・年金積立金管理運用独立行政法人)による株式購入を示唆している。そのインパクトは資金規模からすれば決して小さくはないだろう。
GPIFは株式に60兆円配分を、-伊藤隆敏教授(2014/02/14ブルームバーグ)
麻生財務相、公的年金「6月以降動く」日本株買い支え期待(2014/04/16日経新聞)


このように、日本のマネーの基軸部分は国策金融のインパクトが大きいと言えるのではないだろうか。産業再生や再編においても、政府系マネーが大きな支配力を持っていることが、日本が自由主義経済というより官僚系国家資本主義である証拠でもあろう。
政府系マネーに頼りすぎていないか(2014/4/30日経新聞)
*国民が熱狂した小泉改革は「もはや国策金融の時代ではない」ということで本丸の郵便局にも手をつけようとしたが、小泉引退後には結局元に戻った観がある。


新興事業や起業にとって意味を持つプライベート・エクイティ・ファンドも、政府系4兆円・民間1兆円と、「官(税金)に頼る」姿勢が濃厚だ。「がんばれ!日本経済」と暢気な応援をする前に、マネーの世界の構造をもっと検証すべきであろう。

官製ファンドますます官僚(当ブログ)


こうした経済の基盤や構造が、花形企業や花形経営者の活躍する土台となっていく。ただスティーブ・ジョブズの言行録を読み漁ったりするだけで産業的に意味のあるビジネスが生まれるわけではない。
*起業による金融レバレッジの弱い日本では、売上に頼って成長することが必要となり、即金・日銭を得やすい外食等の起業がやたら繁栄したわけである。


国家社会主義とは国民皆年金・皆保険


■現在は資本主義自由経済ではない

短期金融の土台にある長期金融は、国債、年金、保険が大きくものを言う。

戦後の「大きな政府」は国債の大量安定供給と赤字容認財政を招き、債券市場の頂点に財務省が立つことを可能とした。住宅ローン等に影響を与える長期金利も国債取引から生み出される。
*あなたが友人にどれだけの利息でカネを貸すのかはあなたの自由だが、他人から預かった莫大な資金を動かす時、金融市場や相場を無視した取引をするわけにはいかない。


更に中央銀行が金融市場に介入することで短期金利も一応制御されている。

これに加えて、長期運用を前提とする年金・保険(医療)も戦後は国家運営型になっている。これは「国家社会主義」が言葉だけでなく現実の制度・払い込みと給付による現実の契約となっていることを意味している。


ハイエクは、ドイツ帝国のビスマルクによる社会保障制度「国家社会主義」の起源と見ているようだ。イギリスではフェビアン協会が国家社会主義の中核となったとされる。米国はオバマケア(医療保険改革)で擬似的な国民皆保険に踏み出してはいるものの、国民皆年金はない。


いずれにせよ、現在において「純粋なる資本主義」「純粋な自由市場経済」は存在していないし、これまでも存在したことなどない。資本主義批判やマルクス再考の動きもあるが、現在資本主義がそびえたっているというイメージは間違いであろう。

*穀物等基本食糧の価格は管理されている、電気料金等も管理されている

*タクシー料金ですら管理されている

*貿易は国家間の取り極めによる制約がある

*賃金も最低賃金や残業規定等で規制されている

*金利はもはや中央銀行が作り出すものとなっている


アベノミクスと株価


■6月-9月期が勝負になる安倍政権

安倍政権=自民党が、他の野合しようとしている野党よりも経済再生に力を入れていることは素直に認めなければならないだろう。常に正しい政策を打ち出し実現しているというわけではないが、日本経済の問題認識については、外部民間識者の諮問やデフレ議論もあり、かなりインテリジェンスは積み重なっている気はする。

デフレ
ところで、アベノミクスの期待と成果を具体的に物語るのは株価であった。


安倍政権誕生まで、日本の上場株式は割安(解散価値以下)状態で低迷を続けていた。もちろん、株価だけが上昇しても、最終的に全体賃金が上昇して消費・設備投資のサイクルが好転するまでは「経済が良くなった」とは言えない。


