箱庭のあるガラス張りの巨大な建物。ボクはここの学生になる。

入口には総合病院のようなインフォメーションがあり、ボクはそこで学生証を手渡され
振り分けられたフロアへと歩いていく。

この学校は
学年ごとクラスごとに区画整理され、その境界は常に監視下におかれている。

この学校は十数年前…
学生サッカーで全国大会ベスト4までいった…ハズなんだ。

それなのに…。

その証拠はすべて消去され、
その記憶のある者は校長と若干の教師のみという。

ボクは何故この学校に来たのだろう?
うろ覚えな脳みそが、
「十数年前、ここの学生であったから」
…と語りかける。


各フロアにはずらりと書籍が並べられ、生徒は好きに読んで構わない。
しかしフロアから別のフロアへの移動は、団体で行わなければならない。

ガラスのような壁は
箱庭を挟んで違うフロアを覗き見ることができる。
みな同じような仕組みの中で生徒達はうごめいている。


ボクはノドが渇いてきた。
しかし…何かがおかしい。
フロアにはジューススタンドのような売店が必ず備えてあり、
飲み物も食べ物も沢山扱っているというのに、

水がない。

水…水…

ボクは決まった時間にクスリを飲まねばならないのに、
水がない。

その時。

ボクは突然、
十数年前のことを思い出した!

そうだ
あの時…
全国大会ベスト4までいったサッカー部員たちが…

集団で

自殺した。

高見を望み…と泣きながら

この学校の屋上から次から次へ飛び降りた…

あぁ。
あの時からこの学校は全てが管理下に置かれ、
生徒の一挙手一投足が監視されるようになったんだ。
水はODを防ぐために敢えて置かなくなったんだ。


気がつくと
ボクは古株の教師たちに囲まれていた。
校長もいた。

校長は涙しながら
「今まで私は自分の人生を掛けて、この学校を守ってきた。
あの悲惨な事件が表面に出ないよう隠し続けてきた。
それなのに…キミは…
キミは何者だ?
何故、今になって、復学しにきたのだ?」


ボクは直感した!
「逃げなければ!」

彼らの隙間をついて走り出す。
学生たちが呆然と眺めている。

建物からは容易に逃げ出せたが、
先程の教師たちが…車に乗って追ってくる!

街中はカーチェイスと化す!
しかしボクは身ひとつしか無い!

ボクは道路を横切り
民家をくぐり
ベンチを越え
植木に潜み
…他の教師たちの車を巻いた。

しかし校長だけはピッタリと追ってくる。
校長は、
ハンドル握る手にポタポタと涙を落としながら
「私は私の命に代えても、この学校の秘密を守らねばならない」

アクセルいっぱい踏み込んだ校長は、ボクをめがけて向かってきた!

ボクは…
ボクは…っ!

ボクのアタマに
十数年前の事件が鮮明に蘇る。

彼らは、何故、死を選んだのだろう?
学校全体がベスト4に湧き上がっていたあの時、
彼らの目には寂しさだけが残っていた。
死の原因は分からないまま…

ただ知っているのは

ひとり、またひとり、と、飛び降りていった光景…
彼らの涙が粒となって、いくつも空を漂った箱庭…

ボクたちは
何を求めて学校に通ったのだろう。
彼らの死は、ボクらの「死」でもあったのだ。

そして校長は…その全てを背負って生きてきた。
あのガラス張りの「要塞」は
校長の命だった。


…気がつくと、
校長を乗せた車は対向車と正面衝突し、
黒い煙とオレンジの炎を絡ませながら
ゴウゴウと燃え盛っていた。



…そこで目が覚めた。
都道府県各地から、被災で住居を失った人々への公営住宅の貸出が始まっている

入居の抽選会場で
住居が決まって喜ぶ人
落ちてしまい差別だと怒る人
次を期待しますと語る人

そんななかの
当選したある老夫婦をテレビが追った

…その老夫婦のやり取り

窓の外を見て
「景色、悪くないね」「そうね」

室内(3K位の間取り)を見渡して
「部屋が狭いね、少ないね」「そうね」

インタビューを受けて
「(震災に遭ったことを)運命だね(狭い公営住宅に住むことも)運命だからね」「そう、運命だからね」

…はっきり言わせて貰うが、この老夫婦は最低だ

貴方達の裏で抽選に落ちた家族がどれほどいると思っているんだ?
老夫婦2人で3部屋って、普通に都内で暮らすにしたって広いんだよ?
景色がどうこうとか 何を望んでいるのか?
そんなにケチをつけたいなら、地元に戻ればいいじゃん?
他に住居を必要としている家族が沢山居るんだよ!


