金利にも相場がある
A銀行の10億円とB銀行の10億円に違いはなく、金利は金融にとってほとんど唯一の付加価値であり利益の源泉と言えるかもしれない。
親族があなたに資金を融通する時は無利息かもしれないが、営利金融業ではそうはいかない。そして金利には相場というものがある。リスクの高いところからは相場に比して高い金利を取ったりする。
LIBOR(ロンドン銀行間金利)はまさにこうした相場の指標となるものであった。これは国際的な複数の銀行による複数通貨に対する貸出/借入の金利平均であり、金融機関同士の無担保金利であるため市場のリスク状況を敏感に反映するものとされていた。
・LIBOR(iFinance)
*アメリカが世界経済の中心のようなイメージがあるが、LIBORが金利の王様であったのはロンドンがいまだに世界金融の中心の一つということなのである。
*LIBORは金融自由化が進む1986年に導入されて以来、金融の物差しとなっている。
こういうことからクレジットカード、住宅ローン、企業貸出において、L+αで金利設定されることが多い。また金融デリバティブにおいてもそのパフォーマンスを評価する指標となる。
LIBOR以外の同一の指標には、EURIBOR(ユーロ圏銀行間取引金利)やTIBOR(東京銀行間取引金利)がある。
金融のリスクとパフォーマンスの指標として
LIBOR等の指標金利を軸にすることは客観的かつオープンに見える。変動金利の更改においてそれが「ぼったくり引き上げ」ではなく、指標金利の変動にあわせた客観的なものだとアピールすることができる。
また金融機関/企業を対象とするリスク評価の客観的な一覧も可能となる。
さらに金融取引においてパフォーマンスを測る上で、受験の平均点のような役割を果たす。70点は悪くないように見えるが、平均点が80点ならばこれは良くない結果であり10点アンダーパフォーマンスしていることになる。とりわけ金利とかかわる資産運用においてはこうした指標は重大である。このように金融計算の欠くことのできない物差しとなっている。
*LIBORを指標とする金融取引は全世界350兆ドル(3京円以上)の規模ともされる
金融カルテル=胴元の結託
ところで金融市場という賭博場で胴元達が結託すれば、顧客はカモになり、胴元達は少なくとも損はしない。
*日経平均などの株式市場は公開市場ゆえの透明性で異常な動きが検知しやすいが、銀行間取引およびデリバティブ取引はほとんどが店頭取引すなわち非公開市場であり実態が見えない。銀行の報告を信じるしかない。
平均点をいじってしまえば、トレーダーはアウトパフォーマンスの結果を出しやすくなる。あなたの得点が60点のときに平均点を55点にしてしまえばあなたは相場以上の結果を出したことになる。そしてボーナスがもらえる。
また変動金利型住宅ローンの金利更改日(例えば月初)を狙ってLIBORを引き上げローン金利を高めに誘導する。これにより相場より割高なローン金利を支払わせることができる。こういう「せこい」小刻みな操作もあったことも疑われ、米国では各種訴訟が勃発している。
■LIBORは実勢レートではない
LIBOR等の指標金利は、複数の大手銀行(金利呈示銀行)の自主申告レートであって実績ではない。この申告レートはいわば気配値という各呈示銀行の人工レートであって実勢レートそのものではない。
報告金利が人工的なものである以上思惑もからむ。こうして複数の国際銀行が金利カルテルに手を染めていったようである。LIBOR/EURIBOR/TIBOR事件は金融危機をまたぐ複数の国に所在するトレーダーが関与し、複数の金融監督庁が自国の規制の観点から調査に及んだので全体像が膨大でわかりにくいものになっている。
*フィナンシャル・タイムズ紙では元トレーダーが金利粉飾が90年代から実施されていたことが暴露されている
・我々が信じる“金利”はどこに信憑性があるのか?(2012/07/24ダイヤモンド)
・LIBORめぐる不正操作問題 三菱東京UFJ銀行でも火の手(2012/08/29ダイヤモンド)
・欧州委、EURIBOR不正操作めぐりJPモルガン など6行に罰金を検討(2013/11/06ロイター)
・欧州委、制裁金2400億円 LIBOR不正で(2013/12/05日経新聞)
世界金融危機で更にどす黒い操作へ
LIBOR等指標金利の不正操作は、当初はパフォーマンスを良く見せることが動機であったようである。また、LIBOR金利報告担当と売れっ子のトレーダーという社内関係において前者は社内の地位が低く、「今度大きな取引があるんだ、頼むよ/このままじゃあ大損が出るんだ」などとトレーダーに協力することとなっていったようである。つまり金融機関の社内の利益相反である。そして先輩が後輩に頼むような形で利益相反の不正が進行していった。
だが2008年に世界金融危機が勃発して金融パニックが現実のものとなっていくに従い、もっと悪質な操作が行なわれていった。
■金融機関のリスクの粉飾と国家の関与
皆が安い金利で借りられる時、あなたが高い金利でないと借りられないとすると、あなたは経営のやばい不安な会社と言える。LIBORはそこでも重要な物差しとなる。
金融機関がやばいとどうなるか?世界金融危機ではリーマンのように破綻し大きなブラックホールとなるか、公的資金注入による救済となる。放置すれば世界恐慌に突入する。
どうすればいいか?
