アメリカは途上国か?
地球温暖化対策の国際的枠組みを設定するCOP15で、衝撃的な議長案が出された。
欧州と日本が重い足かせをつけられる一方、BRICSにまぎれてアメリカも緩い責任にとどまるという議長案らしい。米中接近というのは、日本にとってずっと頭が痛いテーマであったが、アメリカはむしろ戦略的にこれを進めている観すらある。松下幸之助が唱えた、アメリカという親分の下で采配をふるう大番頭国家=日本、というのは、今では陳腐なつぶやきですらある。
・先進国反発=排出削減、米中と同一枠組みで(2009.12.12時事通信)
・日本は議長案拒否…途上国規定に不満(2009.12.12読売新聞)
先進国 vs 途上国という構造で語る報道もあるが、アメリカが途上国側にいるのは納得いかない。
今後の世界経済はBRICSなど新興国が牽引していくことが目に見えているわけだが、そこで米中に損がない世界が着々と構築されていっているような気がしてならない。
環境というグローバルな課題の中で、着々と戦略が仕込まれているような気がしてならない。もちろん鳩山政権による「温室ガス25%削減」には戦略を感じないが。結局、環境問題も経済戦争が背後にある。
環境問題とスパコンと農業
日本のスパコン事情
ところで政府民主党による目玉(政治家主導の予算編成)であった「事業仕分け」では次世代スパコン開発が大きな話題となった。結局、政治判断でスパコン開発予算は復活するらしい。
・仕分けで凍結、スパコン予算が復活(2009.12.09読売新聞)
「何のためのスパコンか?」という指摘もあったが、科学技術の発展云々という文科省らしい曖昧な回答しかなかった。そもそも通産省から文科省へスパコン開発が移った時点で、もっと明確にされるべきことだった。スパコン開発擁護で声をあげたノーベル賞科学者らは、やはり明確にできなかった。科学技術振興という抽象的な目的では明らかに足りない。
戦闘機を開発したら、同盟国に売ることも念頭にすべきなのだ。投資はどこかで回収されなければならない。国策はしたたかでなければならない。
70年代に世界を席巻した日本製スパコンは今やかなり下位にある。ナショナリズムは否定できないが、情緒的な「日の丸」志向だけでは世界をリードできない。
・日本のスパコン性能22位(2009.06.24CNET)
・日本コンピューター産業の敗北
日米貿易摩擦の一環である「日米半導体協議」などを経て日本製コンピューターの突出が押さえられ、ブラックボックスであったコンピューターの汎用化・オープン化が進み、さらに今日では分散コンピューティング・グリッドコンピューティングなど、スカラ型へ向いた傾向が一層強まっている。日本製の高価なブラックボックスを必要とする必然性が弱くなっている。また、一つのシステムを多様なハード・ソフト製品で構築する水平分業型がITではもはや当たり前となっている。属人的結合は価格優位性で壊されている。
日本コンピューター産業の強みであったのは垂直統合型のシステムであった。コンピューターに限らず「親方日の丸」的な結合のせいか、垂直統合型の製品で日本は圧倒的強さを誇る。その品質は神話的ともいわれる。
だから、ITの潮流がすでに日本の強味を打ち消す方向になっていることが問題なのだ。世界一の箱を作っても、もはや勝てない。モノづくり大国日本は垂直統合型ゆえの大国だったが。ITは日本でも盛んになったが技術は圧倒的に輸入超であり、脚光を浴びているのはIT技術を活用したサービス業というだけである。
・あらためて衝撃-日本のソフト産業を統計分析(2007.05.21@IT)
スパコン開発で主役であったベクタ部を担当するNECが途中で降りていたことが、「事業仕分け」であまり報道されなかったのは不当だった。NECは独自のベクタ型をすてて、IBMなどがリードし市場性のあるスカラ型へ転換するつもりである。これまで日本メーカは官界にくっついて開発費を半分もらい、後半分をごまかしたり、スパコンを売るために90%値下げなどするというやり方だった。それはもう商売ではない。
・税金と人材を浪費する「ITゼネコン」 (2008.05.20ASCII)
・NEC、スパコン撤退を正式発表(2009.05.14読売新聞)
・世界サーバ市場(2009.05.29itmedia)
・世界パソコン市場(2009.04.16ITPRO)
・世界半導体市場(2008.04.03ガートナー)
・世界市場で蚊帳の外,日本携帯メーカー(2007.07.02ITPRO)
・沈没した「スパコンの戦艦大和」(2009.11.15池田信夫blog)
・国産スパコンとガラパゴス携帯(2009.11.30森田桂治)
ベクタ型・スカラ型の複合機というこのスパコンは一体何を目指しているのか?
