前回の続きです。↓

 

 

2週間ぶりに病院を出た私に、冷たい秋風が吹き付けます。

 

病院は一定の温度が保たれていて暖かかったので、外の寒さに思わず身震いしました。

 

 

その日の食卓は私の好物ばかりが並びましたが、あまり食欲がなかった私はほとんど食べられませんでした。

 

それでも、久しぶりの我が家は居心地がよく、夕食を終えてソファーに横になっているうちに、いつの間にか眠ってしまいました。

 

 

翌日、両親が仕事に行った後、せっかく退院したのだから少し外へ出てみようと、厚着して散歩へ出かけました。

 

ですが、近所の公園まで歩いているうちに疲れてしまい、公園のベンチに座ったきり、しばらく動けなくなってしまいました。

 

以前は余裕で歩けたのに…。

 

自分の体力が思いのほか落ちていることにショックを受けました。

 

そんな私の前を、子供たちが歓声をあげて通り過ぎていきます。

 

私は無邪気に駆けていく子供たちを、ただ羨ましく見つめていました。

 

「病気になって初めて健康のありがたさが分かる」

 

以前、どこかで聞いた言葉ですが、この時私は痛感しました。

 

何気なく過ごす日々がどれほど幸せなことなのか。

 

空気のように当たり前すぎて、そのありがたさに今まで気付かなかったのです。

 

 

帰り道、昼食を買いに近くのスーパーへ寄ったときのことです。

 

惣菜売り場で商品を見ていた私に、カートを押していた女性が軽くぶつかりました。

 

「あ、すみません。ちゃんと前を見ていなかったもので・・・」

 

女性は丁寧に謝ってくれましたが、運の悪いことにカートが私のお腹にあたってしまったのです。

 

「大丈夫です…」

 

かろうじてそう言いましたが、本当は痛くて傷口から出血していないか不安になりました。

 

なるべく急いで帰宅した私は、すぐにお腹の傷を見ました。

 

幸いなことに出血はしていませんでしたが、痛みが続いていたので、大人しくソファーに横になっていました。

 

 

夕方、仕事から帰ってきた母は、ソファーでぐったりしている私を見てビックリしました。

 

私が事の次第を話すと、

 

「なんでスーパーなんかに行ったの!そんな人が多いところに行ったら危ないでしょ!自宅静養してなきゃダメじゃない!」

 

ものすごく怒られました。

 

「出歩いたらダメ!重い物を持ったらダメ!とにかく安静にしてなさい!」

 

母は命令口調でまくし立てると、すぐに夕食の準備を始めました。

 

退院したのに、自由に動き回れないんだな…。

 

私は複雑な思いでした。

 

仕事をしている母の代わりにせめて家事ぐらいはしたいのに、今の私はそれすら満足に出来ない状態なのです。

 

仕事から帰って疲れている母に、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。