「PERFECT DAYS」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

東京の公衆トイレ清掃に従事する平山(役所広司)の日常が描かれる。老朽した木造アパートに一人暮らす平山は規則正しいルーティンを愚直にこなしていく。役所の演技力はカンヌ国際映画祭で主演男優賞受賞という評価に至る。

 

私たちの幸せはどこにあるのか。そのさまは "探す" のではなく、気付けばそこにしっかと "ある"。見えない "かたち" にたどり着こうと人は衣食住の暮らしにつながる消費へとすがりつく。そしてモノを "所有" しないと生活は幸せでないと決めつける。だが、その偏見は幸せの核心から遠ざかる不幸へと誘われる。主人公・平山の日常は質素で単調に見えても無常の日々はかけがえのない時間を体感している。ここから PERFECT DAYS という複数形に合点がいく。

 

トイレ清掃する平山の姿を蔑む人の心はさもしい、職業に貴賎はないし平山はその後ろ指に抗わない。ここで清貧を至高とする安直なテーマではなく、寡黙な平山の過去、悔恨と期待をないまぜていく心情に少しずつ触れていく。彼が洋楽に傾倒していた時期、姪っ子にニコと名付けたのは彼であり、彼の好きなヴェルベットアンダーグラウンド&ニコがゆかりであろうと想像し、そこから見えてくる在りし日の彼の生活環境、どこでそこから袂を分かつのか、その積み重ねが PERFECT DAYS だと私たちに訴えてくる。

 

平山、そして周りの人たちも良い面と悪い面が備わっている。平山の同僚(柄本時生)もまた不甲斐無さと慈愛の精神が互い違いに表出する。呆れるも愛おしい、その多面性は人として当たり前の様態であり、平山もまた何かしら欠落したものを補うのではなく、現在持っている僅かな優しさを大切にして行動する。それが洗面所で密かに取り交す "まるばつゲーム" として映し出される。

 

説明的台詞を排して、映像の "行間を読む" 演出をヴェンダース監督は気負わずみせてくれる。東京都内の再開発と旧市街のはざまを捉える映像センスや心地良い編集リズムに堪能する。ここんとこ作品がイマイチだったヴェンダース監督の力量がうかがえるのはうれしい限り、まだいけるよ。往年のファンとして、"作品" を "コンテンツ" と言って "銀幕" よりも "スマホ配信" で良かれと断じる輩と肌が合わない野暮として応援する。「お疲れさん!」

 

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