聴覚障害の若き女性ケイコは、ホテル客室係の仕事とボクシングの練習に打ち込む日々を過ごしている。試合に出ても払拭されないケイコの思いは募り、一旦ボクシングの練習を休もうかと考えていた矢先、ジムの閉鎖が決まる…
難聴というハンデを背負うケイコは尊厳を勝ち取ろうとするストイックさを周囲の人々に見せるが、終盤 "ある事" に気付く。社会が自身に目を向けてくれない鬱憤を晴らそうとする彼女も同様に周囲の人々に目を向けていなかった。苛立ちは無自覚に他者との間に壁を作り "音" だけでなく "感情" も遮断していたのだ。成長するケイコは走り出す…弱者であるケイコの人間性を躍動させていく主題に好感をもつ。
さらにケイコの弟やボクシングジムの会長・コーチという人物像が設定として面白い。惜しむらくはボクシングの試合場面が魅力に欠ける、練習メニューの変化も乏しい。もっとネタとしてバリエーションを用意すべきであろう。ケイコ役岸井ゆきのの目力しか見せ場として印象に残らない。試合場面で無音にする効果によって、難聴の彼女の孤独感を際立たせる演出は避けているのか。しからば、試合中リズム感を編集等で表現するような "仕掛け" が欲しい。練習場面で見せるステップや弟のガールフレンドと興じるダンスシーンはその伏線ではなかったか。聴こえないケイコの内面に肉体が動く事で生じるリズムは映像表現としてアリなんじゃないかな。
観客それぞれの受け止め方に差があるので一概には決め付けられないが、登場人物の魅力は備わっているのに物語のカタルシスが及ばない。それでも巷で注目されている三宅唱監督の映画愛は伝わってくる。次回作が見たくなる映画監督のひとりとして応援します。頑張れ！お前も頑張れよ。（byジミーちゃん）
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