今回は、4巻第2話序盤における館花紗月と渡直人との関係性について考察します。

↓↓関連リンク先↓↓

そもそも「渡くんの××が崩壊寸前」って何?って方へ

作品・登場人物・あらすじ・作品概観など
このブログって一体何?どんな感じで考察してるの?って、方へ

考察の全体計画・各考察へのリンクページ



エピソード概要

海から帰った翌朝、渡直人は鈴白と一緒に館花紗月の部屋に行く。部屋を出てきた館花紗月に渡直人は「なんで今朝来なかったんだよ?」と怒ったような態度で尋ねるが、館花紗月が「なんでって、そんなこと聞きにきたの?」と睨みながら言うと、渡直人はすぐ気圧される。しどろもどろで約束は守れよとか言う渡直人に対し、館花紗月は「一昨日キスしたこと怒りに来たんだと思った。」(黒塗り台詞)と言う。

(第2幕、開戦)

真っ赤になる渡直人に対し、館花紗月は「ねぇ、最初のキスの時も、一昨日のキスの時も、直くんされるがままで、何も感じてないの?」と悲しげな表情で渡直人に問いかける。渡直人は「……」、「キスキス言うなよ」と呟き、汗を流しながら赤面し、そして顔をそむけ、そして、「そりゃ『何で』とは思ってるけど」と答える。それに対し館花紗月は「でも私にされて嫌じゃなかったの?」と問いかけ、そして、落ち込んだ様子で「私のこと、ずっと嫌なヤツだと思ってるのに」、「ずっと」と言う。渡直人はハッとして、畑荒しの件は怒っていないこと、そして、納得いかなかったのは館花紗月が畑荒しの後に姿を消したことであり、「突然お前に会えなくなったことのほうが嫌だった」と告白する。館花紗月は驚いたような表情となるも、なんだそっちか、みたいなアッサリした返しをする。渡直人は文句じみた感じで、子供心に大ダメージだったとか、6年間ずっと喉に小骨が引っかかる感じだった、などと顔を赤らめ、汗を流しながら言う。 

(館花紗月の驚き)

館花紗月は渡直人の頰に手を伸ばし、「今朝直くんち行かなかったから、また私に会えなくなると思った?」と問いかけ、渡直人の唇を指でなぞるように触れる。渡直人は無言となり、顔を赤らめ、そして汗を流す。

(図星)

そして、館花紗月は問いかける。「直くん、そんなに私のこと気にして、まだ私のこと好きなの?」。渡直人はカッと赤面し、焦った様子で「違昔はともかく、お前のことなんて、もう全然」と顔を背けながら答える。

館花紗月は彼の頰から手を離し、「そうだよね。」、「私はもう直くんには関わらない」(黒塗り台詞)と言い、そしてその場から去って行く。

(訣別)

渡直人は「え 何でそうなるんだよ、おい、紗月⁉︎」と呆気に取られた様子で館花紗月を呼び止めようとするが、彼女は去ってしまう。

お互いの意図・目的等

館花紗月 

3巻ラストにおいて、館花紗月との関わりはもう必要ないと取れるような発言をしてしまった渡直人への怒りと失望、そして彼の側での居場所が失われることへの絶望が、この時、館花紗月が抱いていた感情なのでしょう。また、今日明日にも石原紫が渡直人に告白し、このままでは2人の交際が始まってしまうという切迫感もあったのでしょう。

そのため、3巻ラストでのキスにより、渡直人が館花紗月の好意に気付き、彼女との関係を前向きに考えてくれることを期待もしていたのでしょう。

しかしながら、渡直人はキスに込められた館花紗月の好意にまたしても気付くことはありませんでした。館花紗月も不思議で仕方ないのでしょう。何故、彼はキスの意図を理解してくれないんだろう?と。

(理解不能な態度)

この時点で、ある意味館花紗月は渡直人に愛想を尽かしてしまったのでしょう。その後、渡直人は畑荒しのことは怒っておらず、彼女と会えなくなったことが辛かったなどとけっこう重大な告白をしたりもしますが、館花紗月の怒りを解くには至りませんでした。館花紗月としては、とことん鈍感な渡直人に更に失望を抱いてしまったのでしょう。その気持ちが「私はもう直くんには関わらない」だったのでしょう。館花紗月は3巻ラストにおいて、渡直人は館花紗月との関わりはもう必要ない、と言ったと感じたのでしょう。そして、キスはある意味、渡直人に与えたチャンスだったのかもしれません。貴方にとって私って本当に必要ないの?との問いかけだったのかもしれません。しかし、渡直人は館花紗月の怒りを理解せず、関係について考えることもありませんでした。だから、館花紗月も渡直人が彼女に示したように、もう貴方との関わりは必要ない、と意思表示したのではないでしょうか。