LIBOR等を低めに誘導すれば金融機関のリスクは時間稼ぎだが実態より若干小さく見える。まだ大丈夫だと。
こうした国家の不正関与の疑惑が世界金融危機において生じたのであった。
■米国のガイトナーの疑惑
2008年6月時点ではイングランド銀行キング総裁とニューヨーク地区連銀ガイトナー総裁の間でLIBOR粉飾の慣行が認識されていたが放置された。同年3月には既に米ベア・スターンズがサブプライム・ローン関連で破綻している。迫りくる金融崩壊を前にしてのことである。そして同年9月にはリーマン・ブラザーズが破綻し、米住宅金融公社が政府管理下になった。
・米NY連銀、銀行のLIBOR操作容認した事実ない=ガイトナー財務長官(2012/07/27ロイター)
■英国のタッカーの疑惑
2008年10月には、イングランド銀行タッカー副総裁がバークレイズ銀行ダイヤモンドCEOに対し同銀行のLIBOR報告金利が高すぎることを懸念していた。中央銀行として金融パニックの最中に自国の大手銀行のリスクが高く評価されていることが気になった。このやり取りで国家がLIBORを低めに誘導したと疑惑を持たれることになった。
・タッカー英中銀副総裁がLIBOR不正関与を否定(2012/07/10ウォールストリート・ジャーナル)
同月にはブッシュ政権ポールソン財務長官がTARPによる金融機関一斉救済が開始される。
金融機関のリスクを小さく見せ、金融機関救済において低めに操作されたLIBOR金利を基準に資金注入を行なったということである。
公的資金で大手金融機関を一斉救済という「強者の自由/自己責任の崩壊」の局面において、金融が崩れ落ちないようにするため「仕方がない」「そうしなければ大手銀行が次々と破綻し大恐慌に」という事態であった。
しかし、イザというときに金融機関のリスクの実態が粉飾されウソの姿が示されるということは、「絶対に潰れない銀行/政府が助けるから」という歪んだ資本主義が可能であることが暴露されている。
まあ、あなたはどんなローン金利であろうと、変動金利がどう跳ね上がろうと黙って受け入れるしかないかもしれないが。
日本でもTIBOR改革
LIBOR不正操作の事件によって日本のTIBORにも改革が実施されるようである。
・インタビュー:TIBORの適切な形成を期待=日銀金融市場局長(2010/7/5ロイター)
・日銀のTIBOR懸念はもろ刃の剣、銀行には打撃-狙いは円高回避か(2010/10/9Bloomberg)
・謎の告発本発売で関係者騒然 銀行が談合して金利レートを不正に操作!?(2013/3/26Business Journal)
・大手銀 金利不正操作か(2014/5/16しんぶん赤旗)
・全銀協がTIBOR提示行に点検要請、LIBOR不正操作問題受け(2012/7/19ロイター)
・TIBOR算出で改革案、大企業と銀行間取引も指標に追加=全銀協(2014/12/24ロイター)
これらは銀行界の独自取り組みだが全銀協が「制度に問題はない」と言いな
がら改革を進めるのは、実は問題があるからである。問題がなければ「何の改革も必要なし」と強気でいればいいのだから。
日銀はTIBORが実勢レートと乖離していることに懸念を示している。
「市場」という幻想/需給ではない価格決定(気配)
こうした「市場」と呼ばれるものは多くの場合歪んでいる。更に言えば、「市場」による価格形成も歪んでいる。
カルテルのような談合的な操作があり得るし、あるいは大きな仲介者の思惑がからんでくるからだ。相場が需要/供給で形成されるというのは、我々の素人的認識にすぎない。
相場は需給で決定される× 相場は仲介者の思惑で決定される○
そして相場が実態から乖離して動き始めることは資本主義経済にとって危険なことである。物差しが狂っていれば精密な機械は作れない。あなたのクルマのギアの寸法がいい加減だと運転中にいつか大事故が起こるかもしれない。
■株式市場等のマーケットメイカー
欧米の株式市場にはマーケットメイカーという地位を認められた金融業者がいて幅広い銘柄に常に売値と買値の気配値を呈示している。本来、ある銘柄を何日間も誰も買わないという事態もあるかもしれないが、マーケットメイカーがいるおかげでどの銘柄にも常に最新の値がつく。これは「市場の流動性に資する」として肯定されている。日本の東証などではマーケットメイカーの制度はない(ただし株式以外ではある)。
