【Rewrite SS】『その先に』【1】 | 残留嗜好

残留嗜好

模索中

※Harvest festa!のネタバレを含みます。

















 ――何もかもが変わっても、変わらないものがあるなら。


 ――それは少しだけ、信じてみてもいいと思えた。







 数週間前。俺たちは神秘としか言いようがない存在と邂逅した。

 俺の所属するオカルト研究会。学園の影に潜み、世界の裏で蠢くUMAや魔術、超能力といった怪奇現象たちの真実を暴く秘密結社――を期待できたのは最初だけで、実態は自堕落お嬢様な加島朱音会長率いる能天気お遊びクラブ。金銭感覚がアホな会長の散財により資金難に陥った俺たちは紆余曲折の末あるクエストに挑むことになり、最終的にオカ研にとっても俺個人にとっても予想以上の成果を得ることとなった。

 そう、あの一件で俺と会長は大きく距離を縮めたのだ。

 ずっとずっと待ちわびていた、進展、というやつをしたのだ。

 その筈だったのに。

「進展がねぇー……」

 HR終わりたての教室。

 いつもならばオカ研部室へ向かうべく意気揚々と立ち上がる時間。

 しかし今日の俺はそうせずに、意気揚々と部活へ向かうクラスメイトを横目に自分の机に突っ伏していた。

「ああ……まったくだぜ。進展がねぇ」

 俺の溜息交じりの呟きに応じて、吉野も同じ呟きを漏らした。

「いくら恐竜が古代の神秘だからってこのレアリティ設定はおかしいぜ……ウルトラレアどころかレアすら一枚も出やしねぇ」

 吉野はカードパックの開封をしていた。トリキングの新エキスパンション、恐竜来襲編だ。

 幾多の鳥類を操り空の王者を決めるカードゲーム、トリキング。鳥類の祖先が恐竜だという強引な理屈でついに恐竜が登場してしまったわけだが、そのカード構成もたいがいおかしくて十数箱も箱買いしてようやくレアが一枚当たるかどうからしく、多くの子供達やホビー愛好家が今の吉野のように涙を呑んでコモンカードの束を握り締めているのだという。

 ……考えたくないが、もうこのゲーム終わりが近い気がする……。

 小遣いの大半を費やしたというカードパックの山を前に悔しがる吉野に、俺は自分のデッキから一枚のカードを抜き出し向ける。そのカードを見た吉野は信じられないという面持ちで目を剥いた。

「なっ……そいつは幻と呼ばれる伝説のウルトラレア、ティラノサウルス! どうしててめぇがこれを!?」

「ふ、神の加護ってやつかな」

 衰退を感じさせるとはいえ俺も一介のデュエリスト。発売と同時にカードショップに走ったわけだが、そこでカードパックの一つを手に取った瞬間、その右手に電流が走ったように感じた。不思議な直感に導かれるままそのパックを購入、開封するとそこにはこいつが鎮座していたのだった。

