原核細胞と真核細胞その1 -細胞の理解に歴史あり- | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

 

 ほとんどの高校生は、今、「生物基礎」という、並ならぬ気合いが入った学習指導要領の改訂から生まれた理科の科目を学んでいます。

 

 その教科書をみると、これから社会人になる人が最低限身につけておくべき生物学的な教養が、愛情たっぷりにまとめられております。

 

 しかし、悲しいかな。誰かが呪いの魔法でもかけたか、学生が手にした途端、教科書とは、たちまち味気ない、難しいことばかり書いてある本に変わってしまうのは昔も現在も同じで・・・。

 

 本来、人間とは、誰に言われなくても教養を佳しとし、思考を楽しむ生き物なのに。

 

 やっぱりテストと競争がいかんのかなあ。

 

 教科書の弱点を、知識が豊富なわりに、いきさつを詳しく書いていないところにあるとするなら、経緯の話を補完すれば、きっと生徒は素敵な生物学のストーリーについてくるでしょう。本来は学校で教わる勉強は、たいへん娯楽性の豊かなものなのです。 

 

 実は、ちょっと思うところがありまして、今回は授業の補助教材に使うために作成したプリントを紹介します。

 

 「生物基礎」の最初の方に出てくる「原核細胞と真核細胞」についての理解は、本当に大切です。知らないと、健康への理解が、明治か大正時代の人と同じレベルになるかと思われます。それだと現代を生きている価値がありません。

 

 生徒に正しく認識を持って貰うために作りましたが、どうか。

 

 

 

 

 

 顕微鏡が発明されて、肉眼では見ることの出来ないミクロの世界を覗くことが出来るようになると、一部の人は夢中になって観察をしたようです。有名なのはイギリスのロバート・フックです。1665年、彼は30歳の時、「ミクログラフィア(顕微鏡図譜)」を出版して、細胞(cell)の名付け親になりました。

 

 ロバート・フックの良き顕微鏡仲間に、レーウェン・フックというオランダの人がいました。彼はロバート・フックと違い、ずっとミクロの世界の観察に没頭してその成果を発表し、微生物学に多大な貢献をしました。微生物の存在自体は彼が生まれる100年も前に気づいた人がいたようですが、微生物の「観察」を行い、「学問」の土俵に押し上げたのはレーウェン・フックの功績だと思います。

 

 レーウェン・フックの自作の顕微鏡は単レンズでしたが優秀で、200~300倍の倍率を誇ったと言われています。単純に考えると、1mのものが200~300mに拡大される倍率です。

 

 

 

 レーウェン・フックは、あるとき、自分の歯垢の中に、やたらに小さな動くものを見つけ、観察の成果をスケッチとして残しています。

 

 

 小さなものよりも、さらに小さなものが存在する。このひときわ小さなものは、やがて細菌(バクテリア)と名付けられることになります。

 

 あらすじだけ述べてしまえば、顕微鏡の性能が良くなって、さらに詳しく細胞の観察できるようになると、大きな細胞には核があるので「真核細胞」、小さな方にはないので「原核細胞」と呼ばれるようになったようです。

 

 

 

 17世紀の半ばになって、やっと細胞の存在に気づき始めた我々は、今でも少しずつ生物に対する認識を改め、更新し続けています。だから生物学はまだ、発展の途上にある頼りない存在と思わないといけません。

 

 私が高校時代に教わった生物学はすでに、過去の遺物みたいになっています。

 

 私の世代は、学校教育の中で、あらゆる生物を動物と植物に分けて理解するように教わりました。だからキノコ(菌類)は植物だったし、ミドリムシは植物なのか動物なのか、よく分からないまま終わりました。

 

 今の生徒は、高校で、「細胞内共生説」を習います。「原核細胞」からなる複数の細菌(バクテリア)のような細胞が共生することによって「真核細胞」が誕生したという、恐るべき考え方です。

 

 

 今の生徒は高校で「生物基礎」を習うから、ちゃんと教えれば、細菌と菌類の区別で迷うことはないはずです。そのくらい恵まれた教育環境に置かれています。

 

 ところが、そう上手にいかないのが実情かも知れません。

 

 自分自身が「真核細胞」から出来ていること。身の回りにいる目に見えない生物たちと深く関わって生きていること。生きものとは、そもそも何なのか理解することは、現代人として欠かすことが出来ない教養になるでしょう。

 

 ぜひ興味関心を失わせることなく、全員が「生物基礎」を習得できるよう、「原核細胞と真核細胞」の授業を頑張りたいものです。