出口戦略を明確にしない中央銀行
イギリス、アメリカそして日本が現在リフレ政策を行っている。欧州(ECB)もついに控えめな民間債権(ABS債)による量的緩和に踏み切る予定だ。
・ECBのABS買い入れは「疑似」量的緩和か(2014/9/5ウォールストリート・ジャーナル)
低成長やデフレに陥った先進国が最後に辿りついたのがリフレ=金融量的緩和政策と言えそうだ。
■量的緩和の段階的縮小、クスリはいずれ減らしましょうね
米国は1発打ってもダメ、2発打ってもダメ、そして3度目の正直という第三弾量的緩和(QE3)という帰結となった。
それゆえ、FRBは何としても量的緩和を無事終了させたいようである。QE3段階的縮小(テーパリング)の発表直前の2013年5月に株価は暴落している。あたかも、まだ注射を止めていないのに「注射はいずれは止めます」と言っただけでまた病気になってしまったようなものである。
・株・債券急落、円高巻き戻し…市場を混乱に陥れた“バーナンキ・ショック”(2013/5/24ダイヤモンド)
*2013年5月にバーナンキ議長はリフレ政策はいずれ出口戦略に向かうことを指摘しただけだったが、アベノミクス株式高騰も含め暴落することになった。個人投資家は逆張りで強気一辺倒だったため大きな損失を被ったとされる。
そこで、経済指標(とりわけ労働指標)が改善しても、ゼロ金利政策による金融緩和自体は「相当の期間」続くことを米FRBはしつこく強調して市場をなだめながら現在に至っている。また米国の量的緩和自体は今年秋が終わる頃には終了していることになるからもうすぐである。利上げ自体は翌年が予想されている。
・【発言】イエレンFRB議長 「QEが終了後も相当の期間、低金利は継続へ」(2014/6/19フィスコ)
・FOMC:低金利「相当な期間」維持表明-出口戦略で新指針 (2014/9/18ブルームバーグ)
*市場の関心は「では利上げがあるのはいつだ?」になっている。それゆえか、経済絶好調のデータが出ると株価が下落するという奇妙な状態となった。逆説的に言うと、現在の株高はリフレが作り出しているのであり、「リフレが終わるならリスク資産売り」という投機になっている。
通常 現在
経済好調→株価上昇 経済好調(緩和不要)→株価下落
ク、クスリが切れるとだめだああ
量的緩和とゼロ金利による金融緩和は、経済の「自然の活力」ではなく人為的操作である。
つまりクスリを打って体調を改善させているので、いずれはクスリをやめるのが「正常化」ということになる。「リフレが終わるならリスク資産売り」「緩和から引き締めに転じるのなら売り」というあからさまな市場の動きに対して、当局にはどうやってクスリを減らし・止めるかという戦略が必要となる。それが出口戦略というものであろう。
乱暴に言えば、リフレの出口戦略はリフレの巻き戻しになる。
実は出口はない?クスリはやめられないか
「出口戦略」というが、その戦略を発表すると金融相場は売りに転じ、せっかく膨らませたものが台無しになる恐れがある。
そうすると、出口戦略のことなど忘れてほしいのが中央銀行の本音であろう。経済が好調になれば、実業に着目して有望企業を買いあさってほしい。リフレ策終了と巻き戻しについては忘れてほしいと。
・黒田日銀総裁、金融緩和の出口戦略「具体策については時期尚早」 (2013/4/16日経新聞)
しかしそうもいかない。
これだけ影響力のある非常事態金融体制が導入されていながら「わからんぽーん」「ヒ・ミ・ツ」で適当にうやむやにはならない。金融の素晴らしいところは、人間のクソみたいな不安定で忘れっぽい情緒と異なり、借金と同じで決して消えないところである。結局、この国家的人体実験には、出口がないのではないかという話しもある。
・ロイター調査:日銀出口戦略「物価1%台から」の声も、国債売却困難(2013/5/22ロイター)
・日銀にも日本経済にも出口はない(2013/11/22池田信夫)
■現在のところの出口戦略
米国は2011年6月に一応『出口戦略原則』を設定している。イエレン現議長は更新版を今年後半に発表するとしている。
・【米金融政策】改めて出口戦略を考える(ニッセイ基礎研究所)
・日銀副総裁候補・岩田氏:緩和の出口は付利引き上げと国債売却(2013/3/12ブルームバーグ)
そこで明確となっている手順は、以下のとおりのようだ。
保有債券償還分の再投資停止(バランスシート維持停止)
↓
中央銀行準備預金の吸収(マネー縮小へ)
↓
政策金利の引き上げ(ゼロ金利からの脱却)
↓
保有資産の売却(バランスシート縮小へ)
↓
正常化完了!みんなが幸せに暮らしましたとさ
とにかく米国が出口に向かいつつあるので、日本として参考にできる事例になるだろう。
■保有資産売却できるのか?