渡直人

渡直人が当初抱いていた感情は、まずは戸惑いなのでしょう。彼からしてみたら、3巻ラストで館花紗月が怒り始めた理由は全く理解できないのでしょう。そして、キスもされました。あんなに怒ってるのに何故キス?と狐につままれたような気分なのでしょう。

(渡直人の困惑)

しかも、彼女は「あの時」と、6年前のことを示唆するような台詞を口にもしています。どれ一つ取っても訳が分からない、というのが渡直人の気持ちなのでしょう。 

そして、朝、館花紗月が畑の手伝いに来たら問い詰めようとも思っていましたが、彼女は渡家に姿を見せませんでした。そのため、このエピソード中で彼女から看過されましたが、彼女が彼の前から姿を消してしまうのではないか?という不安も抱いてもいたのでしょう。渡直人の抱いている、館花紗月がいつか彼の目の前から姿を消すかもしれないという不安は相当に大きなものであり、少しのきっかけで彼の意識上に顔を覗かせるのでしょう(参考考察渡直人の不安前編後編)。

このエピソード中、渡直人はずっと館花紗月に翻弄されています。結局のところ、渡直人は彼女に弱いということなのでしょう。彼女の怒りを前にするとすぐ弱気になりますし、彼女が落ち込む素ぶりを見せると慌てたようにフォローもします。

また、彼としても関係を元に戻したいという気持ちは強かったのでしょう。畑荒しの件を怒ってないことを告白しましたし、会えなくなって寂しかったこと、6年前は好意を抱いていたことも吐露しました。そして、6年間、彼女のことを考え続けていたことも明かしました。

(渡直人なりの努力)

キスについても何も感じていない訳ではないのでしょう。赤面し汗をタラタラ流し、そして顔を背ける態度からは照れの気持ちが伺えます。

(キスへの照れ)

しかし、館花紗月が求めている答えを口にすることはありませんでした。館花紗月は最後に「まだ私のこと好きなの?」と問いかけましたが、現在、好意を抱いていると認めることを彼女は求めていたのでしょう。そうでないにしても、最低限でも彼女との関係が必要だ、くらいは言って欲しかったのでしょう。しかし、渡直人はしどろもどろになりながら現在の好意を否定してしまいました。

(しどろもどろの否定、そして絶望)

結果、館花紗月は絶交を宣言し去ってしまいます。渡直人にしてみたら、来る前以上に訳が分からず、そして状況はある意味最悪になってしまった、ということなのでしょう。


関係性の変化に関する考察

このエピソードにおいては、2人の溝は深まるばかりでした。館花紗月は更に傷つき、渡直人との絶交すら宣言してしまいました。

館花紗月が求めていたのは、渡直人から、彼女が必要だ、そばにいて欲しいという言葉を聞くことであり、そして、願わくば恋人として側にいることを求めて欲しいということだったのでしょう。3巻ラストの渡直人の言葉で深く傷つき、そして今日明日にも石原紫が渡直人に告白するという切迫した状況にあって、館花紗月としても追い詰められた気持ちだったのでしょう。

(怒りの発端)

しかし、館花紗月は自分の気持ち、そして状況を明言することはありません。なので、彼女の切迫感は渡直人には絶対に伝わりません。これに対し、渡直人は彼女の好意を感じないようにしているので、好意がこじれた現状を理解することができません。彼なりの気遣いは見せますが、肝心なところは欠落しているので関係改善には全く役立ちませんでした(参考考察→2人が交際しない理由

お互いに関係の改善を求めてはいたのでしょう。しかしながら、渡直人は館花紗月の好意に対して極端に鈍感なので、彼女の怒りの理由を理解できず、そのため何が関係改善に役立つかも分からず、適切な対応を取れませんでした。館花紗月も説明が不十分ですし、そもそも渡直人に激しい怒りと失望を抱いていたのでしょう。キスの効果がなければ、もう関係を断とうとすら思っている節すらあります。

本質的にコミュケーションが苦手で口下手な館花紗月と、館花紗月との間の「好意」のやり取りに係る感度を極限まで落としている渡直人との最悪なコミュケーションの例と言えるのではないでしょうか。


最後まで読んで頂きありがとうございました。