科学者連中はITにおける日本のこれまでの圧倒的大敗ぶりをどう見ているのか?
アメリカのスパコンは何をするのか
アメリカのスパコンは台数ベースでも総計算能力でも世界一を走っている。日本は総計算能力ではかろうじて中国を押さえているが、やがて抜かれるだろう。スパコンの国内活用に熱心に投資する国内企業・国内銀行はいないだろう。彼らはアジアに行くだろう。
*ドイツは自前スパコンは弱いが、総計算能力ではアメリカに迫る
・何のために計算するのか?
高度な計算機は大砲弾道の計算や政府統計局の計算のために発展してきた。何人ものスタッフを用いて長期に手計算をするのは大きな負担であり、時間がかかることは軍事的にも不利だったからだ。
①軍事
アメリカのスパコンは最初、軍事とりわけ核兵器開発の計算に使われた。インターネット自体ももともとは軍事技術であった。日本では今後とも軍事利用は狭いだろう。軍は科学技術の最大のお得意先だが、日本にはハンデがある。
②気象
気象観測計算などは先進国どこでも需要がある。だが、ここもIBMのスカラ型が浸透していっている。ただの国内天気予報ではなく、世界の商品作物の動向を読むための商品先物市場のためにも、世界気象予測は重要であろう。それは衛星など宇宙開発技術とも関連してくる。アメリカは宇宙開発では明らかに先行している。
③医薬品
医薬品メーカの上位10社の多くはアメリカが占め、スイス・フランス・ドイツなどが加わるといった感じだ。日本の医薬品メーカは国内市場を占有してきたが、自由化が進むと劣勢になり、買収や防衛を行っているが、海外展開は海外特有の規制などがあり、製造業の海外展開よりも障壁が高い。副作用などについての考え方も異なる。
・2007年医薬品メーカ売上ランキング(ユート・ブレーン)
④GM作物
アメリカはスパコンを軍事に使い、医薬品開発に使い、GM作物に使い、衛星を打ち上げ、世界気象情報を穀物相場の予測に使っているだろう。それはアメリカの軍事的優勢を維持し、主要輸出品であるトウモロコシを強化するものである。
国連は食糧問題を掲げて、更なる農業への投資を各国に訴えている。食糧輸入国にせまる危機は絵空事ではない。さらに温暖化による気候変動も食糧に影響を与える。それらは、ちょうど大量生産可能で病気に強い遺伝子工学を駆使したGM作物を「飢餓克服」のため肯定する動きにもなっている。日本はともかく、米中ではGM作物が農業の中心になっている。アフリカでも着々とGM作物の展開がある。また、環境問題の高まりは、代替エネルギー源としてのトウモロコシや菜種は大量生産国を利するものだ。
・世界の飢餓人口10億人(国連世界食糧計画)
・飢餓人口10億突破 「農業投資を」(2009.11.17朝日新聞)
つまりアメリカは第一次産品を押さえ、流通を押さえ、先物金融を押さえており、これを下支えするのがアメリカのスパコンだということだ。アメリカは「個人の自由」を重んじバラバラな国家という感じもあるが、国益に関しては、したたかに統合された意図=戦略があるような気がしてならない。環境を梃子に軍事・宇宙開発・IT・農業といった分野で、アメリカの覇権を維持するものだ。二酸化炭素取引などが普遍化すれば、アメリカ金融も息を吹き返すかもしれない。
空洞化が進むセンチメンタルな日本
一方、日本はどうだろう?軍事・農業・宇宙開発がダメなら医療は?