 あのクエストの折、俺は正真正銘本物のティラノサウルスの化石に触れた。

 あいつがこのカードを導いてくれたのだと、信じるのが粋ってものだろう。

「だけど、俺が欲しいのはこれじゃないんだ……」

 このカードを引き当てたときにはそりゃもう喜んださ。勢い余って小踊りするくらい。でも、今の俺はそんな喜びをも打ち消してしまう懸念を抱えているんだ。

 ホビー仲間にレアカードを見せ付ける優越感も、心の隙間を埋めてはくれない。

 悔しげに歯を食いしばる吉野を余所に、俺は再び会長へと想いを馳せる。

 結局の所、関係の進展は上手くいっていなかった。

 あの日。恋人という関係にはなれなくとも、気持ちは通じ合ったものだと思っていた。

 自惚れと前置きをつけなくとも、会長は俺に少なからず好意を抱いてくれていると思う。あれ以降の会長の態度を見てもそれは間違いない。

 ただ、その態度が問題だった。 

 あれはあの『ご褒美』をもらった翌日のことだ。

 意気揚々と部室に向かった俺を待っていたのは、挙動不審な会長の姿だった。

『っはよざいまっす! 会長!』

『お、おおお、おお』

 めっちゃどもってた。

『おはよウ、コタロウ』

 めっちゃ片言だった。そして即効で目を逸らされた。

『じゃア、さようなラ』

 そして会長は逃げ出した。

『ちょ、どこいくんすか会長!』

 呼び止める間も無く、その日はそのまま帰ってしまったらしい。

 何かしてしまっただろうかと不安になったが、おおかたあの『ご褒美』が今更恥ずかしくなって照れているのだろうと思い至り、そのうち元に戻るだろうと軽く考えていた。

 しかしそんな態度は何日経とうと一向に直らなかった。

 偏屈で意地っ張りな会長殿は、俺を徹底的に避けることを照れ隠しに選んだのだ。

 進展どころか会話すらまともにこなせない。そんな様子でかれこれもう数週間。そのうちどうにかなるだろうと思っていたら今の今までどうにもならなかった。

 どだいあの人に素直さを求めるのは無理とはいえ。もうどうしていいやら。

「なんて、ぐだっててもどうにもならん」

 なんにしても諦める気はないんだ。

 押してダメなら押し倒せ。それくらいじゃないと会長の牙城は突き崩せない。

 これは俺と会長の戦いだ。男と女のラヴゲームだ。絶対負けてやるもんか。

「よし天王寺、俺とデュエルしろ! いくら恐竜がかつての大地の覇者だろうと、その栄華はもはや過去の話! 鳥類が今の支配者であることを思い知らせてやるぜ!」

「悪い吉野。今の俺の戦場はここじゃないんだ。デュエルはまた今度な」

「逃げるのか!? これほどの相棒を引き当てておきながらお前はまた!」

「言ったろ。俺はもうトリのことだけ考えてればいいだなんて思えねえんだ!」

 鬱屈しかけていた心を鼓舞するように勢いよく立ち上がり、吉野に手を振り教室を出る。

「けっ! もうどこへなりと行っちまえっ!」

 吉野の応援を背に、勢い強く部室へと歩き出した。

 

 

 

「ちぃーっす。あれ、会長なにしてんすか?」

 部室に入ると、会長が妙に慌てた様子でうろうろしていた。

「こ、瑚太朗!? い、いいえ。なんでもないわ」

「……なんかありました?」

「なにもないワ」

 ……怪しい。

 がしかし、ここ最近の会長はいつもこんなんだったと言えばこんなんだった。いつも通りと言えばいつも通り。

 ……どうなんだ?

「じゃ、じゃあ、私は用があるから行くわ。戸締りはお願いね」

「あ、ちょっと!」

 呼び止める間もなく会長は部室を出て行ってしまう。

「……戸締りって、俺鍵持ってないし」

 部室を見回すと、会長の机の上のノーパソは点けっぱなしだし缶コーヒーは飲みさしだ。用事があって出て行ったようには見えない。

 また逃げられた。

 どうしたもんかと、ひとまずいつもの定位置に腰を降ろす。ブログのチェックでもするかとノーパソを引き寄せて、見慣れない封筒が置かれているのに気付く。手にとって見ると宛名には『天王寺瑚太郎様へ』と書かれている。

「俺宛? 誰からだ?」

 それはかわいらしい封筒だった。

 女の子が好んで使いそうなファンシーなデザイン。ご丁寧にハートマークのシールで封がされていたりする。

 それが示唆する封筒の中身に思い至り、僅かに胸が高鳴る。

 ……俺宛だし、開けてもいいよな?

 ともすれば不要な許可を誰にともなく求めて、ゆっくりと封筒の封を開ける。

 入っていたのは一枚の便箋。書かれている内容に目を通し、予想が当たっていたことを確認する。

 手紙の内容をまとめるとこうだ。

『大切な話があるので放課後中庭に来てください』

 これは、つまり。

「ラ……ラブレター! うそぉ、マジで!?」

 不肖天王寺瑚太郎、ラブレターなんて貰ったのは生まれて初めて!

 我が世の春が来たぁ!

「だ、誰から……って、書いてない……」

 封筒を表裏めくって隅々まで確認するがどこにも差出人の名前は書かれていない。

 そもそもどうして部室に置かれていたのか。ここは仮にも秘密結社の拠点。そうでなくとも会長の引き篭もりルーム。そうそう部外者が入れるものじゃない。

 まあ、会長に釣られた変態共がほいほい入ってこれちゃう程度のセキュリティだけど。

 ラブレターの置き場所としては下駄箱や机の中あたりがセオリー。わざわざ部室にまで来て置いていくとは考え辛い。

「……あれ? じゃあもしかして」

 部外者がこの部室を置き場所に選ぶとは思えない。

 なら、このラブレターの差出人はオカ研の関係者?

「小鳥かちはやか静流か……それともまさか委員長!?」

 オカ研のメンバーの顔が思い浮かぶ。彼女達がラブレターをくれる。考え辛いが嬉しいことだ。

 だけど、その前に。考えるべき本命がいる。

 ……これ、会長?

