今回はおもに谷崎潤一郎の「途上」という短編を読んだ感想…、

雑感からの無責任な考察です。

新年に今年は「文豪ストレイドッグス」をきっかけにして文豪の作品を読むぞぉ!
そんでもって、それを動画にするぞぉ!
っと威勢のいいことを書きました。

 

あれ?

読み返したら、

この記事 の最後にちらっと書いただけだった

で、なんとか6人目までたどり着きました。

最新の宮沢賢治の動画はこれ

 

?

…なんか自分の宣伝みたくなってた…

 

今回は谷崎の「途上」の話です。

 

 

 

Kindleです。

99円です。細雪も格安だった…、

文豪なのにねぇ。

著作権フリーっておそろしい…。

 

「途上」を知った経緯

江戸川乱歩さんの解説を読んでいた時です。

江戸川乱歩が谷崎の「途上」を読んで、

「プロバビリティーの犯罪」という言葉を作り、

自分でも「プロバビリティーの犯罪」をテーマに

「赤い部屋」という作品を書いたとあったのです。

で、

乱歩の「赤い部屋」と谷崎の「途上」どちらも読んで…、

谷崎の「途上」の完全犯罪に…恐れおののいた…

というか…、
「マジ怖い!」と思ったのでした。


プロバビリティーの犯罪って?

 

乱歩が名付けた「プロバビリティーの犯罪」とはトリックの…いわゆるジャンル。

手段として確実ではなく偶然性にたよるものの、

(直接手をくださないので)犯行がばれにくい、

そして完全犯罪となるトリックのことです。

江戸川乱歩は犯罪や殺人という結果ではなく、

あくまでもトリックのひとつとして解説しています。

江戸川乱歩のキンドル版の全集のどれかで読んだのですが…、

どれだったかわからなくなっています。

あ、でも
「乱歩 プロバビリティーの犯罪」

で検索すると、weblio辞書で解説されています。
ここでは「階段上にビー玉を放置して…」と

いう手段が紹介されています。

…と、ここまでを踏まえて、
あらためて谷崎の「途上」についてです。
 

「途上」あらすじ

すっかりトリックをネタバレしています。

なので、

ご了承の上、以下にお進みください。


新橋の大企業に勤める法学士(法律事務担当)の湯河。

この日、彼はもらったばかりの冬のボーナスで新妻にプレゼントを

買って帰ろうと銀座方面へ向かっています。

途中で探偵に声をかけられました。

探偵は、
「湯河さん、実はあんたの調査を頼まれていて…、

本人に聞くのが一番だから、話を聞いてもいいかい?」

湯河の新妻…実は訳ありで未入籍…。

彼女の家族が結婚に向けて調査している!?

と考えて湯河は探偵との会話に応じます。

探偵は湯河の前妻の話に終始します。

前妻は運が悪く何度も事故にあい、

病弱でもあったので入退院を繰り返し、

病死していたのです。

 

そして探偵は、話を聞きたいと言ったくせに

すでに詳細に調べ上げていました。

表面上の出来事…、

それは夫が妻を気遣って、それが裏目に出たようにみえるけども…?

 

と言いながら、

じゃあ、

例えばこんなことがあったとしたら?

と、妻を排除したいと考えた夫がしたことだと、

まるで他人事のように

探偵は具体例を挙げていきます。

 

たとえば、

●まだ相乗り自動車が珍しく、

事故が頻発していた時期…、
夫:「悪い風邪が流行っている。

電車は多くの乗客がいて危ないから、

比較的人の少ない乗合自動車がいい」と勧め…、
→前妻は乗合自動車の事故で軽傷を負っています。

●今は女性もこんな嗜好品が流行っているよと、

「酒」や「たばこ」を勧めたり、
→前妻は「酒」にははまりませんでしたが、

「たばこ」は習慣になってしまった。…肺が弱かったのに。

●冬のガスストーブのガス栓が緩んでいたり…。

 それでガス漏れしない程度、ぎりぎりの加減。

→寝巻の裾がガス栓を緩め、前妻はガス中毒になりかけた。


●上水道の浄水設備が信用できない時代。

あえて中毒などが頻発している地域へ引っ越す。

夫の言い分は「郊外のほうが空気がいいからね」
→妻は何度もお腹を壊した(深刻なレベル)。

●親戚が流行感冒で倒れたからと、

妻に見舞いに行くように勧めたり、
→その時妻は病み上がりだった。

この時の風邪がもとになって、

ついに亡くなってしまった…。

こうした実例には、ある一面を見れば

「妻のためを思って」と理由がつきました。

 

