■2025年11/28
神保町の『@ワンダー』で見つけた、
『書評稼業四十年』のリストに無い「ミステリマガジン」北上さん登場企画!
その紹介の続きです。
それは2年にまたがる座談会連載
『北上次郎×田口俊樹の翻訳ミステリ応援団』で
2009年2月号から隔月の偶数月に掲載され、
4月、6月、8月、10月、12月、2010年2月、4月号まで
全8回だった模様。
この時見つけたのは、その内の…
◆2009年4月号
『北上次郎×田口俊樹の翻訳ミステリ応援団』#2
◆09年6月号
#3
前回は♯2を紹介したので、今回は09年6月号、♯3。
これが翻訳ミステリ出版をめぐる当時の裏事情が続々出てきて、まあ、面白い!
なのでここでは、北上さんのコメント以外の「裏事情トーク」も含めて
幾つか紹介していきます!
■さて、この回は早川書房、文芸春秋、新潮社の
翻訳ミステリ担当の編集者さんが出席。
編集者さんたちによると、
そもそも文芸春秋と新潮社が翻訳ミステリを出し始めた
八十年代初めから後半は、すごく盛り上がっていたとのこと。
扶桑社、二見書房が参入、角川書店も定期的に刊行するように。
ちなみに。
早川でミステリ文庫のほかに
「ミステリアス・プレス文庫」を作ったのもその勢いの中、だったんですって。
なるほど!
あのオレンジのカバー、お洒落で集めたくなるんだよなー
ちなみにちなみに。
北上さんはそのうちの一冊
『長い雨』の解説を書いてます。
店頭ではほぼ見かけない難関本でした。
■さてさて、この時期から、翻訳ミステリ冬の時代となった2000年代、
各社はどんな姿勢で翻訳ミステリを展開していたのか?
早川書房は
早川「点数を増やしたんですよ。
今も極端に絞り込もうとはしていない。
ミステリ文庫も、NV文庫も、単行本もポケミスも出すスタンスは
守っていく。
これは創業以来の方針ですしね」
いやー、ありがたい!
早川さんと東京創元社さんは、最後の砦ですから。
そして、各社の人気作家の売れ行きについて切実な数字が明かされます
新潮「うちのビッグネームというと、三分の一だな」
「九〇年前後は初版五万部くらい刷れてたんですが、
当時と同じレベルの作品でも今は二万刷れないから獲らない」
二〇〇〇年頃から落ち込んでいったそうです。
■ほかにも、文芸春秋の担当者さんは
文春「うちから出た翻訳書の書評だけを切り抜いて、
ファイリングしてるんですよ。
昔は年に二冊ほどになったんですが、
二〇〇一年くらいから年に一冊もたまらない」
さらにこんな悩みも告白。
文春「文庫は書評が出ない」
「書評が出るか出ないかは本当に大きいファクターなんです。
とくに新聞では文庫は扱ってくれない」
そうなんだ。
まあ、確かに僕がとってる朝日新聞の土曜の書評コーナーも
小難しいハードカバーが多くて、正直、タイトルと見出しだけでスルーしている書評、結構あります。すいません!
まあ、そういう、部数が少なく人の目に触れにくい専門書とかを守っていきたい、というポリシーなんでしょうが…
さらに、新潮社さんはこんな切実な実情も。
新潮「うちでも十年くらい前まであった、
ビッグネームならまずはハードカバーで出して、
二年くらいしたら文庫にするという戦法が使えなくなりましたね。
二年も経ったら“過去の本”となっちゃって、見向きもされませんから」
そうかー。確かに昔はハードカバーで海外ミステリー出た時、
財布と相談して文庫化待ちしてたもんな。
今は、日本の作家でその戦法を取ってますが(笑)
しかも、さらにワンステップ待って、古書店流れ待ち戦法(笑)。
作家の皆さん、すいません。
同じく新潮社さんからは、個人的感覚として
「売れ行きが鈍る金額の壁」も明かしているんですが、
その辺は是非、入手して読んで頂いて。
なお、僕個人的には街の古書店だと、新刊文庫でも結構お安くなってたりして、ありがたいので、結構チェックしてます。
この前も『羊頭書房』さんの店外ケースで、C・J・ボックスの新しめ作品が
破格の安さで売られてて助かりました。
■そんな話の中で、じゃあ、どうすれば売れる? という方策を考える中で
北上さんからこんな話が。
北上「七、八年前に、宮部みゆきの『今夜は眠れない』が講談社の青い鳥文庫に
入ったんですよ。
ずいぶん昔のだから本当に売れるのかなあと思ったら、
増刷もかかってる。
子供は普通の文庫のところにはいかないけれど、
自分たちの読む青い鳥文庫に入れば読むということなんでしょうね」
そうか。
僕も、偕成社やポプラ社の少年探偵団シリーズやホームズ、ルパンシリーズ
といった児童書から入ったもんな。
そこから、大人版の文庫などに入ったきっかけは
児童書版の『西遊記』とコナン・ドイル『失われた世界』を読んで
「これの、もっと長いバージョンは無いのか?」
という思い。
そして探したら『失われた世界』は創元推理文庫とかの大人版に出会って、
児童書版では割愛されていたマローン記者の恋愛要素が読めて
「そうか、それが南米まで飛んだ動機だったのか」
と納得しました(笑)
『西遊記』も、中公文庫版の全何巻もの大長編を見つけて大興奮したり。
閑話休題。
つまり、児童書のみの作家さんもいる中、
「一般書コーナーに行けば、こんな面白い作家さんもいるよ」という
大人の小説への橋渡しになる作品を、児童書としても出してみては、という提案。
自分の体験に踏まえて、めちゃくちゃ納得しました。
■それ以外、この回の北上さんは比較的おとなしめ(珍しい!)だったんですが、
唯一、熱弁していたことがあります
それは、翻訳ミステリ以前に、本が読まれなくなってきている、
という実情の話になった時に語った哲学
北上「読書はね、確かに疲れるんですよ。
だって、文字をずっと目で追って、表現してることを頭の中で一度翻訳して、
想像するんだから。
(中略)
でも、それをやめてしまったら小説じゃないんですよ。
読者は結論がすぐ出るものを求めるかもしれないけど、
そういうものは世の中にいっぱいあるわけだし。
つまり、めんどくさいことが小説の一番の武器なんですよ」
じゃあ、面倒くさいって具体的にどういうこと? と思っていると、
当時ブームになっていた携帯小説を例に挙げます。
北上「携帯小説は、理解を楽にしていると思う。
(中略)
乱暴に言ってしまえば、
「この人は悲しんでいる」
と書いてしまう。
ようするに全部、説明してしまう。
小説の武器を放棄してるとしか思えない。
だから売れたんだろうけど、断固認めたくない」
ああ、これは納得。
登場人物の怒り、悲しみていった感情を
「僕は怒ってる」「悲しい」と直接表現するのは、確かに幼い印象。
その人の表情や仕草の描写で伝えることで、
よりその人の怒り・悲しみの深さが感じられる……
それが小説でしょ?
と北上さんは語りかけています。
最後に、北上さんのこの言葉も響いたので、これでシメさせて下さい!
北上「欠点かもしれないけど小説の良さってのは、
即効性がないことですよ。
そこに書いてあったのはこういうことだったのかとか、
五年後十年後に効く」