 その可能性は充分にある。いや、さっきの慌てっぷりといい、状況的にはそうとしか思えない。

 会長だって今の俺との関係を良しとは思っていないだろう。このままでいいわけがない。だけどいざ行動しようとすると恥ずかしさや意地が先立って上手くいかない。そんな会長が、手紙という形で行動を起こしたのだとしたら納得だ。

「こいつは……またまた進展きた!?」

 なんだあ。めんどくさい女だなぁとか思ってたけどかわいいところあるんじゃないですか会長。

 ラブレターで呼び出して、なんてまた古風なことしちゃって。

「……ふ。ふふふ」

 良いぜ。あんたがそれを望むんなら喜んで乗ってやる。

「待ってろよ! 今度こそ手篭めにしてやる!」

 嬉しさのあまり勢い良く叫んでしまった。

「!?」

 扉の向こうで何かがずっこける音がした。

 

 

 

 待ち合わせの時間になり中庭へ向かう。

 遠目に既に人影があるのが見える。木陰に入っていて顔はよく見えない。

 口の端がゆるむのを止められない。傍目から見ればたぶんちょっとキモい顔してる。

 いいさ、どうせ見るやつなんていない。

 会長! 今行きま――すっ!?

 人影に駆け寄ろうと勢いよく走り出そうとした瞬間、すこーんと快音を立てて後頭部に何かが激突した。

「痛ってぇ! 何だ? ……缶コーヒー?」

 足元に転がるコーヒーの空き缶。誰かが投げ捨てたらしい。

「ちょっと、大丈夫?」

 ポイ捨てしたのはどこの誰だと頭をさすりながら辺りを見回していると、待っていた人影が近付いてきた。

 おお! ついにラブレターの主とご対面!

「あ、来たわね天王寺君」

 そこにいたのは井上だった。

「お前かよ!」

 落胆のあまり勢いよく叫んでしまった。

「何よその言い草は。失礼ね」

「あ、ああ……悪い。で、井上はなんでここに?」

「なんでって。天王寺君、手紙もらったでしょ?」

「……なんで知ってる?」

 嫌な予感が走る。いいや、まさかそんなはずは。

「それ、あ・た・し♪」

「やっぱりかちくしょう!」

 ああもう! 井上がここにいた時点でうすうす分かってたけど!

 確かに井上なら部室に侵入ぐらい易々とするだろうけど!

 ラブレターだと思ったのに!

 待ってたのが会長じゃなくたって……せめて女の子であってもいいじゃないか!

 夢ぐらい見させてくれてもいいじゃないか!

「ふふふ、ラブレターだと思った?」

「思ってねえよ! バカ!」

「……な、なんかごめん」

 泣きながら答えたらちょっと引かれた。

「……はぁ。でー、何の用っすかー」

「露骨に態度変わったわね……まあいいわ」

 井上は口の端に不敵な笑みを浮かべてメモ帳を取り出す。

「私があなたに接触する用って言ったらコレしかないでしょ?」

「何度来られても答えは変わらないけど」

「ふふ。今日はその件じゃないわ」

「じゃあ何だ。まさか、また変なネタ掴んだのか」

「ご明察。天王寺君、最近風祭の森の中で恐竜の化石が発見された話は知ってるわよね?」

 ……その話か。

 来るかもしれないとは思っていた。

「ああ。日本で初めてのティラノサウルス類の全身骨格だっけ? 町中大騒ぎになってるよな」

「そうよ。それに発見された場所も古代の祭壇だとか。いろいろ興味の惹かれる話よね」

「確かにな。俺もニュースとか録画しまくってる」

「ふふん。でもね、私が気になってることは他にもあるの」

「他?」

「そうよ。ねえ、オカルト研究部さん。結局なんにも聞いてないけど、私があげたネタの成果はどう?」

 ……やはり来た。

 遺跡の場所は井上からもらった情報ドンピシャだ。時期も同じとくれば関連付けてこないわけがない。むしろここまで時間が空いたことが驚きだ。

「……現在鋭意調査中」

「へえ? まだ何も分かってないんだ?」

「ああ」

 ここは当然隠すべきだろう。

 せっかく俺たちの名前が表に出ないようにしたのに井上にばれてしまっては全て無意味になってしまう。

「残念。ちょっとは期待してたんだけどなー。面白いもの見つけてくれるかもって」

「…………」

「ま、所詮そんなものか。素人さんにはちょっと難題だったみたいだね」

 挑発には乗らない。

 しかしこいつ、まるで自分はプロみたいな言い草だな。まあそれだけの能力は持っているんだろうけど。

「……あの化石の第一発見者、知ってる?」

「山篭りしてた空手家だろ」

「そう。でもその人はあまり目立ち無くないって言ってて、実質この件の窓口は日本マーテルが受け持ってる」

 山篭りしてい化石を見つけたカラテカがマーテルに相談して発見が公になった。マスコミの報道ではどこもそうなっているはずだ。

「あたし、その人に会ったのよ」

「会ったって、カラテカに!?」

「ええ。その人から聞いた話だと、最初に見つけたときは暗かったから竜と勘違いして逃げ出しちゃったんだって。その後マーテルに声をかけられて、調査隊と一緒に確認しに行って初めて自分が見つけたのが化石だったって知ったってわけ」

 こいつ……前々から思っていたけど行動力がありすぎる……!

