「渡くんの××が崩壊寸前」7巻はある意味、「渡直人の巻」とも言えるのでしょう。

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6巻第6話において、館花紗月に甘えてしまう自分を認識し、そして、石原紫の母親である石原美桜の問いかけを思い出し、自分が「子供」であることを自覚した渡直人は、自立した「大人」を模索し始めたのでしょう。渡直人が抱く「焦り」は、そんな彼の成長の痛みでもあるのでしょう。そして、その果てに渡直人はようやく彼が「一番大切とするもの」を再認識します。


「渡直人の心境の推移について」においては、6巻第6話に端を発する渡直人の「大人」への模索の過程について考察するものとします。

今回は7巻第3話の序盤部分について考察します。

以降において、作中の記載は青字で、個別的な考察は赤字で記載させて頂きます。


1狼狽える渡直人に対する館花紗月の発言(7巻第3話)

狼狽えたように明日すべき事を矢継ぎ早に口にする渡直人を館花紗月は訝しげな目で見つめ、そしてこう口にする。

「一人で抱え込むなよ」

「前に私にそう言ってくれたの直くんだよ」

(あの時と同じ言葉(7巻第3話))

渡直人は以前、彼が館花紗月にそう語ったときの状況を思い出し、虚を突かれたような表情となって、「う」と言葉に詰まる。そして、「オレの場合は」と自信なさげに言い訳を口にする。

(うろたえ、言い訳(7巻第3話))

[考察]

館花紗月の発した「一人で抱え込むなよ」という言葉の意味合いについてですが、これは今後の文脈において重要なニュアンスを含むものと思われます。直接的には言及しないもの、館花紗月としては渡直人に何らかの提案なり要望もこの言葉には込めているのでしょう。

また、この台詞は元々は渡直人が以前に口にしたものであり、館花紗月・渡直人共にこの台詞への思い入れはあるのでしょう。館花紗月がこの台詞を口にしたのも、突発的なものではなく、以前からの心理的な連続性があってのことだと思われます。

些か迂遠ではありますが、以下、何故、渡直人が以前にこの台詞を発したのか、そして館花紗月はこの台詞をどう受け止め、そして何を意図してこの台詞を彼女の口から発したのかについて考察します。


①元々の渡直人の発言について

渡直人がこの言葉を発した時の状況について簡単に説明した上で、如何なる心理的な背景があってこの発言に至ったのか、そして彼は一体何を望んでいたのかについて考察します。

その1:発した時の状況(5巻第2〜3話)

夕方にバイトを終え、約束していた石原紫とのデートに向かおうとしていた渡直人は、制服姿で何処かに向かおうとする館花紗月を目撃する。「嫌な予感」を抱いた渡直人は館花紗月を追いかけたものの、所謂「大人な世界」な場所で見失ってしまう。

(懸念(5巻第2話))

以前に館花紗月の言っていた「もっと時給のいいバイト」、そして「大人な場所」とが心の中で結び付いてしまい、不安に苛まれる渡直人。石原紫との約束の時間であったため、館花紗月の行方を捜索することは諦め、やむなくデートに向かう渡直人。しかしながら、石原紫とのデートの最中であっても渡直人は気もそぞろであった。デートを終え、そして別れ際に渡直人は石原紫から夏休み中に彼女の家に遊びに来て欲しいと言われる。石原紫と別れた後、彼女の言葉は結局は渡直人の中で館花紗月に対する懸念へと結び付いてしまう。

(拭えぬ懸念(5巻第3話))

結局、渡直人は遅い時間であるにも関わらず、館花紗月の部屋を訪ねてしまう。思い詰めた様子の渡直人を訝しみ、そして、さり気なく石原紫のことや渡鈴白のことについて探りを入れる館花紗月。渡直人は思い切ったように、館花紗月が高校生らしからぬバイトに手を染めているのでは?といった疑念を告白した後、こう彼女に語りかける。

「どうしても金が必要で、そんでもし家族に頼れないんだったら、ひと言くらいオレに相談しろよ。何も役に立てないかもしれないけど、一人で抱え込むなよ」

(最早これって(5巻第3話))

その2:発した時の心理的な背景

渡直人がこの言葉を発するに至った心理的な背景としては、以下の2つがあるものと考えます。

背景その1館花紗月が姿を消すことへの不安

渡直人は館花紗月がいつか彼の目の前が再び姿を消してしまうことに潜在的に、根深く深刻な不安感を抱き続けているものと思われます。

(不安(2巻第6話))

それは、6年前に館花紗月が畑荒しを為して突然に姿を消してしまった事への、いわばトラウマに起因するものなのでしょう。そのため、館花紗月が渡直人にとって不審な行動を取ると、彼の中の館花紗月に関する潜在的な不安感が刺激されてしまうのでしょう(結局、渡直人が気にして止まなかった館花紗月の新しいバイト先はステーキ屋さんであり、彼の「嫌な予感」は取り越し苦労に過ぎなかった訳です)。5巻第3話の渡直人は、石原紫とのデート中も、そして別れた後であっても、最早館花紗のことしか考えられなくなっていました。

また、潜在的ではありますが、渡直人は館花紗月と一緒に居たいという願望もまた強く抱いています。渡直人が「MEIMEI飯店」でバイトし始めた理由には、館花紗月がそこでバイトしていたこともあったのでしょう。

(実は一緒にバイトしたかった(4巻第5話))

潜在的でありますが、渡直人は館花紗月と共に居たいという願望を強く抱き、かつ6年前に彼女が突然姿を消したことへのトラウマを抱き続け、些細なことでそれが刺激される状態なのでひょう。

