高校生物学習教材 体細胞分裂の解説 | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

 かつて、「細胞という大秘境」に光学顕微鏡を武器に敢然と乗り込んでいった研究者たちがいました。まだ、電子顕微鏡もタンパク質蛍光色素もない時代です。

 

 高校生物で学ぶ細胞についた用語は、そんな時代に生まれました。だから古臭いのは仕方ないのであります。よくわからない言葉だなあと暗記に終始するのではなく、むしろ当時の細胞学者の姿を想像し、心のうちに触れるチャンスと見て、親しみを持って学習してほしいです。

 

 

 昔の光学顕微鏡(学校の実験で使うやつ)で細胞を観察するのはとてもたいへんで、生物学科を出た私ですら、ミトコンドリアを見たのは一回だけ、中心体はとうとう見ずに卒業しました。染色体は大きいから見えたけど、私が作った試料だとごちゃごちゃして重なっている像ばかりで、それぞれの形を把握することはおろか、数さえろくに数えることができませんでした。

 

 私の大学の先生に、核型研究をしている細胞学のスペシャリストがいましたが、もはや、背中から「職人のオーラ」を発していました

 

 その先生の話では、体細胞分裂の染色体を観察するためには、「中期のものを探し、極側から見るのが決まり」、だそうです。

 

 

 核分裂の中期と言えば、染色体が赤道面に並ぶ一瞬の出来事です。固定(殺して活動を停止させること)した試料を探しても、なかなか見つかりません。しかも、都合よくこちらに極側を向けているものとなると、何回も何回もプレパラートを作成しないと出会うことはありません。

 

 染色体研究をしていたその先生は、うまく染色体の観察ができる像を見つけることを、「あたる」、と、言っていました。

 

 細胞や染色体の研究はそんな世界なのです。私は受験勉強の経験しかなかったので、中期の細胞は横から見たもののイメージしかなく、お話にならなかったのです。プロはそんな方向から見ないのです。

 

 さて、中心体と言う、高校生には謎の構造がありますが、核分裂中期を極側から眺めると、まさに広がった染色体の中心に見えます。だから中心体(centrosome)と名前がついたわけで、名は体を表していたわけですね。

 

 

 中心体は動物細胞には普通ですが、植物では退化傾向がみられ、被子植物では観察できません。シダ植物にはあるので、雄性配偶子が鞭毛をつくらないようになるとなくなるのかなあ、って感じです。

 

 中心体は、細胞内で染色体を動かす紡錘糸の起点に見える構造です。

 

 高校生物を学習中のみなさんはもう、紡錘糸の正体が微小管呼ばれる細胞骨格の一種であることをご存じですね。チューブリンと言うタンパク質からできていて、モータータンパク質(キネシンやダイニン)のレールの役割を果たしているのでしたね。

 

 私が大学にいたころ、そんな知識はまだ下々に降りてきていませんでしたが、今では高校生物の冒頭で登場します。まさに隔世の感があります。

 

 新しい用語はカタカナなので、もう無理をして日本語にしなくなったことにも気がつきます。ちなみに、星状体という核分裂の際に中心体の周りに現れる放射状の構造は、海の向こうではアスター(aster)と呼ばれています。アスターとは花弁の細いキク科の植物の一群を示す言葉です。日本では星のきらめき、よそでは菊の花に例えたのですなあ。

 

 紡錘体は、明治の日本を支えた生糸を生産するときにつかった、紡錘(spindle)に由来します。私はまだ紡錘の現物を見たことがありませんが、今の日本があるのは生糸産業のお陰なのは世界史で学びました。

 

 

 あと、高校生がよく知らないことといったら、よくあるX(エックス)みたいな形をした染色体は、核分裂のときにしか現れない特別な状態ということです。このような状態になるのは、核分裂の前期から中期にあたるほんの一瞬です。エックスのように見えるのは、元々あったオリジナルの染色体とコピーが、動原体という部位で、まだくっついているからです。

 

 また、染色体の数え方にもルールがあります。染色体をカウントできるのは、事実的に中期だけですので、オリジナルとコピーて実際には二本あっても、まだくっついているうちは一本と数えます。割りばしの数え方だと思えばいいです。

 

 核分裂の後期には、動原体に付着した紡錘糸が短くなっていき、中心体(星状体)の方向に染色体を運んでいきます。

 

 

 最後に、核分裂の各時期の覚え方を紹介します。これを私は大学で教わりました。

 

 まず、「中期」を、昔の研究者に対するリスペクトを込めて覚えます。中期の前なら「前期」、後なら「後期」、後期が終われば終わりです(「終期」)。

 

 では、今日はこれでお終いです。