新型インフルエンザのワクチンは量的に国内では間に合わず輸入に頼ることとなった。イギリスやスイスの医薬品メーカは、培養による大量生産技術が日本より進んでいるということだろう。
・新型インフル不足分ワクチン輸入へ(2009.08.24スポニチ)
薬害エイズ問題で、旧厚生省と国内製薬メーカや医学界の癒着が露見したが、日本というシマ(縄張り)を政官財の特権者が囲い込んで独占し甘い汁を吸うお決まりの構造では世界で勝てないだろう。医療政策についても、医者不足が言われる中、今なお抜本的解決策は示されてはいない。
単にセンチメンタルなジャパン
縄張りとセンチメンタルが支配する閉じた雰囲気の共同体=日本は、どこへ行こうというのか?
虎の子の製造業はいまだに強い。しかし、アジアへの工場移転はとまらない。円安へ誘導して製造業で外貨を稼ぎ、石油を輸入し、公共事業(土建業)でばらまいて国民を養う構造は終焉しかけている。なによりも、この先、雇用を生んで失業を吸収する産業が見えない。土建業に代替するインパクトをもつ国内産業が見出せない。
・もう儲からない!沈没ニッポン見限る31社(2009.12.08ゲンダイ)
・円高で日産・ホンダが調達刷新・部品海外へ(2009.11.25日経BP)
成長率の高い国へ投資したほうが、成長率の低い国へ投資するより儲かる。その単純な論理からすれば、産業や資本が海外へ流出することは避けられない。ましてや中国・インドあわせて20億以上の人口がある。デフレで税金やコストが高く失業にあえぐ先進国に投資したいだろうか?
・投信選びBRICS徹底特集・経済成長率(マナックス証券)
派遣制度を維持できたとしても、流出はとまらないだろう。アジア諸国の2倍はする法人税や複雑な行政への対応などの規制緩和を進めても同じことだろう。旧社会主義国の世界市場参加という大きな歴史的転換によって、微修正程度ではすまないのだ。ただの不況ではない、ということが未だにわかっていない。
日本に軌跡の復興と成長をもたらしたもの、政官財の連携による基幹経済振興・極東の反共防波堤という地位・自由に輸出し、輸入は鎖国的といった利点・上層部流動性をなくし競争を排除した相互扶助的取引共同体(ゼネコン・カルテル)・属人的ビジネスそういった諸々が、経済大国となることによって、バブルによって、そして冷戦が終結することによって、仇となって日本経済を苦しめる。
大黒柱である中高年は明らかに日本社会や文化の劇的な変わりようについて行けてない。しかしハンドルを握っているのは彼らだ。
日本を世界の自由都市として解放する?開かれた観光大国で簡単に移住でき、税金がタダに近く、行政を気にせずに自由に商売できる国に?
それとも石油も輸入しない自給国家を作り上げるか?そんなことは政治的には不可能だろう。
今、NHK大河では『坂の上の雲』が放映されている。近代国家の形成に向けて自らが国家を背負おう気概をもった明治男たちの物語である。しかし、ナショナル経済体制の瓦解が今の日本の混乱をもたらしているのだから、これは時代錯誤なのだ。国家を背負う気概をもった男達の末裔が現在の官僚国家を生んだというのに。。いつまでたっても司馬遼太郎とは。。ローマ人によるローマから、ローマ人によらないローマ帝国を形成するような劇的な変化が必要なのだ。厳しくなる現実にセンチメンタルに反応しているようでは、日本の衰退は確実であろう。
・ドラマ『坂の上の雲』にあって、『不毛地帯』にないもの。(中村修治/INSIGHT NOW)
次世代スパコンはどういう国策なのか?
産業空洞化の対策は?
野党自民党からも何も大胆な経済改革は提案されず、経済学者も何も語れていない。政府民主党は「無血革命」などと一部で賞賛されながら、なんら経済革命など起こそうとする気配もない。それどころか、外国人参政権や教育などリベラル法案の方を出したくてうずうずしている。
世界一の経済大国であり技術立国であったイギリスが衰退していったように、日本はこのままだと歴史的必然として衰退していくだけではないか。
日本はもう一回焼け野原になったつもりで、すべてをリセットとして考え直したほうがいい。
スパコンは計算するために開発するのであろう。神社に奉納するためではない。その開発マシンの性能だけではなく、総計算能力や台数も重要だ。