さて、出口戦略は単純な巻き戻しなら、「買ったものは売る」ことになる。
・フィラデルフィア連銀総裁:利上げと同時に資産売却を-出口戦略(2011/3/26ブルームバーグ)
莫大な国債やREIT、米国の場合ならMBS債も売る?
どかあああん、国債やMBS債が暴落。これは無理そうである。財務省や金融機関が「今から一緒にこれから一緒に殴りに行こうか」と日銀を殴りに行くことになる。
少しずつ売るのも難しい。
中央銀行が売りに転じたことが察知されれば、その規模からして債券市場は一変して売り局面へ切り替わり、売るのがますます損になる。また高い時(不況時)に買い、安い時(好況時)に売れば損失が出る。中央銀行が損をした場合は、玉手箱ではないので政府が税金で埋めることになる(現在は儲けが政府に渡されている)。
■じゃあ、売らない!満期まで持っておく。
リフレ終了後に金利上昇・国債下落があった場合、保有債券の「含み損」が出る。ただし日銀の会計では満期保有前提で評価損を計上しないので単に信認の問題のみとなるかもしれない。
また長期債を売却せずに満期償還まで保有するのは、当然のことながら長期の時間を要する。現在の日銀の平均残存期間は7年程度であろうか。
*リフレ派から弾劾された白川前総裁が長期債の購入をしぶっていたのはこういうことである。
下手をすると、景気サイクルの中で、出口戦略完了にかかる時間が長いのでリフレ成功後の好況と次の循環型不況になっても出口戦略が完了していないことになる。再び不況・景気後退に入ったのに前回購入時の長期債が始末できておらず、新たな不況の下支えでまた債券購入による緩和をしてバランスシートの正常化が一向にできないということにもなりかねない。
これは、出口がないという帰結になる。やめられない止まらないかっぱえびせん!
■中央銀行の「逆ザヤ」超過準備付利
リフレによるマネー供給といっても、あなたにカネをばらまくわけではない。
基本的には中央銀行=市中銀行の間でマネーが動く。
市中銀行は国債を売って得た資金を中央銀行の準備預金口座に置いたままとする。そして法定準備額以上の超過準備に対し、中央銀行は利子をつけて払ってやっている。
・日銀当座預金は過去最高でもマネーが市中に流れないワケ(2014/7/4ダイヤモンド)
リフレ終了後に金利上昇となると、この超過準備付利も市場に連動して跳ね上がることになる。中央銀行が保有する資産は低利なので「逆ザヤ」になってしまいかねない。
こうした付利金利は銀行間マネー市場の下限として機能している。それゆえ、「逆ザヤ」解消のためにこの金利を引き上げると銀行間貸出金利の上昇を助長する恐れもある。
金利の不安、もう金利は押さえ付けません?