しかし、株価=経済という錯覚は無視できないものだ。市場の空気もあるし、政権の舵取りに対する支持率のようなものにもなる。


■外国投資家が作り出したアベノミクス株高
安倍政権誕生は株高を作り出した。ただし、2013年の株高は、主に外国勢による13兆円の買い越しによるものであった。

日本投資のヘッジファンドが世界最高益(2013/12/27ロイター)


日本の個人投資家は昨年5月の腰折れのダメージによって慎重姿勢に転じており、機関投資家はもっと慎重で総体として日本勢は売り越しだったのである。つまり、とりわけ米国の量的緩和によるマネーがリスクオンのネタを探して雪崩れ込んでいたようである。これはシンガポールなどの東南アジア等新興国の金融・不動産・債券のバブルももたらしていたようである。
*シンガポールの不動産価格は4年間で60%高騰という急激な上昇を見せている。
*欧州が停滞しているのでカネ余りならアジアに投資せざるを得ない。

IMF専務理事:米緩和縮小はさらなる市場の動揺招く(2014/2/23ブルームバーグ)

    

  米国量的緩和で金余り → 日本のアベノミクス・日銀によるリフレ
                     新興国の高利回り債券、不動産ブーム等


当初は海外からの支持も高かったアベノミクスではあるが、その「第三の矢」については、海外から失望も聞こえてくるようになった。

海外投資家にアベノミクスへの失望感=竹中平蔵氏(2014/2/2ロイター)


第一の矢=異次元金融緩和(日銀)リフレへ
第二の矢=財政出動・公共事業の積み増し・東北復興事業・オリンピック等刺激
第三の矢=成長戦略・規制緩和


海外勢には2014年に入ってからも買い姿勢があったが、それは日銀のリフレ失敗を想定した追加緩和を期待したものだった。追加緩和があれば短期的に必ず株価上向きのドライブがかかる。リスク資産全般が上げ潮になる。それが買いにつながっていたようだ。それは米国の量的緩和の第一弾!第二弾!第三弾!でも実証されている。


■日銀の物価目標は達成無理と見られている
「物価2年で2%実現」
という日銀の公約において、欧米の物価指標の目安となるコアコアCPI(食品・エネルギーを除く消費物価指数)では日本の物価はそれほど上昇していない(コアコアCPIは1%以下でも連続上昇を毎月重ねていたが、本年3月に初めて縮小を記録している)。それゆえ欧米投資家は日銀のリフレの当初設定の失敗・追加緩和を予想していたのであろう。株屋は要するに狙いを定めているわけだ。株屋にとっては日本経済よりも自分の商売が大事である。
デフレ脱却判断は、コア指数とコアコア指数どちらで?(OKwave)

*どうも日銀はコアCPI(生鮮のみ除外)を中心としているらしく、そのようにエネルギー価格を度外視するなら確かに円安と原発停止によるエネルギー価格高騰でコスト・インフレによって物価2%は実現できてしまうであろう。しかしエネルギー価格を度外視するのは素人を馬鹿にした日銀等エリートのまやかしに思われる。石油価格の変動は国外の事情に揺さぶられるから、中東戦争でも勃発してエネルギーが高騰すれば日銀は目標達成してしまうのである。
*物価高騰と増税、社会保障負担の引き上げ、年金支給額引き下げ、介護保険料上昇、復興特別税(法人税)の加算、高齢者医療費負担の増加、ガソリン温暖化対策増税を考慮すると、うまい資産投資でもしていない限り貧しくなる。名目賃金は微増となるだろうが、コスト増大に追いつかず実質賃金(インフレ考慮)が停滞してしまう。


