■2025年10/14火曜日

ちょっと変わった北上さん関連本を見つけました。

 

北上さんは、メジャーな作家の初期作品で解説をしている傾向があるな、

と感じていて、

「有名作家名 × 解説北上次郎」

という形でポチポチと検索をかけてました。

その中の一人が、小池真理子さん。

北上さんは恋愛小説(特に中年の)が好きで、

以前から、小池真理子さんの恋愛小説を強く推しているのを見かけていて、

〚本の話』のサイトでも

「本読みのプロが“推す”2021年のマイベスト10」で

「じっくり読みたい!大人の恋愛小説」の中で

小池真理子『神よ憐れみたまえ』新潮社 を挙げていました。

 

それを見て

「小池真理子さんと言えば多作。

その中に、北上さんが解説した作品も埋もれてるんじゃないの?」

と思って、検索をかけてみたんです。

 

そしたら、一冊の本がヒットしたんです。それが――

『十話』ランダムハウス講談社

見たところ、どうやら、

様々なベストセラー作家や、書評家が「これは!」と推す

名短編を一人一作紹介しているアンソロジーらしい。

伊坂幸太郎さんが

「不意打ちを食らって吹き出し」た作品や、

北方謙三さんが

「ずいぶん学んだ」という傑作、

小川洋子さんが

「宝石箱にしまっておきたい」とまでいう短編とは?

その中に、北上さんも選者の一人として一作を挙げ、

その作品を掲載。

……だけでなく、選者の「熱い推し解説」も掲載しているようで、

ちょっと珍しいスタイルですよね?

 

北上さんは誰のどんな作品を推しているんだろう?

小池真理子さんなのか?

気になったので、捜索することにしました。

 

■が!

最近、怠け癖がついてきまして(笑)、

真っ先に古書店に向かう……のではなく(初版が2006年だったので

新刊書店には無かろう、と判断)

「ブックオフ 取り寄せ」で検索しちゃいました。

すいません。

そしたら、まさかのヒーーット!

というわけで、早速、取り寄せ、店頭にて購入しました。

こんなところで人生の運を使ってしまっていいのだろうか。

まあ、いいか、楽しいんだし。

 

■で、早速、見てみたところ……

以前『小説現』でやった特集『短編小説を読む醍醐味 今すぐ読みたいベスト16作品』に

掲載されたエッセーをもとに書籍化したものと判明。

なるほど。

そこには錚々たる人気作家たちが、それぞれ一作を挙げていて

 

小川洋子推し  ⇒ エリザベス・ギルバート『デニー・ブラウン(十五歳)の知らなかったこと』

坂上 弘推し  ⇒ 山川方夫『お守り』

伊坂幸太郎推し ⇒ 井伏鱒二『休憩時間』

田辺聖子推し  ⇒ 作者不詳『花桜折る中将』

有栖川有栖推し ⇒ エドガー・アラン・ポオ『メエルシュトレエムに吞まれて』

北方謙三推し  ⇒ 志賀直哉『城の崎にて』

諸田玲子推し  ⇒ 藤沢周平『驟り雨』

小池真理子推し ⇒ 坂口安吾『青鬼の褌を洗う女』

石田衣良推し  ⇒ 川端康成『有難う』

 

北上さんが推していたのは

志水辰夫『夏の終わりに』

という短編。

小池真理子さんではありませんでしたが、

志水辰夫を推すのは、納得です。

『飢えて狼』講談社文庫 に始まり

『行きずりの街』新潮文庫

『いまひとたびの』新潮文庫

『つばくろ越え』新潮文庫

『みのたけの春』集英社文庫

『疾れ、新蔵』徳間文庫

など6作品の文庫解説を執筆。

さらに志水さんが翻案した

痛快!世界の冒険文学 十五少年漂流記 文・志水辰夫』講談社

の解説まで手掛けるくらい、とにかく惚れ込んでいましたからね。

■そして、それぞれ選者が前口上として『熱い推し解説』をした上で

推し短編が掲載されている、という構成。

さて、では北上さんの推し口上は?

