「ゴーン・ベイビー・ゴーン」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

4歳の少女アマンダが何者かに誘拐される。彼女が大切にしている人形ミラベルと毛布1枚と共にいなくなってしまった。母親と伯母はマスメディアを通して犯人に訴える。その被害者家族の姿をTVで見る私立探偵パトリック(ケイシー・アフレック)とアンジー(ミシェル・モナハン)、彼らは失踪者専門の探偵家業を営んでいる。そこに捜索依頼を持ちかけてくる伯母、最初敬遠していたアンジーは、おぼつかない幼児誘拐の捜索に尽力するパトリックに従うようになる。だが事件は次第に謎が深まっていく…2007年製作。U-NEXTにて配信中。

 

ベン・アフレックが初めてメガホンを握った作品。社会問題を背景にサスペンス要素も加味された脚本は見応えがある。キモとなる低所得層の人びとの暮らしぶりを捉える映像が巧い。所々強引な展開もあるのだが、今作におけるテーマはイ・チャンドン監督作品にも通底する "倫理と規範" この忌避してしまいたくなる問題を提起している。

 

幸せとは自身が感じるものである。他者がそれをジャッジしていいのか。不遇な家庭環境はその人の自己責任に陥りやすく、周囲は容易く人権を軽視してしまう。果たしてその判断は正しいのか。弱者となる子供の冷遇は許されない。しかしネグレクトをしてしまう親もまた弱者ではないのか。子供を救う正義と誘拐という犯罪の狭間でパトリックは苦悩する。

 

誰もが過ちを犯す。この主題はあまりに深遠で尊い。私たちは自身が正しいと行動する。"こりゃまずい" と感じても自己弁護や言い訳を盾にして正当化する癖があり、そこにコンプライアンス上の是非は問われる。短絡的に対処できず情が絡むと事情はますます混迷する。人道的に判断するべきか、規律に従うべきか。例えるなら、オオタニ選手の通訳者が違法賭博に手を染めた事件、オオタニ選手の関与の有無、ここでも "倫理と規範"、通訳者の借金を肩代わりしただけじゃないか、そもそもこの事態をオオタニ選手は知らなかったのか、いやいや真相は隠蔽されてるんじゃないの、と各々の意見が交錯する。結論として正しくありたいがそれでは物事は収束しない。大切なのは "許さない" といって排他してはいけないこと。事件の真相を突き止めるパトリックはそこに気付いたのではないか。悔恨も含めて人はつながりをなんとか持続していくべき。同調する者だけのコミュニティはいずれまた分断を繰り返す、パトリックは最小のコミュニティから再出発するのだ。最後の台詞を含めてラスト名場面、やるねベン・アフレック監督。もといベンちゃん。

 

-----------------


ここまで読んで下さってありがとうございます。ブログランキングに参加しています。

もしよろしければ、↓下をクリックしてください。よろしくお願いします。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村