しかし、日銀黒田総裁は「想定どおり、うまくいっている」という発言を繰返し、「追加緩和は不要」というメッセージが強調されている。だが、これで海外投資家の日本株買いが萎えてしまう可能性がある。実際、ウクライナ情勢緊迫化もあるのか東証は薄商いとなってきているようだ。確かに即応性の株価と、効果が出るのに時間のかかる産業改革(成長戦略)は別のものだが、株価低迷は安倍政権にとってはマイナスである。

黒田日銀総裁の「追加緩和策は不要」発言の影響(2014/1/23現代ビジネス)

デフレ脱却の「正念場」迫る、市場は日銀追加緩和に期待(2014/3/28ロイター)

追加緩和はコスト大きい=須田元日銀審議委員(2014/4/21ロイター)


■消費税のインパクト

また、消費税引き上げのインパクトがどれだけあるのか、6月頃までその負のインパクトは正確には測り難い。だが日本株の頼みの綱である海外投資家は、消費税引き上げを日本人以上にネガティブに捉えているようだ。これでは株の勢いが鈍る恐れがある。

*消費税を10%に引き上げることができても尚、財政の出血は止まらない。

*だが「大きな政府」と国家社会主義を支えたいならば増税という方向になる。ムダを排除するのでは到底足りず、「必要なものですら削ぐ」という方向へ長期的には追い詰められていくだろう。

消費税30%にしないと… 「国の借金減らすには」試算(2014/4/28朝日新聞)

*それゆえ、税収増にも貢献する「成長」が必要となる。高度成長期並みの成長があれば財政問題は解決するが、それは想定し難い。


■株価下支え、インパクトのある政策を打ち出す必然

それゆえ、6月頃から株価を買い支え、アベノミクスが賞味期限切れにならないようにしたいというのが政府の自然な思惑である。それゆえ、GPIFの運用先を転換するという大胆な話しが出てくる。これなら、海外投資家がしぼんでも日本株価は支えられるかもしれない。


また、消費税のダメージが大きければ、政府は6月頃に「更に大胆な」法人税減税や規制撤廃などを打ち出してくるはずである。「これでダメならあれも」という形で安倍政権は周到に備えているようで、まだまだサプライズ改革のネタはありそうでもある。
*例えば右寄りとされている安倍政権が公共事業人手不足のために外国人労働者大幅受け入れを匂わせる見解を出したように、それは大胆なものとなりうる。
*赤字法人に対する課税(外形標準課税)検討も大胆な方向ではある。


■GPIFの株買いに問題はあるか

GPIFの年金資産運用の投資先について、株式投資を拡大することは既に政治的に決定されており、それが実施されるのは麻生副総理が述べたように6月以降となるようだ。
*公的年金は確定給付型であるため、リスクをとって儲けるという発想がない。儲かろうと、儲かるまいと、受給者にとってもらえるものは同じなので、積極投資の動機に欠ける。このため消極的運用であった。

公的年金の運用利回り「JPX日経400」並み目指す GPIF(2014/4/4日経新聞)


あたかも、日銀が国債購入を増やした分、GPIFが国債購入を減らして株式に資金を流し込む格好である。


これまでの日本株高 →   切り替え   → 6月以降の日本株高
    海外勢買い越し-----FRB緩和縮小   GPIF等が買い支え
    国内勢売り越し


ただ、市場における営利運用は「安く買って高く売る」である。あるいは値崩れせず利回りの良いものを長期に保有することであろう。


GPIFが株式市場のために「高めに買う」のであれば、政治の手先であり資金運用者としては疑問が残る。GPIFの出方が鮮明にわかれば、GPIFが買いこんでいく対象銘柄を前もって買っておけば高く売れる。GPIFが「高く買って安く売る」事態になれば運用は損を生むことになる。それゆえなのか、GPIF側は消極的姿勢を崩していない。
激論!GPIF改革 理事長と東大教授のどちらが正しい?(2014/4/9ダイヤモンド)

確かに、「塩漬け・死蔵のマネー」というのは日本経済の問題であった。世界有数の金持ち国家でありながら、バブル崩壊以降は産業に弾を配るような「積極的な産業投資」にはつながっていなかったし、そもそも企業側にも資金需要がなかった。経済が低迷して新規まき直しが必要でも、守りの姿勢・レバレッジ縮小で貯蓄大国のままであった。これでは老衰化し弱っていくばかりであろう。