まず、見出しが

 

「こういう短編を

 ずっと読んで

 いたい」

 

そそりますなぁ。

その上で、冒頭、『夏の終わりに』が「小説新潮」に掲載された時、

自らが書いた文章を紹介しています。

 

「志水辰夫の小説は寡黙なので、登場人物がなにを考えているのか

 物語がどこへ向こうのか、いつも理解しにくい。

 出てくる男たちが無口なわけではない。

 喋る。

 だが会話や風景の描写をいくら積み重ねてもそれは表面的なことにすぎず、

 作者の意図は描写の背後に隠される。

 饒舌で、説明過剰の小説を読みなれていると

 志水辰夫の小説がそっけない印象を与えるのはそのためだ」

 

なるほど。確かになぁ。

『飢えて狼』(めちゃ、面白かった!)を読んだ時、当初、

「あれ、こんな奴、前に出てきたっけ?」

となって、慌てて前に戻ったりしたっけ。

そして、描写部分をじっくり腰を据えて読むようにしていったら、

まあ、ハマっちゃったんですよね。

どこか拗ねたような影のある男が、

それでも、どこかで覚悟し、荒波の中に身を投じていく……という展開にシビれ、

読み漁ったっけ。

 

……なんて思い出に浸っていたら、

北上さんの「推し解説」も、

『飢えて狼』の冒頭の話に触れています。

 

「三浦半島の入江のボートハウスに二人の男が訪ねてくる場面だが、

 そのとき桟橋には釣竿を持った男がいる。

 それはただの風景にすぎない。

 そう思って読み進むと、しばらくしてその男が意味を持っていることを

 提示される」

 

そうそう。

そんな感じだった(細かい点はうろ覚え 恥)。

でも、そんな感じで冒頭、読み返したんだわ。

 

「『夏の終わりに』は短編なので、それがもっと顕著になる」

 

とのこと。

 

■主人公は「わたし」という男で、

東北の片田舎。米の単作地帯。緑が九割。

彼が子供だった五十年前と変わらない風景が広がっている……

という描写が続く。

彼が、どんな仕事をしていて、今なぜこの家にいるのか。

何も語られないまま、彼と共に新幹線の駅に行き、

降りてくる女性を待つことになる……という展開。

 

そこで北上さんが一番好きな箇所を紹介しているんですが、

それは是非読んで頂いて。

 

そして最後に、なぜ、志水辰夫さんのこの短編小説を選んだのか

記しています。

 

「どちらかといえば志水辰夫は、動きまわる人物の肩を撫でる風の匂いや

 空の色、目に飛び込んでくる風景などに立ち止まってしまう作家で、

 特に物語の表層からこぼれ落ちる些細な感情に深入りする描写は

 群を抜いているが、

 これ以前の作品ではその感情表現を不必要に抑えていた感は否めない。」

 

「『夏の終わりに』で志水辰夫はその呪縛から解放されたといっても

 過言ではない。

 その後の十年を決定したのはこの短編であったような気がしているのである」

 

ここまで言われたら、読みたくなりますよね!

北上さんが解説した短篇集『いまひとたびの』に所収されているので、

皆さんも、読んでみては?

 

★……と!

ここで、衝撃の事実に気づきました!!

『本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎』掲載の

「文庫解説リスト」を見たら……!

『いまひとたびの』が2回、載っている!

どういうこと?

 

◆1997年新潮文庫

◆2020年新潮文庫

え、なんで!? 家に持っているのは……(ごそごそ探し中)

「2020年版」だ。

謎を解くため、巻末を見てみると……

 

『この作品は平成九年八月刊行の同名文庫に

 令和元年十月に書き下ろされた

 短編小説『今日の別れ』を増補したものである』

 

との記載が。

そして北上さんの解説を読んでみると……

なんだ!?

北上さんの解説が2つ載ってるぞ!?

 

そうか!

97年版に一作増補して2020年に新装版として出版した際、

北上さんも、新たに解説を書き、

昔の解説も、合わせて載せた、ということか!

なんとも希少な!

っていうか、どんだけシミタツ好きやねん!!

一作品について2回解説を書くなんて!

よっぽど惚れ込んでなきゃ出来ないっしょ!

しかも、97年から2020年までの間に、

その作者がさらに進化して、書くべき魅力が溜まっていなけりゃ

2回も書けないもの。

 

本当に読んで面白いと思わないと引き受けない人、だったという北上さんに

23年の時を経て、2回、同じ作品の解説を書かせた男。

志水辰夫、恐るべし。

 

そして、過去の解説も載せてくれた新潮文庫さん。

ありがとう。

おかげで、97年版文庫を探さなくて済んだ……

 

っと思ったら!

家探ししたら、97年版文庫、持ってた!!

確かに、一作加わった分、厚くなっとる!

……っていうか、いつの間にか買ってたんや自分?

一人で青くなって、自己完結。

ホンマ、お騒がせしました!(笑)