 カラテカにも口裏合わせはしているはずなのに、どうやって本当のことを聞き出したんだ……。

「つまり実質発見したのはマーテルなのよ。じゃあ本当の発見者はマーテルの中の誰なのか?」

 井上が活き活きと語り進める。

「化石騒ぎの直前の時期にマーテルが大々的に森を調査したっていう記録は無いわ。あの辺りは長い間地上での調査は放棄されていた場所だしね。あの時期に森に調査に入った団体はあたしが知る内では一つだけ」

 頬を冷や汗がつたう。

 井上は俺たちを疑っているんじゃない。俺たちがこの件にかんでいると確信した上で聞きに来たんだ。

「どうかな。あなたのところの会長さんは何か知らない?」

 正直ここまで迫ってくるとは思っていなかった。井上のことをなめていた。

 ここで知らないと言ってしまうのは簡単だ。森に調査には言ったが何も見つけられなかったと言えばいい。

 しかしそれではおそらく井上は諦めない。こいつのしつこさは身をもってよく知っている。

 認めるにしてもしらばっくれるにしても、一応の落としどころは必要だ。

 ……落としどころか。どうせなら、得るものがあった方がいいよな。

「その質問に答えてやってもいいけど、条件がある」

「へえ? 何かしら」

「まず、ここで聞いた話は公にしないこと。カラテカから聞いた話も含めてな」

「ジャーナリストから公表の権利を奪うと言うの?」

「秘密ってのはそういうもんだ。意味なく隠してるわけじゃない。これが呑めなきゃ話が先に進まないぜ?」

「……分かったわ。この件については私だけで満足しておく」

「よし。それともう一つ。これからもオカ研に期待しててくれ」

「どういう意味?」

「さっき言ってただろ。面白いものを見つけるかもって期待してたって。その期待は間違っちゃいないってことさ」

「はっはーん。またネタをよこせってわけね。……その自信、あるんだ?」

「まあ、な」

「……ふむ。いいわ、乗ったげる。あれから少しだけど新しいネタもあるしね」

「よし。決まりだ」

 取引成立。井上が差し出してきた手とタッチを交わすと、井上がにんまりと楽しそうに笑う。

「天王寺君、なかなか面白い顔を見せるようになってきたわね。まだまだカードの切り方は甘いけど、この調子ならいずれはライバルから宿敵にランクアップしてあげてもいいわ」

「何が違うんだそれ……。別にお前を楽しませたくてやってるんじゃねえっつの」

「期待してるってことよ。あたし、君にはまだまだ可能性を感じてるの」

「調査対象としてだろ。んな期待はいらん」

「いやいや。天王寺君がもっといい顔を見せてくれたら、今度は本物のラブレターを持ってくることになるかもよ?」

「なおさらいらねえよ」

「あー、ひどいなー。あんなに嬉しそうに来てたくせに」

「だからだっつの」

「まーまー、そんなに怒らないでよ。じゃあ、さっそく取引を始めましょ」

 ああそうだな。無駄話をしている暇はない。

 ビジネストークは迅速に手短に、だ。



「そんなわけで、ネタを仕入れてきた!」

 おー、とやる気のない歓声が上がる。

 ラブレター事件の翌日の放課後の部室。緊急招集したオカ研メンバーと、待ち伏せして無理矢理引っ張ってきた会長を前に昨日のあらましを説明した。

 ちなみに小鳥たちには化石発見のことは話してある。

「よりにもよって新聞部にばらすなんて。一番アウトな相手じゃないの」

 小鳥たちもいるせいか会長は今までのように露骨に避ける様子はなく、呆れた目で睨んでくる。懐かしい視線だ。

「既にネタ掴まれてたから仕方なかったんすよ。一応口止めはしましたし、万が一井上から漏れることがあっても、たかが学生の言うことだし今更そう大したことにはならないでしょ」