向としては、「日本のマネーを産業へ」というのは間違っていないが、GPIF等の活用で株高を演出するとすれば間違っている。株価は、企業の将来の好業績や収益改善・事業拡大を見込んで高くなるべきで、ミンスキーが指摘しているような「リフレによる一時的値上がり」を狙う投機では、かつてよりも更にコストの高い株バブル崩壊が生じる危険もある。

国債と産業投資(当ブログ)

投資の欠如(当ブログ)

産業投資と資産投資(当ブログ)


未曾有の人体実験


リフレ政策は過去の実績のない前人未到の政策だ。

それはバイアグラのようであり、またプラセボのようである。

アベノミクスの「偽薬効果」に副作用はないのか(2013/4/2ニューズウィーク)


日本は高齢化や人口縮小でだらだらと低迷を続けることもできたかもしれない。しかし日銀異次元緩和により、失敗すれば想定外のダメージが生じるような賭けに出ている。そういう意味では、人体実験である。後戻りできないところに踏み出してしまった。そしてリフレ政策は過去に明確な成功例がない。それゆえ「非伝統的(unconventional)」とか「非標準的(non-standard)」とかいう表現で量的緩和が語られている。


■出口戦略はどうなるか/やめられないとまらない?
量的緩和からの「出口戦略」やゼロ金利政策からの「正常化」も過去に参考となる成功例はない。
異次元の金融緩和に出口戦略はあるのか(2013/9/27日経Bizアカデミー)

*IMFは先進国の中央銀行が緩和から引き締めに切り替えるリスクを懸念している。ということは、バブルといっていい状態になるまで金融緩和はやめられなくなる。そのバブルは、ITバブル崩壊を食い止めた米FRBグリーンスパン議長体制での不動産金融バブルのように一時的な盛況になるかもしれないが。


リフレが失敗した場合、停止することなどできず、ゼロ金利政策のように延々と想定以上に長期にわたってリフレ政策が継続する恐れもある。またリフレが成功した場合も、低迷期に高く買った中央銀行が損失を出し、政府が補填する羽目になる恐れがある。
*ゼロ金利というのは異常な状態で、本来は金融パニックで取引停止状態になっていく短期金融市場をなだめすかす緊急策であった。いつの間にか、ゼロ金利が当たり前の10数年が過ぎている。


    リフレ失敗⇒金融緩和継続 ←→ リフレ成功⇒撒き戻し(量的緩和終了・金利引き上げ)


リフレの巻き戻しが、成功後には想定されているが、それは金融引き締め、財政出動縮小、国債売却(長期金利高騰で住宅ローンにダメージ)ということになる。それが実現できるのか?リチャード・クーはもともとリフレ反対の財政出動主義者だったが、国債の混乱と長期金利の危険を指摘しているようである。
物価上昇で日銀に出口政策検討求める声-目標達成後では金利に混乱も(2014/1/17ブルームバーグ)

*中央銀行が購入した国債を売却すれば量からいって国債大暴落になる。では満期まで保有していれば中央銀行のバランスシートがおかしくなる。

*リフレ政策を世界で最初に実施したのは世界恐慌時の日本の高橋是清であったが、物価高騰実現後に歳出削減のための軍事費削減に手を出して暗殺された。つまりリフレ政策としては完遂しなかった。
*2013年度の国債取引は短期国債を除き過去最低売買高となった。日銀の存在感が増すと、国債市場の流動性が低下する。


黒田総裁に若干の誠実さがあるとすれば、「2年間」という短期決戦だということだ。つまり2016年には答えは出ている。そして米国FRBが願っている予定どおりの緩和縮小が続くなら年内に米国量的緩和も終了するし、世界の金融環境も別次元に移行している。


つまり金融史という点では、我々は生き証人となるのであろう。