「あなたの名前を呼べたなら」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

経済発展するも階級格差が根強く残るインド・ムンバイを舞台に、アメリカ文化に感化されている御曹司と彼の住まいで働くメイドの二人は、因習に翻弄されて尊厳の不当な扱いに疑念を抱く…2018年製作のインド・フランス合作作品。インドの女性監督ロヘナ・ゲラは本作が長編デビューとして成果を挙げている。これからの彼女の動向に注目したい。AmazonPrimeにて配信中。

 

自由とは何か。この主題で構成された物語は、場面ごとに "裏切り" "失念" "諦め" を通して登場人物の内面的な立場がどんどん流転していき感情の彷徨を目の当たりにする。御曹司とメイド、同じ屋根の下だが二人を取り巻く生活環境は異なる。それぞれの親類や知人との関係は順風に進むことなく自身の処遇は常に揺れ動く。安定しない日常は社会のしきたりが起因するものなのか、それともそれに抗えない己の不甲斐なさなのか、核心はわかっているけど決断できない心の弱さを誰も責めることはできない。もどかしさ、しこりが残ってしまう世の常を問うている。

 

些細な挿話も伏線として活きてくる脚本の巧さ、色彩豊かな映像美によってメイドの心の迷走が如実に伝わりラスト見事に着地する。将来が不安なメイドの活路が見えてくる姿が勇ましい。予備知識なしで鑑賞することを勧めます。ほとばしる映画愛が今作に宿っている。

 

私たちは何かしらのニュース報道を見聞きして感情が揺れ動く。季節の到来を告げる映像で気持ち安らぎ、凄惨な事件を知って心ざわめかせる。しかし私たちは何かしらの出来事に遭遇しても、長い目で見ると生活にさほど変化は無い。社会というのはひとりの力では無力であり、大きなうねりには多勢の声を要する。変革はひとりの指導者の勇姿ではなく、世論の流れが時勢へと結びついていく。インドという大国も因習はさほど変わらないが、変えようとする民の思いが芽生えている過渡期であり、希望はそこに見えている。変化とは渦中では気付かない些細な日常と繋がっているのだ。

 

この国はどうだろう。"変えたくない生活" を逃げ口上とすれば、変わらないどころか悪くなる一方ではないか。政治という保障に無関心でいると、静かな抑圧によって生活は苦しくなる。どうすれば良くなるのか。ひとりの力ではどうすることも出来ない事象が民の声で変わる。決して "新しい戦前" にしてはならない。

 

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