一方。
避難場所近くの仮設住宅に入った別の老夫婦の会話

「電化製品も全て揃ってありがたいです」
「とりあえず住む場所が決まってホッとしました」
「入居が決まったのは嬉しいけれど、後ろにある沢山の避難所生活の人達を思うと、両手をあげて喜べない」
「兎に角今は頑張ります」

なんだなんだ?この差は!同じ被災者!同じ老夫婦!

かたやどんより不服面満面にして、運命運命と苦笑いする

かたや笑顔で、今できる環境下で頑張りますと笑顔でいる

同じ環境下…否!後者は仮設住宅という住居としてはあまり快適ではない建物なんだぜ

別に感謝しろとか謙虚であれとか、そーいうことを言いたいんじゃない

きっと個々の性格上の問題なんだろうけれど…
きっと被災者の人々も人間だからなんだろうけれど…


それにしたって
不幸を全部背負って「なぜ自分が~自分が~」「同じ被災者なのに扱いが違う~」
と他者を妬むのって、どんだけ命が低レベルよ?

キリスト教だって、七つの大罪で一番重いのが「嫉妬、妬み」

仏教だって、一番汚れた生命が「嫉妬、妬み」


そんなにご不満ならさ、
前者の公営住宅に当選した老夫婦、もっと切羽詰まった状況下にある家族に譲ったら?
で、自分らは希望の環境探し続ければ?

3部屋あって、見晴らしよい上層階の部屋で、何が「狭いね」だよっ!「見晴らし…悪くは無いね」だよっ!
それが首都圏内の公営住宅やアパートの普通の間取りで、ごく一般的なライフスタイルなんだよっ!
あなた達に良くない部屋を提供したわけじゃ無いんだよっ!


こういう人間は 被災者でなくても周囲を妬んで生きるんだろうな。

「なりたくない大人」の、いい見本だよ
歩道に人が倒れた。背の高い男だった。知らない人なのに顔見知りのようだった。

周囲にいた数人が手当を施したが男の意識は回復しなかった。
私はAEDらしきものを持ってきて甦生を試みた。それは簡易呼吸器で、喉元から17cm下をナイフで切り開きそこに呼吸器を取り付ける仕組みだった。
その男の顔を覗きこみ無表情な土気色に泣きながら、手にした専用ナイフを鳩尾に充てるのだが、失敗が怖くて刺せない。
しかし刺さないとこの人は死んでしまう…漸く刺した。ぐっ…と、手応えがあった。
その指した箇所に簡易呼吸器をつけ、詰まった血を口で吸い取って吐き出した。何回も繰り返した。
男の指先に付けた脈拍測定器が反応し、ゴホッ…と口から泡と血を吹きながら意識を取り戻した。私は泣いた。男は微かに笑ってくれた。

そばには大きな川が流れていて、川面を吹き上げる風が、流れながらに四季を表現していた。
風はとても力強く広大だった。私の背後からザアーッと吹き上げて、目の前に広がる景色は来年の春まで続いていた。
人の命も同じだ…私は自分が終わらなければいけないのだと感じた。関わった人々に感謝した。

意識を取り戻した男は簡易ながら傷の手当を受け終わり、仲間らしき友人達に囲まれていた。既に私とは別の時間軸に存在していた。

私は自分の身体がだんだんと枯れていくのが分かった。怖くはなかった。口のなかに甦生措置の時に吸い出した血の味が残っていた。それだけが悲しかった。


…目が覚めた。