「ベイビー・ドライバー」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

この疾走感とグルーヴ感は巧みなる編集と台詞、小道具に至るまで映画愛に満ちたエドガー・ライト監督の演出から成り立っており、冒頭からラストまで身を委ねてこの世界観に浸れば私達もベイビーの隣にいることを感じる。ここから先はかなりのネタバレなので鑑賞後に読むことを勧めます。

 

冒頭のスバル・インプレッサを縦横無尽に滑走する逃走劇からタイトル・クレジットの長回しに至る場面構成の鮮やかなること、音楽のリズムに合わせた編集はエドガー・ライト監督の過去作やPV等に垣間見る彼の代名詞ともいえるテイストであるし、長回しは「ショーン・オブ・ザ・デッド」における主演サイモン・ペッグが家からストアまで徘徊する場面でも印象深いが、今作は主題の違いはあれど寡黙なる主人公 "ベイビー" の人物紹介としてキュートな印象を受ける。そう、ベイビーはあまり口を開かない。そこに洗練された台詞、そして決してテーマを声高に叫ばない緻密な表現力がある。ケヴィン・スペイシーが「アニメの台詞は腹が立つ」と云う背景もここにあろう。

 

名場面は数多くある。コインランドリーにて主人公ベイビーと恋人デボラの会話シーンで二人の身体が交互に入れ替わっていく様がまるでダンスを踊っているようであり、二人の電話のシーンでは彼らの背景で立ち振る舞うダイナーの店主と里親の老人によって夢と現実の狭間を表現している。画面の中の奥行きをベイビーとデボラの距離感や境遇として描いている。

 

登場する人物造形は皆面白い。観客が過去を知りえる人物は主人公だけであり、他の人物はそれを明かされないことで近寄りがたい怪しい人物として表現される。中でもジェイミー・フォックス演じるバッツの残虐性がこの物語にスリリングな要素を加味している。それはストアで万引きした大量のガムを車中に放り込むバッツの行為からベイビーが視線を向ける店員がいないレジの有り様により最悪の顛末を危惧してしまう見えざる恐怖が刻み込まれていき、その伏線があるからこそデボラが働くダイナーでバッツがレジに向かう瞬間、レジにいるデボラを守ろうと阻止するベイビーの行動が強く心に感じる。

 

小道具も芸が細かく、iPodのクリックホイールのグリグリ操作はそのままグルーヴ感へとつながる、これはタッチパネル操作では表現できない。またバットの服装は赤で統一されているのは "血" を連想させる演出だし、デボラのダイナー服の名札は男女の恋から生死の踏絵へと変貌する。

 

クライマックスはクイーンの「Brighton Rock」で文句なしにアガる。この瞬間こそ映画という麻薬が分泌される体感であり、より深くこの世界観を知りたい日本人が望むのは全ての楽曲に日本語歌詞を字幕として付けること、英語が理解できない輩はクライマックス手前のダイナーを舞台にベイビーとバディが対峙する場面に流れるバリー・ホワイトの「Never,Never Gonna Give Ya Up」でしか監督が意図する場面とシンクロする歌詞が分からないのが残念。 

 

ラストのベイビーが出所する場面。イヤホンをしない主人公に耳鳴りが聞こえないのは服役中に治療して完治したのか、それともまだ服役している彼の妄想なのか、観客に談義する余韻を残してくれる。破滅へと向かうクライムアクションに着地するかと思いきやハッピーエンドな恋愛映画として結実するまさに傑作、エドガーやったね!今年の暫定ベスト。

 

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