二つの中国 | 蘇州日記

蘇州日記

2015年4月から蘇州に単身赴任しています。蘇州での生活をブログに書いてる人が大勢いて、赴任前にとても参考になったので、真似することにしました。

二つの中国と言っても、台湾と中国大陸の話ではありません。中国大陸の中に2種類の中国人がいるということを書きたいと思います。より正確には、中国大陸の都市部には2種類の中国人が暮らしています。



日本では近年、コンビニやファーストフードの店員に外国人を使う例が増えています。少子化に伴う若年労働者の不足と賃金の高騰に企業側が対応しているのでしょうね。

このような外国人労働者の活用と似たようなことをかなり前から行っているのが中国です。

とは言え、中国で活用されているのはれっきとした中国人労働者ですので厳密には外国人ではないのですが、「外国人」と言ってしまいたくなるほど、雇用者側の中国人とは異なる人々です。

それは、農村出身の労働者たちです。

中国の都市部でブルーカラー的な労働をしているのは、その都市の出身者ではなく農村から出稼ぎに来た人々です。

都市部に比べて農村部が貧しく、農村から都市に多くの人が出稼ぎに出るのは中国だけの話ではないのですが、中国にはちょっと特殊な事情があります。



都市部出身の人々と農村から来た人々の間には、単なる経済格差を超えた、物凄い違いがあるのです。

中国では戸籍は地方自治体が発行します。日本でも発行事務そのものは自治体が行いますが、これは国の業務を代行しているだけで、どの自治体で発行された戸籍にも法的な違いはありません。

しかし、中国の戸籍は地方自治体による行政サービスの土台として使われています。地方自治体は、その自治体が発行した戸籍を持つ人にしか行政サービスを提供しないのです。

そして、中国の戸籍は日本の住民票のように、引越しをすれば簡単に新しい自治体のものに取り替えられるわけではありません。詳しくは知りませんが、出生地以外の戸籍を入手するには難しい条件があり、特に農村戸籍を都市戸籍に切り替える為のハードルは高いのだそうです。

ですから、都市部で店員や工場労働者として働いている人々の多くは、その都市の戸籍を持っていないのです。



その結果として、都市部で働く農村出身者の多くは教育を受けられなかった人々です。

親が出身地を離れて都市部で産んだ子供なので、住んでいる自治体では義務教育が受けられなかったのです。

もうひとつのパターンとして産児制限政策(通称「一人っ子政策」)に反する子供である為に教育を受けられなかったというパターンもあります。



農村部から都市部に働きに来た人々を通称「農民工」と呼びますが、彼らは残念ながら無学で常識に欠け、集団生活を行う訓練を積んでいません。

都市部出身の中国人とは全く異なる人々なのです。



海外で仕事をしていると、先進国が後進国を搾取する経済構造というものに心を痛めなければならないことが多いのですが、中国では同じ国の中で都市部による農村部の搾取が行われているのです。

中国には、この「2種類の中国人」という概念を持ち出さなければ理解できないことがたくさんあります。

例えば2012年に起きた反日デモと最近の中国人観光客による日本旅行のことを考えると、これが同じ国民とはにわかに信じがたいですが、反日デモに参加していていたのは農村出身者で、日本旅行をしているのは都市部出身者ですので、全く異なる人々による活動なのだと考えると納得することができます。

また、マクドナルドのようなアメリカ系の店ですら英語が全く通じないという事実と、TOEFLなどの英語テストの平均点は中国の方が日本よりも高いという事実も、マクドナルドの店員は農村出身者で、TOEFLを受験しているのは都市部出身者だと捉えると理解することができます。



僕は日本企業の工場に勤めていますが、工場の生産ラインで実際に製品を作っているのは農村出身者、オフィスで一緒に働いているのは都市部出身者ということになります。

今後、蘇州生活のいろんなことを紹介していくにあたって、この「2種類の中国人」という概念がしばしば登場すると思います。


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