自分の前から姿を消さない欲しいというのが館花紗月に対する渡直人の切実な願いでもあると思われます。

背景その2「家族」としての関係性の願望

渡直人は実際のところ、館花紗月に対して「家族」としての関係性を求めているのでしょう。そして、それは作中において、「依存」と「愛着」という形で表出しているのだと思われます。

例えば、渡鈴白との関係の歪さに気付き、情緒が不安定となってしまった渡直人は、2巻第1話において館花紗月に救いを求めようとします。

(求める救い(2巻第1話))

これは、渡直人が館花紗月に心理的に「依存」していることの一つの表出なのでしょう。

また、4巻第2話において、徳井と一緒に登校した館花紗月を目にしてしまった時の渡直人は明らかな嫉妬を示すとともに、思考が館花紗月のことに占有されます。その態度からは、渡直人が館花紗月に対して抱く根深い愛着が感じられます。

(嫉妬(4巻第2話))

そして、5巻第4話においては、家族すら彼女の身の上を心配しない、と言い放つ館花紗月に対し、「オレが心配する!!!」と渡直人は言い放ちます。

(家族代わり(4巻第4話))

文脈から考えると、実質的に渡直人は館花紗月に対し、「家族代わりにお前のことを心配する」と述べているのでしょう。


その3:渡直人は何を望んでいたのか?

一人で抱え込むなよ」の台詞において渡直人が館花紗月に望んでいたこと、それには大きく以下の2つの要素があったものと考えます。

要素その1:「家族」としての関係性

渡直人は「一人で抱え込むなよ」の前に「家族に頼れないんだったら、ひと言くらいオレに相談しろよ。」と述べています。

「家族に頼れないんだったら」についてですが、これは前述の4巻第4話で渡直人が「オレが心配する!!!」と述べた時の状況を踏まえたものだと思われます。この時、渡直人は言うなれば彼が家族代わりとなって館花紗月のことを心配する、と宣言したのでしょう。半ば無意識であり、そして衝動的なものだとは思われますが、しかし本音でもあるのでしょう。

にも関わらず、館花紗月が渡直人に彼女の苦境について相談してくれなかったことについて、渡直人はある種の反発心、疎外感、そして寂しさを抱いてしまったのだと思われます。「ひと言くらいオレに相談しろよ。」は反発心の表れであり、そして「何も役に立てないかもしれないけど」は、渡直人はまだ高校生であり、自立できず渡多摩代に生活を依存いている身の上故に、金銭的な援助は難しく、館花紗月が相談し難いとは承知しつつも、その苦境を打ち明けてくれないことへの疎外感や寂しさの表出であろうと考えます。館花紗月の部屋を訪ねた渡直人の表情は、彼女曰く「顔コワイよ」というものでしたが、それは抱いていた疎外感故のものだったのかもしれません。

(強張った表情(5巻第3話))

また、その気持ちの裏には、心理的に館花紗月に依存してしまっている状態への思いもあるのかもしれません。何かと館花紗月に心理的に依存し支えてもらっている、だからこそ渡直人も館花紗月を支えたい、そういった願望もまた抱いているのかもしれません。


館花紗月のことを彼女の家族代わりに心配したい。

館花紗月に困ったことがあったら家族代わりに相談もして欲しい。

そしてそれを拒まれたら反発心や寂しさを抱いてしまう。

それらの気持ちの裏には渡直人が館花紗月に常に依存してしまっているという思いもあり、そして根深い愛着も独占欲も抱いている。

渡直人は館花紗月に対し、「家族」としての関係性を求めていると言っても過言ではないのかもしれません。


要素その2:去らないで欲しいという願い

館花紗月の部屋に至るまでの場面において描かれているのは、渡直人の不安に苛まれる姿です。その不安は、恋人である石原紫の存在を霞ませ、また、夜遅く(おそらく夜10時頃)に、恋人でもない一人暮らしの女性を訪ねてしまうという非常識な行動を取らせてしまいます。

(非常識な行動(5巻第4話))

この時、渡直に不安をもたらしていた直接的な要因は、館花紗月の新しいバイト先が「高校生らしからぬ仕事」ではないか?という疑念でしたが、これはあくまできっかけにしか過ぎず、渡直人が潜在的に、そして根深く抱いている、館花紗月がいつか再び目の前から居なくなってしまうのではないか?という大きな不安が刺激されてしまったのではないかと思います。館花紗月が目の前から居なくなってしまうという不安に苛まれ、その不安を払拭したいがために、結果として好意の表出としか受け取りようのない言動をとってしまう渡直人の行動は作中でも散見されます。

(殆ど告白(4巻第2話))

何としても館花紗月が姿を消すことは避けたいという焦りが、渡直人が普段は力づくで押さえ込んでいるであろう彼女の好意を無意識的に露呈させてしまうのでしょう。


お前のことが好きだから、6年前のように突然姿を消すようなことはしないでくれ、もう何処にも行かないでくれ」というのが、5巻第3話の「一人で抱え込むなよ」という発言、4巻第2話、そして4巻第4話での駅前でのシーンにおける、館花紗月に対する渡直人の言動の本質的な意味合いなのでしょう。


今回は以上で終わらさせて頂きます。

結局、7巻第3話の話は殆どせずに終わってしまいました、済みませんm(_ _)m

次回は5巻第4話の渡直人の発言を館花紗月がどのように受け取ったのか?そして7巻第3話の発言で何を意図していたのか?について考察したいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。