民族学者の宮本常一氏が書いた
「忘れられた日本人」という作品がある。
もう、今までに何度も読み返している。
この作品は、宮本氏が昭和14年以来、
自らの足で日本全国の村を歩き回り、
その村や村の暮らしぶりについて
徹底的に調査したものである。
その旅の姿は、富山の薬売りや
乞食のようであったともいう。
その村に何日も滞在しながら
村人との信頼関係を築き上げ、
その土地の伝承者である
文盲の古老達の話をひたすら聞き、
それをノートに書き写しながらの
骨の折れる作業を繰り返したそうだ。
この作品が異色なのは、
歴史上の人物が出てくる日本史とは違い、
辺境の地で黙々と生きる
無名の人々の生きる姿を浮かび上がらせた、
本当の日本人の物語であるという点だ。
それにしても、
昔の普通の農村の暮らしの話が
これほど面白いとは正直意外である。
昔と言っても、せいぜい100年程前なのだ。
この作品に登場する日本人達の、逞しさ、
明るさ、優しさ、親切さ、したたかさ、
おおらかさ、スケベさったらない。
全ての話が小説や映画のようでもあり、
「土佐源氏」の話などは感動的ですらある。
でも、この本から私が一番感じたのは
日本人の持つ自制心や道徳心である。
村の寄り合いの話は特に興味を惹かれた。
地域にもよるが、
村の取り決めの際には、
全ての人が納得するまで
じっくり２日も３日も夜通しで
話し合いをしたそうで、
しかもその場では郷士や百姓の区別も
なかったという。
また、こういう場では年寄りの存在や
その果たす役割が大きかったそうである。
若い世代の方はご存知ないかもしれないが、
戦後の農地解放の際、全国各地で小地主と小作人の間で争いが取り沙汰されていた。
むしろ、解放する側の方が不合理だという場合が少なくなかった。僅かばかりの土地を作っていたのを息子が出征したので、帰って来るまで作ってくれと頼んだのを、そのまま盗られてしまったという例が実に多かったそうだ。
ある村の寄り合いでのこと…
みんなが勝手に自己主張をしている時、
ある年寄りが、
「皆さん、とにかく誰もいない所で、たった一人暗夜に胸に手をおいて、私は少しも悪いことはしとらん。私の親も正しかった。祖父も正しかった。私の家の土地は少しの不正もなしに手に入れたものだ、とはっきり言い切れる人がありましたら申し出てください」と言った。
すると、今まで強く自己主張をしていた人が、みんな口をつぐんでしまった…
大勢で集まった話し合いの席で、
その中の一人が大きい声で
何かしきりに主張していた。
子供だから話の内容は分からなかったが、
とにかく一人で喋っている男の印象だけ
強く残っていたそうだ。
ところが一人の老人が、
「足もとを見て物を言いなされ！」と言った。
すると、その男はそのまま黙ってしまった。
その時の印象が実に鮮やかに残っている…
と書き記している。
暗夜に胸に手をおいて…
足もとを見て…
痺れる一言である。
目から鱗の一言である。
これほど見事で鮮やかな一言があるだろうか？
これを言った年寄りもエライが、
言われてハッ！と我に返った方も
まんざら極悪ではない。
ところで…
私が久し振りにこの本を
急に読み返したくなったのはナゼか？
それは、前回のブログで書いた
“お天道様は見ている”
と書いたからだ。
最近の国会を見ても然り…。
今の日本人には、道徳心だけでなく
自制心が無くなってしまったのだろうか？
「Peter Gabriel」
“No Self Control”
“お天道様は見ている…”
“暗夜に胸に手をおいて…”
この二つの言葉は同義語だと
私は勝手に思っている。
だから“お天道様”というのは、
決して神や仏のことではなく、
自分の中にいる自分自身のことを
指しているのだ。
お天道様は見ている。
見張り塔からずっと…
私も気をつけよっと。
「The Jimi Hendrix Experience」
“見張り塔からずっと”
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メンズビギ マルイシティ横浜店 GMより
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