従来の中央銀行の措置は、金融パニックを沈静化させるための短期的処置であった。ところが現在各国で実施されている量的緩和は、長期金利も長期抑制する方策が打たれている。
マネーを流し込めば金利は低位に押さえやすいが、マネーを引き上げれば金利は上がりやすくなり、マネー自体の需給原理に従うことになる。そして金融緩和とは、カネをばらまくというよりも、金利を人為的に押さえ付ける点により深い影響がある。
*中央銀行から市中銀行にマネーが流れても、それが貸出にすぐにつながるわけではないので、ハイパーインフレに直結するわけではない。実際、つぎ込んでいるマネーの割りには銀行貸出が増えているわけではない。
*長期金利が下がれば、自動車、住宅の市場活性化に資することになる
マネーが多い(金利下落)←→ マネーが少ない(金利上昇)
それゆえ、出口戦略の完了とは「もう金利は押さえ付けません」ということだ。
そうすると、今までマグマのように溜まっていた矛盾が破裂するかもしれない。
つまり金利上昇が制御不能になる危険である。国債の流通量が多すぎる(金利上昇につながりやすい)という問題は、これまでは不況またはデフレゆえに銀行(特に地銀・信金)が国債投資に偏重したり、中央銀行が政策措置で買い入れたりして顕在化していなかった。
不況=株式下落・国債高騰(金利低下)←→ 好況=株式上昇・国債下落(金利上昇)
リフレが成功、というか物価上昇が達成されて好況に移るならば、低迷期の国債バブルの反動で、国債は通常以上に暴落する恐れがある。リフレ策とは、通常以上に大量の国債を購入するものであるからだ。リフレ政策を止めた後、どのように金利が反応するのか定かではない。
金利が急激に上がった場合は、やはり中央銀行が介入してマネーを供給することで金利を下げようとするものだ。
結局、緩和政策は止められず、出口はないことになる。
金利上昇に耐えられるのは力強い経済だけで、一般的に住宅ローン、クレジットカード、企業貸出に至るまで低金利環境にどっぷり慣れてしまっており(日本の場合ゼロ金利は10数年以上にもなる)、金利が上がる世界にどれだけ耐えられるか未知数である。そして誰が日銀購入分の国債を買い支えるのか?お前か?
更に金利と国債価格の相互作用による国債下落という資産問題により、保険、年金、銀行のバランスシートに大きなダメージを与える可能性がある。
*金利が1%上昇すると国債価値は5%下がるという。年金資産の価値が5%下がれば大きな穴となる。
・金融緩和の出口、長期金利急上昇の懸念 IMFが報告書(2013/5/17日経新聞)
*また短期的に金利が急騰すると国債等利付債に買いが戻り、逆に高配当株が売られるという現象が昨今の米国株式市場で見られている。
日銀は「増税しないのなら対応しようがない」
こういう懸念はあるが、もちろん「日銀がすぐさま応急処置してくれる、バカが騒ぐな何も心配ない」というのが平和な日本の大人の感覚である。
しかし、そこで日銀・黒田総裁は、「消費税増税しないのなら対応しようがない」と大きな杭を打ち込んだ。ここはかなりストレートであった。リフレ策が成功したとしても、前述のように出口戦略という前任未踏のリスクがあるが「対応しようがない/どうなっても知りませんよ」とは正直である。
・コラム:日銀総裁の発言に重み、消費増税延期なら対応困難も(2014/9/4ロイター)
・日銀総裁:増税しない方がリスク大きい(2014/9/14ブルームバーグ)
・インタビュー:出口意識した金利上昇は市場の警告=財政審会長代理(2014/6/11ロイター)
■要するに金利が問題
日銀のシナリオには、増税による赤字減らしで国債発行も減っていくという前提があったようだ。それならば、出口戦略のリスクを軽減することができる。日銀が購入量を減らすに従い、供給量も減っていけば、リフレ終了がもたらす国債と金利の動揺のインパクトは小さくなる。しかしアベノミクスの恩恵に対する疑念も生じているため、消費税再度引き上げは政治的なハードルは高い。
・消費税10%、賛成2割=慎重・反対論根強く-時事世論調査(2014/9/12時事通信)
*国債依存が怖いのは、よく吹聴されるような家計の借金のような問題ではない。
*国債それ自体が金融の基盤であり、景気と逆行して動く。国債過多は国債下落を誘いやすい。それゆえ国債金利が怖いのである。ここに介入し続けるならば、一旦非伝統的緩和策に入ると、出口はないことになる。
米国が先例になるか
出口戦略では米国が先行しているので、まずは今年秋以降の米国量的緩和終了後の世界を検証する時間がある。おそらく米国FRBはゼロ金利による緩和自体はなかなか止められないと思う。
・長期金利上昇は来年のいつか? 米国金融緩和策の出口戦略の罠(2014/6/2現代ビジネス)
さて米国長期金利はどうなるか?