今週NHK・BSの昼の時間帯で横溝正史の映画が連続して放映された。
代表作『犬神家の一族』を筆頭に、『悪魔の手毬唄』、『獄門島』、『八墓村』
の一挙放映。NHK・BSで放映ともなると横溝作品が『ローマの休日』や
『東京物語』のように〝正しい″古典としての扱いになっちゃった、ということ
なのでしょうか。
それにしても『犬神家』の様式美とプロットのはり方は素晴らしい。個性豊かな
登場人物。そのキャラと独創性は際立っていると思う。佐清(スケキヨ)は存在
のみならず、その名前(ネーミング)からして常人の知識の及ぶところではない。
横溝正史は天才です。
復員してきた犬神 佐清初登場の名シーンより
しかしそんな横溝正史にも不遇時代があった。戦前から戦後にかけて
人気作家になったものの、松本清張の出現によって、急速に人気に陰りが。
そして次のブームは角川春樹のプロデュースと1970年代後半の角川映画
隆盛の時代を待たなければならなかった。
wikiによると原作は『獄門島』(1947年)、『八墓村』(1949年)、『犬神家の
一族』(1950年)、『悪魔の手毬唄』(1957年)に発表された作品で、それらに
太平洋戦争の匂いがプンプンしているのは敗戦後すぐという時代が色濃く
反映していたわけである。
一方、松本清張が評価を受けた『或る「小倉日記」伝』(1952年、芥川賞受賞)、
『点と線』※(1957年)とちょっと後であることを考えると、いかに清張の出現と
そのワイプ力が凄かったか、ということなのだろう。
確かに信じられない名前の登場人物のオンパレード、猟奇的で〝絢爛豪華″な
殺し方(佐清にそのとどめを刺す、シンクロナイズドスイミングの先駆けのよう)、
金田一さんが難問を一挙に解決という、ふつうに考えればありえない横溝正史
ワールドに対して、刑事が地道に張り込む、東京駅の4分間のトリック、犯人の
悲しい動機、など清張作品にはリアリティーがあった。日本の探偵はどちらかと
いうと浮気調査で、警察ではないのだ。
高度経済成長期では横溝ワールドをエンジョイできるほど、世の中は豊かでは
なかった、余裕がなく、シャレが通じなかった、ということなのだろう。しかし平成
になり、NHKが放映するほど、世の中が横溝ワールドに違和感がなくなった。
最後に横溝の小説でいえば、わたしは『獄門島』が好きだ。この作品、もう見事
というしかない。小説の帯に
『着想といい、舞台といい、文句なし。』(北村 薫)
ホントそう思います。読んでいない人は読むべし。
※ どういうわけか松本清張はこの名作の巻頭1ページ目において、機械工具商「安田商会」を
登場させた。わたしが今まで読んだ本で知る限り、機械工具商が小説に出てくるのは
これだけである。 清張さん、ありがとう。しかし残念なことに殺されちゃうんですが・・・