「……まあ、済んでしまったことは仕方ないわ。そういうことにしておきましょう」

 まだ不満そうではあるが、一応納得してくれたようなので話を進める。

「それで瑚太朗くん。ネタってどんなの?」

「よく聞いてくれた小鳥! 見よ、これが今回オカ研にもたらされたネタたちだあっ!」

 机を囲む小鳥たちの前に勢い良く貰ったネタを叩きつける。

 ネタの福袋パート2だ。

『化石を求めて彷徨う恐竜の幽霊』

『地底に潜む恐竜人間』

『動き出すTレックスの化石!?』

「……なんか」

「ものすごくオチが読めるわね」

「ガガ、ガセっぽいとか言うな!」

「なんだ、分かってるんじゃない」

「一見嘘っぽい情報にこそ意外な真実が隠されているもので……」

「調べなくても分かるわ。全部ガセ。どう見ても今回の化石騒ぎに便乗したガセネタね」

「ぐ……やってみなくちゃ分からんでしょう!」

「わざわざ機密情報を漏らしてまで手に入れてきたのがこんなガセネタだなんて、とんだ役立たずね、瑚太朗は」

「そんな言い方!」

「まあ天王寺が役立たずなのは置いておくとして、このネタをどうするんだ?」

「委員長、話を進めてくれるのは嬉しいんだが、俺を役立たずと呼ばないで……」

「諦めなよ瑚太朗君」

「瑚太朗は往生際が悪いですねえ」

「あれ、なんで俺こんなアウェイなの? 味方はいないの?」

「諦めなさい。で、調べるの? このガセネタ」

「……そりゃあ調べますよ。ただまあ、今回はちょっと分担してやってみようかと。とりあえず三つぐらいに分かれて同時進行で」

「なるほど。しょうもないネタでも数打てば当たるというわけね。どうせ全部ガセでしょうけど」

「もうガセガセ言わんといてください」

「それで瑚太朗君。どうやって分けるの?」

「ああ、そこは抜かりはないぜ」

 小鳥の問いに答えて、皆を呼び付ける前に用意しておいた箱を取り出す。

「くじを作っておいた。二人一組になるようになってる。これで分かれよう」

「無駄に用意だけはいいな」

「瑚太朗、なんかはりきってますねえ」

「ああ。当然だろ」

 これは俺にとってチャンスなんだ。

 今の会長とまともに接するには、会長が逃げ出さない理由を用意してやらなくちゃいけない。

 会長はあれでけっこう見栄っ張りだ。

 今みたいに小鳥たちも巻き込んでクエストに引き込んでやればなんだかんだ言っても会長は断りきれない。

 だからこんなどうみてもガセネタの集まりでも全力で利用する。

 そして一度捕まえてしまえばやりようも考えられる。

 顔を合わせることに成功したら、次は話をすることを考えればいい。

 今回の作戦はこうだ。実はこのくじには細工がしてある。必ず俺と会長が同じペアになるようになっているのだ。

 強制的に行動を共にさせ、頃合を見計らって話を蒸し返す。

 小鳥たちに知られたら白い目で見られそう。だけどもうそろそろ焦れるのも限界だ。手段を選んではいられないのだ。

「さあみんな、引いて――」

「待って」

 皆の手がくじの箱に伸びかけたそのとき、突然会長の待ったがかかった。

「なんですか、会長」

「く、くじなんて非効率だわ。会長である私が分担を決めてあげる」

「はあ。非効率っすか? 引くだけですけど」

「非効率といったら非効率よ。いいから言うとおりになさい」

「まあ、私はどちらでもかまわないが」

「6人だし、わざわざくじで分けなくてもいいかもねぇ」

「決まりね」

 まずい。それでは計画が破綻する。

 ここはなんとしても会長とペアにならないと――

「じゃあ言うわ。……んんっ」

「ちょ、待っ……」

「神戸とちはや。此花と静流。私と瑚太朗。これで分かれましょう」

「……え?」

 驚いて会長の方を見ようとするが先回りして顔を背けられてしまう。

「何か文句はあるかしら?」

「いいんじゃないですか」

「うん。妥当な組み分けだと思う」

「じゃあこれでいきましょう。どうせガセなのだし、さっさと終わらせてしまえばいいのだわ」

「ちーちゃん、どのネタやる?」

「美味しいものが見つかりそうなネタはどれですかねー」

「ルチア。私たちもがんばろう」

「ああ。私も暇ではないしな。頑張って手早く終わらせてしまおう」

 戸惑う俺を他所に、もう決まったという空気で進んでいく。

 ……結果的に、計画通りになってってことでいいのか。

「まあそれなら。よし、クエスト開始だ!」

「おー」





<続く>