(ガス栓については、別ですが…)

 

「でも、こんなに頻発して、

繰り返されれば、

そこに夫の殺意が見えてきます」と探偵。

探偵は実際にあった事故…事件を詳細に解説。

ついでに殺意ある夫の本心や手段にも触れて話します。

 

湯河は顔面蒼白となり、

遂には言い訳も思いつかなくなります。

そして、探偵は根本的な動機も言い当てます。

今同棲している女に惚れて前妻が邪魔になったから!

そして

湯河の調査依頼は前妻の父親によるものと告げました。

そう聞いた湯河は崩れ落ちる…。


※作中にはない情報追加

 

探偵は、湯河が前妻と何年の何月に出会い、

結婚が大正2年10月で、妻の死が大正8年4月。

その間のこまごまとした事件の年月を詳しく話します。

が、

作中の今が何年かは書かれていません。

現代の読者はここで少し不利です。

分かっているのは12月のボーナス時期ということだけ…。

 

でも、当時の読者は事件の具体例の前に、

会話の最初の方、

妻が大正8年4月に病死していると知った瞬間に

湯河へ疑いを抱きます。

 

だって、この短編が掲載されたのは

大正9年1月号の雑誌なんですから…。

 

物語の冒頭で湯河は

今、一緒に暮らしている女性にプレゼントを買いたいのです。

今と考えられるのは、大正8年の12月。

たった半年前に、愛していたはずの前妻を失ったんですよね???

って感じ。

 

今の私たちが読むと、この作中の今は何年?

これは謎ですが、当時の読者にはそれは明らか。

となれば、湯河は最初から疑わしいことこの上ない。

 

だけど、

この妻殺しの犯人、湯河は罪に問われるのでしょうか?
という冷めた感想を持ってしまった。

 

だって、彼は情報を与えただけ。

間違った目的で、ずれたアドバイスをしただけです。

 

唯一手を下したかもしれないガス栓についても、

彼は触れただけで簡単に栓が緩むくらい、

ぎりぎりを狙って緩めただけです。

彼が触った時にガス漏れはなく、

妻の裾がこすれて栓が緩んだのなら…?

 

それにこれで妻が息を引き取ったわけではありませんし…。

 

だけど、

 

本当に怖いのは妻を排除しようとし続けたこと

少なくとも2年以上です。
「こいつ、しんでくれないかなぁ」と思いながら、

ちょこちょことずれたアドバイスをして、

妻は夫の言葉に従って事故でけがしたり、

風邪やチフスなどの病気でまあまあの危篤状態となったり、

 

それでも妻は最後まで、夫に従っていた。

夫は妻に感謝されていたとさえ言ってる。

 

何度も排除しようと試みる。

何度もうまくいきかけて、でも失敗する。

その都度、別の方法を考える。

相手はずっと自分を信じている。

 

ついに、目的を達成!

ターゲットは病に倒れて命を落とした。

 

怖くない?

怖いでしょ!

わたしはかなり怖かった。

 

一緒に暮らしていたのに。

それを実行する湯河も怖いけど、

死んでしまった妻…、なにを考えていたの?

本当に気づかなかったの? それとも!?

 

ここまでがホラーの序章だと言われても

信じます!

 

でもって、最後、

顔面蒼白で探偵の前で崩れ落ちた湯河ですけど。

 

ここまでやりきった湯河がそんな簡単に崩れる?
あんなにも冷淡に妻をだまし続け、

徹底して愛しているふりをしていたんでしょ。

 

優しい言葉をかけ、

相手に愛情を信じさせていたんでしょ。

そのうえで殺害したんでしょ…?


