■またしても、「北上次郎解説文庫リスト」に無い作品、発見です!!
……と言っても、僕が見つけたんじゃありません。
『本の雑誌』2025年10月号で、
編集部の方が
「以前雑誌に発表していた書評が解説として掲載されることになりました」
という旨を書いてくれたのを“発見”した、という次第。
これまでも、リストに無い作品を見つけるたび、『本の雑誌』編集部さんに
コピーをお送りして報告して来ましたが、
みっちり読み込んでいて良かった(笑)
ありがとうございます!
これで、北上さんが亡くなられた後、出版された解説文庫作品は、僕の知る限り
小野寺史宜『レジデンス』角川文庫 以来、2冊目となります。
こちらは2022年8月『カドブン』に掲載された書評を収録したものでした。
(★このブログの77で紹介しています。)
北上さんファンである僕にとっては、
「ああ、まだ、出版社や作家さん、読者に忘れられていないんだ。
大切に思われているんだな」
と分かって、嬉しい気持ちになりました。
■そうそう、肝心なことを忘れてた(笑)。
その作品は
瀧羽麻子『博士の長靴』ポプラ文庫です。
瀧羽麻子さんと言えば、北上さんは
『いろは匂へど』幻冬舎文庫
の解説も書いてます。
『いろは匂へど』の解説では、
いきなり、当時の最新作『ハローサヨコ、君の技術に敬服するよ』と
デビュー作『うさぎパン』の違いの話になる北上節。
その2作の仕上がりが、同じ高校生を主人公にしながら
「明らかに違う」
「優しい物語」から「彫りの深い物語」に進化している、と称賛。
そのターニングポイントとなった作品こそ『いろは匂へど』だと語っていました。
ちなみに『うさぎパン』は2007年、
『いろは匂へど』は14年、
『ハローサヨコ~』は16年の作品。
そして『博士の長靴』の単行本出版は2022年。
実に15年間も見守ってきたとは!
北上さんは、大沢在昌さん、夢枕獏さんはじめ好きな作家はずっと追い続けて、
複数の作品解説を手掛けることが多い方。
自分がいち早く見つけた原石が“化けて”、傑作をモノにする瞬間を見たい……
そういう楽しみを持っていた結果だろうなと推察しとります。
『いろは匂へど』は、まさにその瞬間を見つけた!
俺の眼に間違いはなかったと会心の思いだったんだろうな―。
そしてきっと、瀧羽さんの今後の作品も見つめづけて、
解説も書きたかったのだろう、と思います。
■さて、『博士の長靴』ですが、
これは天気の研究に生涯を捧げた藤巻博士とその一家や、
彼らとの出会いで変化していく周りの人々を描いた連作小説。
1958年から2022年までの藤巻家を、語り手を変えながら、
6つの短編で積み重ねて描いています。
その北上さん解説の冒頭は…
(正しくは「ウェブアスタ」2022年3月号より転載だそうです)
「いいなあ、これ。
時間がゆったりと流れていくのだ」
~~と始まり、例として挙げているのが
「一九七五年 処暑」と題された二番目の章。
藤巻家の息子・和也の家庭教師、光野昇の視点で一家を見つめています。
博士は気象のことになると夢中になってしまい、
息子・和也の絵が上手い、ということで息子が絵を持ってきたら、
その間に超音波風速温度計の話に熱中、絵のことは忘れてしまうような人。
おいおい、と思ってしまうものの、
藤巻家の夏の花火のシーンで、家族が見えない絆で結ばれていることを
感じさせます。
北上さんは
「ラスト5行がいい」
として具体的に紹介しています。
その5行とは? ……ぜひ、作品を読んで頂いて(笑)
北上さんは、その理由について
「どうということもない花火の光景だが、妙に胸に残るのは、
作者がその光景を描くだけで、ぽんと突き放しているからだろう。
そのために、この光景がくっきりと残り続ける」
なるほどなー。
変に心情を語らせ、説明しないからこそ、読者が想像して、
それが作品を膨らませていく、ということでしょうか。
■そんな中、僕が気になったのは、北上さんが、
「タワーリング・インフェルノ、先生も観た?」
と和也が光野昇に聞くセリフを、わざわざ解説に引用していること。
これは、北上さんが映画好きだったからではあるまいか?
実は、リストに無い解説作品を探す中で、
北上さんが1980年代に、あの『キネマ旬報』にも
映画・ビデオ評を連載していたことが分かったんですよね。
(大森望さん、香山二三郎さんの名前もありました!)
だから、瀧羽さんの小説の中に、北上さんの青春時代に公開された
『タワーリング・インフェルノ』(1974年)という映画のタイトルが
出ているのを見て、懐かしさもあって解説に引用したのでは?
なんて想像してます。
■ちなみに、家庭教師だった光野昇は、35年後、
別の語り手が主役の章「ニ〇一〇年 穀雨」にも登場し近況が語られています。
さらに、教え子だった和也の意外なその後も明かされて
「さりげなく藤巻家の動静が描かれているから、目を離せない」
■そして、北上さんは最後に印象的シーンを紹介しています。
最後の第6章「二〇二二 立春」。
「ひいおじいちゃん」となった藤巻博士が、
和也の娘が生んだ幼い子を預かるところ。その幼い子と一緒に
「雨上がりの空を見上げるラストシーンが余韻たっぷりで美しい。
ここでも時間がゆったりと流れている」
なんか、瀧羽麻子の描写をじっくり味わっているのが分かります。
ほんと、好きだったんだろうなあ、瀧羽さんの作品が。
そう感じる締めくくり。
解説として再収録したのが分かる書評でした。