・マーケットメイカーとは(金融・経済用語辞典)
しかしそうなると株価は買い手と売り手によって決まるのではなく、マーケットメイカーが仕入れ在庫の中から売値と買値をつけているのにすぎなくなる。現実の需給が影響を与えないわけではないが、当然マーケットメイカーの思惑もからむ。ただの中立的な取次ぎではなく個々のマーケットメイカーは自己の利益の最大化のために働く。
*マーケットメイカーは証券取引所が指定する業者であり、誰も買わない時でも買う等の義務などを背負っている。ただし大暴落を買い支えることまではできない。
*マーケットメイカーは複数いるため両替屋のようにそれでも競争原理が働くはずだが、LIBOR談合のようなことが可能となれば相場を恣意的に動かすことができてしまう。
■公社債市場等の気配値
店頭取引が中心の公社債市場も似たようなものである。
公社債市場について市場総合の気配値が公表されており、これが各種銘柄の相場/目安となるが、これも実績値ではない。売買の参考値に過ぎない(この価格で買えることも保証されていない)。ただし資産運用において市場の推移を測る基準として活用されているので実態とかけ離れていれば問題となる。
・公社債基準気配発表制度の見直しについて(日本証券業協会)
LIBOR等と同じように証券会社による自主申告である。証券会社も仕入れ在庫の中から売値と買値をつけているのにすぎず、そこには思惑もからむ。中立的な取次ぎではなく個々の証券会社は自己の利益の最大化のために働く。
実勢レート導入そして自己取引排除
結局、どれだけ実態を正確に反映できるかが問題であろう。LIBORなどの場合は実勢レートに近づける必要がある。ありもしない基準が一人歩きするようになれば市場は合理的に作用しなくなり、自由主義市場経済を頓挫させてしまうことにもなる。
*莫大な簿外債務や見えない損失、架空の売上や費用、ウソの相場などが肥大化していくと、下り坂に入った途端に崩落してしまいかねない。
■仲介はあくまで中立的に
また胴元の不正を防ぐ端的な方法は、金融仲介機関の自己取引(自己勘定取引)の禁止であろう。利益相反の根を断ち切る。そうでないと中立性は維持できないだろう。それぞれの担当部門が一緒にメシを食いに行くのを禁止しただけでは利益相反は防げない。とりわけ会社が傾いた時、不正に手を染める誘惑が生まれる。
*ウォール街は手足を縛られ薄い仲介料しか稼げない商売に押し込まれることには抵抗する。
*日本の60年代証券不況の裏には、「推奨販売」という形で証券会社が自己の仕入れ在庫消化を推し進めた結果の高値形成マジック崩壊があった。現在は「推奨販売」は禁止されている。
*「この株は良いから買いましょうよ」というのはウソで、「私の在庫処分のため/私の利益獲得シナリオ実現のためこの株を買いましょうよ」だったのである。
■金融肥大化には経緯がある
要するに世界大恐慌によって生まれたグラス・スティーガル法(1933年)の法制の復活が必要であろう。
そしてグラス・スティーガル法を骨抜きにしたグラム・リーチ・ブライリー法(1999年)の法制の撤廃が必要であろう。この悪法によってシティグループの誕生を助けるために作り出された銀行・証券・保険の統合/金融持株会社制度は、不健全な財閥「大きすぎて潰せない」という巨大金融グループを生み、複雑な利益相反の温床となっている。そして金融会社の自己責任の原則は、公的資金の注入でぽっきりと折れてしまった。
・グラス・スティーガル法(wikipedia)
・グラム・リーチ・ブライリー法(wikipedia)
■金融のあるべき姿を模索すべき
実業が低迷する中で金融業だけが活況という事態は既に異常であろう。金融はそもそも経済活動の媒介に過ぎず、実業と乖離して高いパフォーマンスが出ること自体が不健全であろう。また昨今のように中央銀行の追加緩和(リスク資産が短期的に跳ね上がる)ばかりを心待ちして流動性依存になっているのも問題であろう。
*緩和なら買い、引き締めなら売りというならば、当局は緩和し続ける以外になくなってくる。想定以上の緩和が続くことになる。
*日銀の黒田総裁は2%目標達成困難という実態の中で追加緩和を否定し、直後に株価崩れる
*既に日銀は昨年にも追加緩和しており、このままハシゴだけ上げていくと降りられなくなるリスクも認識しているようだ
金融の改革は、そもそもリフレ政策によってパラダイム事態が揺れ動いており、いまだ五里霧中のようだ。