ナナちゃんから、久しぶりに質問が来ました。
キンモクセイの葉の裏に、白い繭を見つけたそうです。
うわー、先生も、これ、見たことがあるなー。
自分で見つけた時には何とも思いませんでしたが、好奇心旺盛なナナちゃんの質問のお陰で調べる気持ちになりました。
まず、「キンモクセイ」の葉の裏にあったということですので、キンモクセイを食べる蛾の蛹(繭)の線で調べてみました。
そう、植物と昆虫との繋がりはとても深いのです。
昆虫は植物を食害します。動けない植物は一方的に食べられるしかないのですが、中には昆虫にとっての毒や嫌な匂いを作る個体が生じて生き残り、増えていきます。でも、昆虫もしたたかなもので、こうした物質を解毒できたり、耐性をもった個体が生き残り、増えて、再び食害を始めます。
こういった攻防が延々と繰り返されて種分化が進むことを、「進化的軍拡競争」といいます。
気楽に過ごしているようにしか見えないその辺の生き物たちも、実は生存競争の中で激しい競争にさらされているのです。
植物は多様な化学物質を合成できるものだけが生きています。こうした化学物質のことを二次代謝産物(天然物)といい、アルカロイドやポリフェノールが有名です。我々ヒトは、古来からこれらの二次代謝産物を医薬品や染料、香料として利用してきたのですが、そもそもは植物が自衛のために作りだしたものと考えてよいでしょう。昆虫も、植物の変化に対応できたものだけが生き残っているので、ある植物を食べる昆虫の種類は、割と細かく決まっています。
例えばクワとカイコガの関係がそうです。あと、モンシロチョウはアブラナ科の植物(キャベツ、ブロッコリーなど)しか食べないし、日本のアゲハチョウはミカン科の植物(ミカンやサンショウ)を食べます。あと、昆虫ではないけどコアラとユーカリの関係もそうですね。
ちなみに、キンモクセイの強い匂い(まさに二次代謝産物)は、多くの昆虫に対して強い忌避効果(蝶々の類に対するのは有名)があるので、あまり虫を寄せ付けません。
つまりは、キンモクセイを食べる昆虫なんて限られているわけです。だから、初動として、「キンモクセイ 害虫」、で、ネットで検索するのが妥当でした。
で、調べてみると、「マエアカスカシノメイガ(Palpita nigropunctalis)」、が出てきました。こいつは、他の多くの昆虫が嫌がるキンモクセイ、アオダモ、ライラック、ネズミモチといった香りの強いモクセイ科の植物の化学兵器(二次代謝産物)を攻略できたやつです。
蛾はシルクを吐いて繭をつくるので、これっぽいな、と思ったんですが、マエアカスカシノメイガは、葉を裏側に折り、そこに平面的に屋根を作るようにして糸を張るので、写真の繭の形状と食い違います。
困りました。他にモクセイ科の木に付くチョウ類と言えば、イボタガなんですが、これは繭をつくりません。
出口を見失ったときには、発想の転換をいたしますと光明を見出すことができます。
シルクといえば、蝶々の他にクモがいます。スパイダーシルクってやつですね。クモの卵のう(中からうじゃうじゃ子蜘蛛がでてくる)かもしれません。
そこで今度は、「クモ 卵のう」、で検索をかけると、卵のうクモ検定(合格する人の顔が見たいものだ)というサイトがヒットして、よく似たそれっぽい写真がたくさん出てきました。中でもジョロウグモの卵のうが一番似ています。
ジョロウグモならこの辺にはたくさんいるな。多分、これだろうな。所かまわずいろいろな場所に卵のうを生むようだし。
でも、糸を剥いで中身を確かめてみないとはっきりしたことが言えません。ジョロウグモ以外にも、写真のものによく似た卵のうを作るものがいます。
私は策に窮して、ナナちゃんに、「まだこの白い繭みたいなものがある?」、と、聞いてみました。
でも、「もうないんです~(;_;)」、と、言われてしまいました。
今回はお蔵入りです。
追記 よくよく見れば、何かが内側から這い出した後のようでもあります。つまりもう、中身は空っぽ。クモの子が散った後の卵のうって、こんな感じなのでしょうか。詳しい方がいたら、教えてください。