読書⑤ 『冬の鷹』 吉村 昭著 | そういえば・・・

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まとめて吉村 昭ドドーン

日本人ならみんな知ってる「解体新書」は杉田 玄白著。歴史で暗記したから

知ってると思う。これくらい知っとかないと日本史では点が取れないよ。

またさらに知ってる人は元本がオランダの「ターヘル・アナトミア」であること。

まあ、ターヘル・アナトミアを読んだことのない人も、

解体新書=杉田玄白=ターヘル・アナトミア と、この一対一対応で暗記

していれば、試験はOK。クイズにもでそう。

 

 

 

 

皮相的な知識で良いというのであればここまでだが、吉村 昭はここからが

すごい。ほとんどの人がふつう通り過ぎてしまうところを、その奥にまで光を

当て、本当のところはどうであったのかを推論する。そして当時の人が如何に

大変な作業を乗り越えて来たのかをこの歴史小説で詳(つまび)らかにする。

 

吉村の歴史小説はたいてい膨大な歴史的事実に対する検証という裏付けが

ある。仮に証人が生きているようであれば直接会って聞き取る、歴史書が

あれば、それを読んだ上でその専門家に意見を求める。読者がつるっと

読める文章の背後にそういった地道で丁寧な作業が必ずあるのだ。

 

 

 

 

 

そしてこの『冬の鷹』はどういう話しかというと、主人公は前野良沢。杉田玄白

ではない。時代は江戸時代の1771年。まだ幕末というには早すぎる頃の

はなしだ。当時のオランダは徳川幕府が交易を認めていた西洋唯一の国で

あったから、長崎・出島でのやりとりは可能であった。しかし誰もが志せば

オランダ語の習得ができる、ということではなかったようだ。

 

 

 

オランダ語を操る武士は「通詞(つうじ)」「大通詞(おおつうじ)」といい、

その一族の家伝であり、他人がおいそれと近づく事すらできない、一子相伝

の奥義である。親から子へ、子から孫への門外不出の技術、それが往時の

通訳という仕事であった。

またその頃は辞書があるわけでもなく、つてもなければ教えてくれる人もいない。

さらにさらに、翻訳しようとした対象が、当時の先端医学書。言葉もわからない

のにどうやって翻訳するのか・・・

 

明治維新以降の近代日本以前に、すでに日本人による世界の先端医学への

アプローチがなされていた。『解体新書』の訳出は医学界の金字塔とも呼べ、

のちに西洋の進んだ科学を受け入れることへの先駆けとなる。

 

 

(今も昔も日本人の職人肌のDNAは不変だ)

 

 

やる気になれば何でもできる、人生気合いだ。