白石さんが検査に出かけている間、担当医が病室へ来て私の診察をしました。
「傷の治りが早いし、血圧や血液検査の結果も異常ないから、明日、退院していいですよ」
そして、退院後、生活する上での注意点を説明しました。
「しばらくはシャワー入浴を続けてください。傷口が完全にふさがるまではね。そして2週間後にまた診察に来てください」
急に退院が決まった私は、すぐに母へ連絡し、翌日の午前中に迎えに来てくれるよう頼みました。
「荷物が多いだろうから、お父さんと一緒に行くから!」
母は大喜びで答えました。
しばらくして、検査を終えた白石さんが病室へ戻ってきました。
私が、「急ですが、明日退院することになりました」と、伝えると、
「よかったわね!これで晴れて自由の身ね!」
心から喜んでくれました。
そして、ふっと暗い顔を見せた後、小さなため息をついて言いました。
「私はね、明日から抗がん剤治療が始まるの。前も受けたことがあるんだけど、私はひどく負けるのよ。げえげえ吐いて熱も出て、のどをかきむしるほど苦しむの。髪の毛も抜けてしまうしね・・・」
一瞬悲しげな表情をしましたが、すぐに微笑みを浮かべて私の方へ向き直りました。
「あなたが明日退院でよかったわ。あなたに、そんなみっともない姿見せたくないもの」
私は何も言えず、ただ白石さんの澄んだ目を見つめるばかりでした。
そして、どこまでも人を思いやる白石さんの心の美しさに感動し、胸が熱くなるのを感じました。
退院の朝。
朝食を終え、荷物をまとめている私のところへ両親がやって来ました。
2週間ぶりに私を見た父は、
「ずいぶんやせたなぁ…」
と、苦笑いを浮かべて荷物を運んで行きました。
母は、白石さんと何やら話した後、
「上品で素敵な人ねぇ・・・」
と、私に耳打ちし、「看護師さんにあいさつしてくるわ」、ナースステーションに向かいました。
着替えを終えた私は、白石さんのすぐそばまで歩み寄りました。
「短い間でしたが、お世話になりました」
白石さんは、にっこりした後、
「お世話になったのはこっちの方よ。あなたには助けられたわ」
骨ばった手をゆっくり差し伸べ、私の手をしっかり握りました。
「これから何があっても、胸を張って堂々と生きてね!」
「はい・・・」
私は涙をこらえながら強く頷きました。
そして、聖女のような彼女に深々と頭を下げ、病室を後にしました。