理学部と工学部の違い | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

 たまに、進路決定に悩んだ生徒が私のところに来て、

 

 「理学部に行こうか工学部に行こうか悩んでいるんですが、どうしたらいいでしょうか…(lll-ω-)。」、

 

 なんてことを聞いてくることがある。

 

 そんなこと自分で考えて決めなさい( ̄□ ̄lll) 、と言うのが本音なのだが、それだと職業放棄に近いので、理学部と工学部の違いを説明することにしている。

 

 簡単に言ってしまえば、理学部は何の役に立つか分からないことを一生懸命やるところである。科学的探求心とか言う酔狂な(でも誰しもが持っている)ものが心の支えだ。

 

 だから、うっかり理科が好きだからというだけで理学部に行ってしまうと人生を左右しかねないような壁にあたる。

 

 まず、大学の同期の顔ぶれは高校までのクラスメイトと違って、間違いなく濃い。私も昔、びっくりした。オタクであることを微塵も隠そうともしない、腹の据わった強者ばかりだ。行動や言葉遣いもどこかマニアックで訳が分からないし、服装がだらしなくても気にしない。それはもちろん自分の見栄えなんかに興味がないためだ。

 

 こんなところでやっていけるんだろうか…?、と、いうのが、理学部の入学式で思ったことだった。だがしかし、鏡で自分を見ると、嗚呼、自らも奴らと似た気配を醸し出している(ノд`@)アイター 。

 

 そんな理科マニアックが集まって行う研究といったら、外から見たら、なんでそんなことやっているのか皆目検討がつかないものばかりだ。

 

 私の学友は、受験戦争を勝ち抜いて入学を果たした大学で、苦労して進級した上で入った研究室で、ある植物の種子の発芽率を調べて学生生活最後の一年をを終えた。

 

 「おれ、なんでこんなことやっているんだろう…。何のために生まれてきたんだろう…。」、と、その学友は、くる日もくる日もシャーレに培地を作りながら、卒業のためにとうつろな目をして手を動かしていた。嗚呼、あなたは理学部にくるべきではなかった…。

 

 理学の研究と言えば聞こえは良いが、偉いんだかなんだかさっぱり分からない、そんなことどうだって良いじゃないか、いったい何の役にたつんですか?、ということを一心不乱に昼夜を問わず熱心に研究してこそ、真の理学者の姿である。

 

 ちなみに私は、そのすぐそばで、毎日毎日、イチゴの種子の大きさを測ったり、表面の模様をスケッチしたり、世界中の誰もやろうとしないようなことをして暮らしていた。その生活は学部四年の一年間にとどまらず、大学院修士課程の二年も続いた。私はけっこう幸せだったので、理学部に向いていたといえる。ムカデが歩くとき、ムカデが自分の脚を踏んでいるかいないか、最新式の微速度撮影装置を使って調べようとしていたヤツよりは、自分の方が幾分マシだと思っていた。

 

 そんな私は、理学部の校舎を一歩出れば、ただの怪しいどこかの馬の骨だった。秋田に生える、幻のイチゴを採集しに行ったときは、わさび泥棒に間違えられて警察に突き出されそうになったこともある。

 

 理学、嗚呼、なんか言葉だけ聞くとなんだか格好いい。サイエンス、英語にすると、もっと格好いい。しかしてその実態は…。

 

 一転して工学部は、同じ理系学部でも理学部とは全然違う。コンセプトからして違う。進路に迷う純真無垢な高校生達よ、よく聴き給え。工学部の目的は、人の役に立つものを作り出すことにあるのだ

 

 だから、社会に対する貢献度の高い工業技術かどうか、産業化したときに利潤を生むかどうかが問題となる。このことを、「そんなこと、どうだっていいや」、と言い切る理学部の姿勢と工学部のそれとは明確なコントラストを生み出しているのである。

 

 理学部の研究目的は、研究費を貰うために書く申請書の上では立派なのだが、実際には研究者の興味・関心を満たすことに主眼がある。これがどう人の役に立つのかなんて、どうでもいいのだ。それは工学部なんかにいる他の誰かが考えることだ。不思議だから調べるのだ。

 

 こう書くと、理学や自然科学なんて物好きがやるもので、ちっとも役に立っていないじゃないかと思われがちだが、それは、そう思われるだけでなく、だいたい本当の話である。

 

 ちょっとだけフォローをするなら、理学での発見は、時折、めったにないことだけど、数百年にもわたって人類に貢献するときがある。真理と呼ばれるものがそれだ。教科書に載っている、何々の法則というのがそれだ。これは永遠に輝きを失うことはない。

 

 いわゆる工学部の発明とは、10年も立てばもう古くなってしまう。新しい技術がどんどん生み出されるからだ。ブラウン管や感光式フィルムなど、主流から外れて久しいではないか。

 

 このように、理学と工学は全く対照的な学問なのである。

 

 しかし、携わった人間に、人生の全てを捧げることを強いるくらいの虎の穴である点では同じだ。

 

 さあ、理学か、工学か、どっちに進む方がいいのか。高校生よ、よく考え給え。就職が良いのは工学部だ。理由は推して知るべし。高校生の頃、私は部活の先輩に、「理学部に行ったら、理科の先生になるしかないぞ。」、と、言われた。先輩の言ったとおりだった。