■新たに発見です!
北上さんの解説文庫リストに無い作品を、見つけました!
デズモンド・バグリイ『敵』ハヤカワ文庫NV
思いがけず、王道系の時代に眠ってました(笑)
見つけたきっかけは……何だったっけ(笑)
多分、アリステア・マクリーンの解説を書いているなら(『雪原の炎』)、
同時代の海外の冒険小説作家の解説も書いているんじゃない?
と思って、
「ジャック・ヒギンズ 解説北上次郎」
「ハモンド・イネス 解説北上次郎」
などと検索していったら、
「デズモンド・バグリイ 解説北上次郎」
で、
「あれ?」となった記憶が。
試しに、今、Yahooで検索してみたら…
あったあった!
個人の方が書いていらっしゃる「ミステリー・推理小説データベース」のサイトで、そこに
「バグリイ『敵』解説北上次郎」
と記載があるのを発見。
慌てて本棚から取り出してチェックしたら、北上さんが解説を書いていた!
という次第。
それにしてもバグリイと言えば、アリステア・マクリーン、ジャック・ヒギンズ、
ハモンド・イネスらとともに、ある意味、北上さんの本丸的な
一時代を築いた正統派冒険小説の大物作家。
いやー、盲点でした。
僕もバグリイは好きで持っていたので、
リストに無い作品を探して散々飛び回っていた挙句、
自分ん家の本棚にあったんかいッ!
~~と、膝の力が抜けました(笑)
まあ、田中光二の『南十字戦線』講談社文庫や、
生田直親『東京大戦争』徳間文庫
『ソ連侵略198X年(下)』徳間文庫
と同じパターンです。
夏には汗をダラダラ垂らしつつ、真冬には寒風に首をすくめつつ、
古書店を巡っていたのに
肝心の未発見本は、家で見つかるのを待っていたという。
情けない話っす(笑)
■さて、その『敵』はどんな作品かというと…
英国諜報部員のマルコム・ジャガードが生物学者のペネローペと婚約した直後、
彼女の妹が襲われる。
事件を捜査し始めたマルコムは、婚約者の父親をめぐる秘密に行き当たる……
というストーリー。
その解説は?……と見ると、
いつもの北上さんの解説とはちょっと違ってますな
なにしろ「解説」ではなく「八〇年代ヒーローの出発点」という
具体的な見出しになってる。
で、その解説冒頭、これがバグリイの第十一長篇であることを紹介した上で
「初期の長編と比較してみると物語の構成が微妙に変化していることに気付く。
その変化の鍵は『敵』の前作『スノー・タイガー』に明らかだ」
として、いきなり前の作品の話を始めちゃうんです。
おお、どうしまし た?
と思いつつ、まあ、これもまた北上節ですな。
『スノー・タイガー』とは、ニュージーランドの鉱山街で起きた雪崩の悲劇と、その謎を追うサスペンス小説。
読者は、きっと雪山を舞台にした陰謀と活劇を期待するところですが
北上さん曰く
「この物語がバグリイ作品系列の中で異彩を放つのは、
科学者マックビルという軸はあるものの、ヒーロー不在だからだ」
と指摘。
むむ、そうなんだ(読んだのが昔すぎて覚えてない…赤面)。
北上さんによると、
バグリイは、もともとサスペンス色の濃い作風が特徴だったが、
それでも、魅力的な謎を設定した上で、
「イギリス冒険小説らしい緻密な構成の中に意思強固なヒーロー像を
描いてきた」
「男が軀の奥深くに秘める冒険への憧れが、その底に色濃く流れている」
そんな作家だったとのこと。
しかし『スノー・タイガー』では、そこからの雪山大活劇などは無く
「謎の解明に終始」するという。
なぜ、そういう作品を書くに至ったのか?
と、北上さんもまた、バグリイのように謎を掲げて
「一九七〇年代後半以降、冒険小説の主人公たちが闘うべき敵を
見失っていたことをここに想起すればいい」
来たー!
この当時、北上さんがしきりに語っていた冒険小説の過渡期論ですな。
そして読んでいくと、
むむ!
背景として、北上さんはさらに詳しく【3つの理由】を
具体的に挙げています。
これは今まであまり読んだことないかも。
なるほど、と思う理由なので、是非、『敵』を入手して読んで頂ければ。
さらに読んでいくと、
おう! マック・ボランの話も出て来る!
ボランと言えば、前回、『書評稼業四〇年』で記されている
「ハヤカワ・ミステリマガジン」での掲載リストに無い原稿として
紹介しました。
▼1984年9月号
【特集エッセイ】コーナーの
『冒険小説ヒーロー論
さらば、ボラン』
~~です。
マック・ボランとは、創元推理文庫で出版されたドン・ペンドルトンの
「マフィアへの挑戦」死刑執行人シリーズの主人公で、
家族を奪ったマフィアに対し、孤独な復讐を続ける物語。
しかし、それがCIAのエージェントとなったことで変節してしまった、
と北上さんは記していましたが、
『敵』の解説で、マック・ボランについてどう記しているか、
見てみると……
闘う相手を見失った中で、エージェント・ヒーローものが姿を消したと指摘し
「任務上の闘いなど、
その任務そのものの善悪が明確でない時代にあっては活力も生じない。
新生マック・ボランのように、逆にエージェントとなっていく
時代錯誤の……(以下自粛)」
あわわ、そこまで言いますか。
シリーズのファンもいるでしょうから、
これ以上の紹介は自粛といたしました(笑)。
(ちなみに、文庫版『敵』の出版は1986年4月。
「ミステリマガジン」の「さらば、ボラン」は84年9月ですから、
2年近く経ってもまだ、北上さんは
「けしからん!」とお怒りだったようです 笑)
そして、冒険小説のヒーローは、
「過去に舞台を移したエージェント・ヒーローか、
あるいは巻き込まれヒーロー、
私的理由を持つヒーローなどが中心と」
なってきた、と分析しています。
バグリイの『スノー・タイガー』は、まさにその過渡期を示す作品だとのこと。
そして、4ページにわたる解説の最後のページで、
おおっ!
ようやく『敵』の話に!
でも、ここまでの前段があるから、なぜバグリイが、
『敵』の主人公マルコムが、婚約者の父親を巡る謎を追う、
という「私的理由」で陰謀の渦中に飛び込んでいく設定にしたのか、
背景が腑に落ちました。
「冒険小説ヒーローをめぐるリアリティの変遷がもたらしている」
なるほど!
そして解説の最後を、
「そしてこの『敵』以降、八〇年代ヒーローの時代に入っていくのである」
と締めくくっている。
おお。
八〇年代ヒーローって、どういうものなんだろう?
続きの冒険小説の分析が、めっちゃ読みたくなってしまった
『冒険小説論』に出てんのかな?







