クスノキの生態系に見る共進化 | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

 

 

↑たけびしスタジアム京都

 

 昨年の末に、京都に行く機会がありました。たけびしスタジアム京都という競技場の敷地で大きなクスノキを見かけ、観察をしてきました。

 

 クスノキとは暖温帯を代表する照葉樹で、独特の芳香があり、昔から防虫剤として使われています。

 

 クスノキに限らず、多くの植物は虫が嫌がる物質を合成できるように進化を遂げ、食害から身を守っているのです。けれども、虫の方も進化して、やがてはその有毒物質を解毒する術を身に着けた種が現れるため、まるでいたちごっこのように、お互いに進化していきます。

 

 関係の深い生物同士が生き残りをかけて共に進化を続けているので、これを共進化といい、よく軍拡競争に例えられます。

 

 

↑枯れた葉に擬態しています

 

 さて、クスノキの葉の裏には、羽化した後の抜け殻がありました。

 

 共進化と言う言葉の意味することをしっておくと、例えば、「この蛹の殻の主はどんな生物なのかな?」、と、疑問に思って調べるときに便利です。

 

 

 

 そう、樟脳の材料になるクスノキを食べることができるように進化した蝶々なんて限られているはずなのです。

 

 ネットで「クスノキ 害虫」で検索をかけると、すぐに「アオスジアゲハ(Graphium sarpedon)」の種名をを見つけることができました。

 

 アオスジアゲハは、時々飛んでいるのを見かける、黒い翅にキラキラした青の模様の入ったアゲハチョウの仲間ですね。こんなところで蛹になるとは知りませんでした。

 

 あともう一つ。葉っぱの裏で不思議な光景に出会いました。

 

  

 

 葉の裏にシルクでつくった屋根のようなものがあります。そして、そばには無数の虫の死骸が折り重なるように。いったい、木の葉の上で何があったんでしょう。

 

 これについても共進化について学んでいれば、人知れず、どんなドラマがあったのか、想像することが可能です。

 

 

 

 この写真ような構造はシェルターと呼ばれておりまして、蛾の幼虫が身を守るためにつくるものです。よくハマキガの仲間とメイガの仲間が作り、両者ともにクスノキを食害する種がいるので、このどちらかのものでしょう。

 

 はっきりわからなかったんですが、どうやらチャハマキというハマキガの仲間が作ったものに似ているので、それではないかという結論にいたりました。ハマキガというのは、吐いた糸で葉を巻いたり重ね合わせたりして身を守るシェルターを作り、天敵から身を守ることで知られている強者です。

 

 ここには軍拡競争に例えられる共進化の一例を垣間見ることができます。

 

 クスノキは食害を受けると、唾液に含まれている成分を感じ取り、チャハマキの天敵になる寄生バチを誘因する物質を合成して放出することが分かっています。かつて、クスノキの葉も食害に反応して、たくさんの寄生バチを呼びよせたはずなのです。

 

 チャハマキなどハマキガ(葉巻蛾)の仲間の方も、寄生バチに襲われないよう、あらかじめシェルターを作るように、すでに進化を遂げています。

 

 したがってシェルターのそばでシルク(生糸)にかかって非業の死を遂げているのは寄生バチなのだろうなと推測されます。

 

 写真は、つまり、「兵どもが夢のあと」、と、題していいような光景を映していて、他の生物も巻き込んで、あの手この手を使って防御を強めたり、その防御を崩そうとした、進化的軍拡競走の顛末を示しているのです。

 

 見たところ、寄生バチはシェルターに対して数で勝負するようになっているのでしょうね。クスノキが呼び寄せた大量の寄生バチの総攻撃を食らって、シェルターに隠れた幼虫が助かったかどうかは分かりませんが、葉っぱが食われもせず青々としているところをみると、クスノキ・寄生バチ連合サイドの勝利に終わった感があります。

 

 クスノキ一本観察するだけで1時間授業ができそうです。食うものと食われるものの終わりのない進化の競争を身の回りの自然の中に見ることができます。

 

 クスノキの自己防衛の手段には、他にもダニ室があるしな。今度、やってみようかな。