夜のトイレで出会ったのだそうですが、さすがのナナちゃんも、見て、いい気はしなかったようです。
がっかりした感じのコメントと共に、一匹の虫の写真が送られてきました。
この昆虫の名前を調べるにあたり、私は初動でミスをしました。この昆虫の分類を双翅目と考えてしまったのです。
普通の昆虫の翅の数は二対で四枚あります。しかし、双翅目のハエやアブの仲間では、その名が示す通り、胸部に一対の翅があります。残りの一対は平均棍(へいきんこん)と呼ばれる器官に変わっています。
顔を見たとき、アブっぽいな、と、思ったのが間違いのもとで。
ここから、道に迷った哀れな子羊のような目に遭います。
双翅目だと見誤った私は、触覚の長さに注目します。双翅目は、触覚の長さが短いか長いかによって、大きく2つのグループに分かれるからです。
長いほうは、長角亜目といって、ガガンボや蚊が属しており、短いほうは短角亜目といって、ハエやアブに属します。
この写真の昆虫の触覚はとても長いので、普通なら、この時点で間違いに気がつかないといけませんが、トイレに現れたという情報もあり、アブ関係ではないかと思いたい気持ちが、正しい思考を邪魔します。
やっと、思い込みの呪縛から逃れることができたのは、寝て起きて、翌日になっていました。
前日まで、新種か?などとも考える始末でしたが、いくら昆虫に記載されていない名無しのものが多いといっても、数が多く、普通に目にするものに、未記載の種はいないと考える方が適切です。
もう一度写真の昆虫の顔をよく見ると、今度は蝶々に見えました。蝶々の仲間と言えば、鱗翅目です。これはチョウやガの仲間で、鱗粉のついた翅が特徴ですね。
ここで鱗翅目と近縁とされる分類群を探すと、ありました。毛翅目です。
毛翅目というのは、いわゆるトビケラの仲間です。翅が刺毛に覆われており、複雑な模様を造ることができます。鱗翅目と共通祖先をもち、原始的な特徴を多く残しているのだそうです。
毛刺目だとすると、この昆虫の翅には複雑な模様があるのも納得できます。今では派手な蝶々も。大昔はこんな姿だったのでしょうね。
トビケラの仲間だと分かれば、あとは簡単でした。すぐにヒゲナガカワラトビケラと同定することができました。
ヒゲナガカワラトビケラは、水生昆虫である幼虫の頃の方が有名で、長野県では、「ザザムシ」と呼んで、つくだ煮にして食べるのだそうです。
日本全国に広く分布しますが、きれいな川に棲んでいるので、カワゲラやカゲロウと同じように河川の指標生物になります。
ナナちゃんは、きれいな川のほとりにあるトイレに入ったのだなと、思いました。