8月終わりの金曜の夜、自分のブログを見ていて、「SUUMO 」の広告が出ているのに気づいた。
なんとなく近所にどんな物件があるのかを調べてみたのが全ての始まり。
新築は3000万円以上するものが多い。とても買う気になれない。みんな、よく買うなあ。
ふと中古を見ると、あまりにもかわいい自分好みの中古の家が、格安で売られているのを発見した。これなら何とかなりそう。
まず外観が良かった。そして広い。敷地が130坪以上あって7LDKだ。それが、どうしてこのお値段なのだろう。
不思議に思って住所をグーグルマップで確かめると、海に近いことが分かった。
東日本大震災の影響で、海岸に近い土地が安くなっているらしい。静岡県では海から離れようとする人が多い。近くには原発もあるしね。
中古物件というものでは、建物の評価額は数百万まで下がってしまうので、ほとんどが土地の値段になる。その土地が安くなっているのだ。
私は寺田寅彦の随筆について書いた自分のブログ記事を思い出した。
でも、いいなあ。こんな家に住んでみたいなあ。夜の時間に湧いて出た衝動は押さえづらいものである。
一目惚れ?勢い?まあ、そんな感じで資料請求ボタンをクリックしてしまった。資料請求くらい、いいじゃないか。
週明けの月曜日、さっそくアイ○不動産会社の清○さんという方からお電話がかかってきた。
私は見るだけ見てみたいと思っていたので、見学をお願いした。
予定の日、実際に物件に行ってみると、担当の清○さんの他に、もう一人女性がいる。なんと売り主さんだ。
普段は東京に住んでいるのだが、今日はたまたま墓参りのため静岡に来ていたという。何という偶然。 「これも何かの縁じゃないでしょうか?」、と、清○さんも首肯していた。
売り主さんの言うには、もう、お子さんも独り立ちして東京に住んでおり、旦那さんも亡くなって、しばらく一人暮らしをしていたという。家に愛着はあるが、維持費が大きな負担となっており、売却にするか賃貸にするか悩んでいるところだったそうだ。
そんな愛着のある住まいを、私なんかが買ってしまって良いのだろうか…。頑張って維持した方がいいのでは?そんな気さえして、
「いやあ、そうなんですか。本当に売ってしまっていいんですか?」、と、私は売り主さんに聞いたりしていた。
すると、売り主さんは、こんな話をしてくれた。
昨日、亡くなった旦那さんのお墓参りをしていると、旦那さんが墓前に現れ、
「売って良いよ~。」、と、売り主さんに言ってきて、その直後に、私が見学にやってくることを清○さんから聞いたそうで、
「旦那の言っているのはこのことか?」、と、思ったそうだ。
改めてお墓を見たときには、旦那さんの姿はもうなかったという。
こうして、もし私が大切にしてくれそうな人なら譲ってもいいと決断されたようだ。
そう言われて、私としてもこの話をまとめないと、なんだか亡くなった旦那さんに申し訳ないような気がしてきた。
「これも何かの縁じゃないでしょうか?」、と、清○さんは、やはり首肯していた。
大きな判断を求められるときほど、人間は縁や迷信に従ってしまうものかもしれない。
結局、私は、その場で、「家を買う」という一生の一大事を決断してしまった。
「よろしければ譲ってください。大切にいたします。」、という言葉が口から出ていた。もちろん、家を気に入ったことが最大の理由なのだが。よくもまあ、言えたなあ、私なんかに。
何かの縁、それを裏付けるかのように、とんとん拍子で話が進んでいった。
清○さんも、「普通は、こんなにスムーズに決まりませんよ。ローンが組めなかったり、先に売買が決まってしまったりして、気に入った家を買うことができない人も多いのです。」、と、言っていた。私は運が良かったらしい。
私は理科畑だが、迷信を信じないではない。この家の購入が、私の人生を豊かにしてくれることを信じている。
で願わくば、墓前の旦那さんの真意が、
「もうすぐ地震がやってくるから、今のうちに売っておきなさいよ。」、と、言うことでありませんように。