いやいや、探偵は事実を列挙しただけ、

殺意ある夫の心情を「こうだろう」と推察して言っただけ。

 

確かに回数は度を越していたけれど、

証拠はなかった。

 

2年も殺害ターゲットと仲睦まじいふりをして暮らした男ですよ。

「殺意などなかった」「善意が裏目に出ただけだ」と言い張るでしょうよ。

 

と思ったのでした。

 

そして、わたしは個人的に、

本当に私個人の感想なんですけど…、

 

作家谷崎自身に…一部の女性への蔑視を感じるんだよなぁ。

なんとなく、ね。

 

他の女と結婚したいからって、

自分の妻を知人に譲ろうとした男だから、かなぁ?

気持ちのなくなった相手を人間扱いしてないように見えてしまう。

 

いや、やばい、思考がとりとめもなく…。

 

とにかく!

最後に湯河というキャラクターにブレを感じてしまったのでした。

 

「途上」からインスピレーショを得て江戸川乱歩が書いた「赤い部屋」について

この種のトリックを「プロバビリティーの犯罪」と名付けた江戸川乱歩の「赤い部屋」ですが…。

こちらはいかにも作り物めいていて…、というか、あくまでもトリックなんです。

 

乱歩って常識人なんだなと感じました。

トリックをつかった犯罪は、

作中、どれも成功していますが、

最後の「嘘だよ…」のオチもあるし、

乱歩はやっぱり作り物は作り物として楽しんでほしいと…

ほかの作品解説でも書いていたんですけど、

 

自分の幻想怪奇小説は、

現実には起こりえないことを楽しむものと書いていた通りで…。

 

完全犯罪を書いた作品としては「途上」のほうがすごいけど、

作家としては乱歩のほうがずっと好感が持てるのでした…。

 

あ、わたしは、ね。

これは好みの問題ですよね、きっと。

 

そう「赤い部屋」の犯罪は、どれも…、

最初のひとつを除いてしっかり有罪になりうると思うのでした。

 

そしてさらに思考が飛んで…。
 

「薬屋のひとりごと」にはプロバビリティーの犯罪がいっぱい


アニメ放送済の分。

書籍版だと1,2巻の内容ですが、

別々の事故や事件と思われたものが、

終盤で、実は翆玲が偶然に見せかけた犯罪だとわかります。

このトリックがプロバビリティーの犯罪ですね。

●例えば粉塵爆発が倉庫の倉庫番に、

素敵な煙管を渡したり。
→煙管を渡しても、

倉庫番が必ず倉庫内で煙管を使うかどうかは、確実じゃない。

●特別な処理をしないと毒になる海藻を好む人物A。

そのAを排除したい人間Bに、

毒抜きしていない海藻を購入する方法を知らせたり。
→Bが本当に海藻を購入するか、

Aが本当にその海藻を食べるのか、A,B次第。

 

不確実ということは、実現しなかったほかの無数の試みが、人知れず行われていた可能性もあるということ!


そしてここまでの事件は、壬氏暗殺という大きな目的のためのものでした。

あの祭事の事故もプロバビリティーの犯罪というトリックですよね。


だって、可能性は高いけれど、あの重い柱は本当に、都合のいいタイミングで落ちて来るのか、肝心なところは偶然に任されています


…ということで、
こんなに長い記事を最後までお付き合いくださって、

ありがとうございます。

 

 

以下は参考図書です。



江戸川乱歩「赤い部屋」を含むKindle本

 

 

短編集ですが、「¥50」って…。

時代を間違えたかのような価格です。

 

繰り返しになりますが、著作権フリーって恐ろしい。

あとは、キンドルはデータってことですね。

実体のある紙の本はさすがに新品をこの値段では買えませんし…。


「薬屋のひとりごと」書籍版2巻。

 

 

この本で一番好きなところは、

このページの記事とは関係のない羅漢のエピソードですけど…