以前に書きましたように、中国の都市部には2種類の人々が暮らしています。
都市戸籍を持つ人々と農村戸籍を持つ人々です。
都市部で肉体労働に従事しているのは殆どが後者で、彼らは「農民工」と呼ばれています。
農民工の大半は不幸にも教育を受けることができなかった人々ですので、彼らには教養・社会性・マナーといった素養が備わっていません。
僕は日系企業の蘇州工場に勤めているのですが、工場には製造ラインで働く「直接員」とオフィススペースで働く「間接員」の2種類の従業員がいます。
直接員は農村戸籍の人々、間接員は都市戸籍の人々です。
中国での工場経営の苦労のひとつは、農村戸籍の直接員たちをどう管理していくのかということです。
彼らは工場の廊下で平気で飲み食いをして、食べかすを廊下に投げ捨ててしまうような人達です。
このような人たちにマナーを守らせて、来客に対して恥ずかしくない工場を維持するのは本当に大変なことです。
中でも苦労が絶えないのは、彼らによる製品や部品の盗難です。
彼らによる盗難を防ぐ為に、工場の出入り口には空港にあるようなX線検査器が設置してあります。
それでも、正規の出入り口以外の場所から持ち出したり、警備員を買収してX線検査器をすり抜けたりして、盗難事件は後を絶ちません。
僕の勤め先が製造しているのは電子部品なので、一般人が盗んでも使い道はないのですが、電気製品の修理屋が盗難部品を買い取ってくれるのだそうです。
そして、電子部品やその部材に限らず、手袋などの製造現場で使う消耗品も頻繁に盗まれます。
こちらは家庭で大掃除をするのに使うのだとか。
おいおい、静電気をカットする特殊な材質で作られた高価な手袋をそんなことに使わないでくれよ・・・・。
彼らの犯罪に対する抑制心はとても低いです。
ひょっとしたら発覚する事例はほんの一部で、実際には発覚していない案件が多く、彼らにとって会社の財産の窃盗は発覚リスクの低い行為なのかも知れません。
あるいは、彼らは熱心に働いても都市戸籍を持つ人達に肩を並べる収入を得られるようになることはないので、人生に対して自暴自棄になっているのかも知れません。
こういう問題に対応していると、中国における工場運営とは、まるで刑務所の看守のような仕事だという気分になります。
従業員との間に信頼関係を取り結ぶことができず、従業員を疑ってかからないといけないというのは悲しいことです。
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