私は毎朝顔を洗い、歯を磨き、髭を剃り、
髪を整える。
ここまではごく普通である。
しかし私の場合はもう一つ作業がある。
髭の手入れだ。
髭歴30年になる私はムダ毛は剃るが、
生やしている部分はカットして揃えている。
接客業たるもの、
清潔感のある身嗜みは大事なのだ。
その日の朝…
いつも通り鏡に映った自分の見飽きた顔を
何げなく見ると、
アゴ髭の一番下に白い毛が1本伸びている。
しかもその1本だけ異常に長い。
お⁉ な、なんだこれは❗
おかしいな…
いつからだろう?
昨日までは絶対なかったはずだ!
騒ぎを聞きつけた妻にその事を話すと、
「それ、もしかして福毛じゃない?」
という。
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【いらないかも?解説】
福毛 とは別名「宝毛」とも呼ばれ、体の一部に1本だけ長く生える透明もしくは白い毛のことをいう。「福をもたらす毛」として、生えると良いことが起こると言われ、古くから珍重されてきた。なぜ福毛が生えると良いことが起こるかと言うと、仏様の額にある白毫(びゃくごう)というイボに似たものが、実は右巻きに伸びた白くて長い毛だったのだ。
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私のアゴ下に生えた長い白い毛は、
どうみても福毛に違いない。
1本の長~い鼻毛や耳毛なら話は別だが、
アゴ髭に隠れて目立たないから
私は抜かないことにした…
というよりも、
下手に抜いてしまって
不幸なことでも起きたら大変だ。
私は神か仏に選ばれた人間なのだ。
せっかくだから記念にと思い、
生まれて初めて自撮りしてから家を出た。
さて…
その日というのは勤労感謝の日であった。
世間では3連休の初日…
そして洋服屋にとっては
大事な大事な秋冬の大商戦日である。
「マルコとマルオの7日間」
の最中ということもあり、
多くのお客様がご来店され、
我々スタッフは一日中接客に忙殺された。
そして最後に売上を集計すると、
1日のプロパー販売売上としては、
なんと!
過去最高を記録していたのである。
帰宅してから妻にその事を話すと、
「それ、福毛の効果じゃない?」
という。
ハッ!とした私は、言われるまで
福毛のことなどスッカリ忘れていたのだ。
私はすぐさま鏡の前に行き、
見飽きた自分の顔のアゴ下を凝視した。
良かった…まだあった。
なんだか朝よりも神々しく見える。
翌朝起きると、
私は真っ先に鏡の前に行った。
良かった…まだあった。
今日も何かスゴいことが起きそうだ。
私は福毛が抜けないよう
いつもより用心しながら顔を洗い、
歯を磨き、髪を整えた。
そして、寺の境内を清掃する修行僧の如く、
神聖な福毛の周りを綺麗にしようと
T字カミソリでムダ毛を剃りながら
思いを巡らせた。
願いが簡単に叶ったり、
このまま人生が思い通りなったら、
私はGMなんか辞めて
教祖になれるのではないか…
と一人ほくそ笑んだ まさにその時、
私の手元は狂い
福毛を剃り落としてしまったのである。
Oh my God!
完璧な発音だった。
その日から平凡な売上げに戻った。
ところで…
貴方は福毛を信じますか?
私は身をもって体験しただけに、
とても 迷信 だとは思えないのである。
私は早速昨日から
第二の福毛の育生に取り組んでいる…。
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「Stevie Wonder」
“迷信”
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メンズビギ マルイシティ横浜店 GMより
コチラも見てネ❗

