前編においては、渡直人の不安を理解する上で重要となる2巻第6話について考察しました(リンク先➡︎読み物型。後編においては、他のエピソードについても考察した上で、渡直人の不安について総括したいと思います。


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「渡くんの××が崩壊寸前」作品紹介

考察項目・計画


作中における不安の表出例

以下、作中において、渡直人が館花紗月に対して不安などを感じる例を挙げ、それらについての考察を記します。

青字が作中の記述赤字が考察です。


①3巻第1話の波打ち際でのシーン

波打ち際で2人で話している時、館花紗月は泳ぎ方を知らず、海にも行ったことがないと聞き、そこで、実は館花紗月のことを殆ど知らないことに気付き愕然とする。

(渡直人の驚愕)

徳井がその場に来て、石原紫と買い出しに行くよう渡直人に言う。去り際に渡直人は館花紗月に後で一緒に泳ごうといい、それを聞いた館花紗月は一瞬驚いた後、嬉しそうに微笑み頷く。

不安がメインという程ではないかもしれませんが、この時、渡直人は館花紗月が果たして何者なのか知らなかったことを初めて実感し、また、海に一度も行ったことがないなどといった彼女の境遇に愕然としているようです。石原紫との買い出しの話も一時的ではありますが、そっちのけになってる感を出して館花紗月を泳ぎに誘っていることから、館花紗月のある種の得体の知れなさに同情や一種の申し訳なさ、そして彼女の存在に対する儚さ、そして不安も抱いたのではないか?と思われます。


②4巻第2話での館花紗月の部屋の前

3巻ラストから館花紗月が怒り始める。4巻第2話において館花紗月の部屋の前で話している時、館花紗月から「今朝、直くん家行かなかったから、また私に会えなくなると思った?」と聞かれつつ唇を触られる。渡直人は無言で赤面する。

(気持ちを見透かされタジタジの渡直人)

渡直人の反応から、館花紗月の発言はおそらく図星だったのでしょう。3巻ラストでの言動と併せて当日の朝に館花紗月が来なかったことから、どの程度かはともかく、渡直人は館花紗月がもう居なくなってしまうかもと不安を抱いてしまったのでしょう(詳細な考察こちら


③4巻第2話で館花紗月が徳井と登校してるのを見た時

館花紗月が徳井と遅れて一緒に登校しているのを見かけ、館花紗月が誰と仲良くしようが関係ないけどと思いつつも悲しげな目をし、汗がタラリと垂れている。石原紫が近寄ってきて、告白をしようと思い呼び掛けるも、渡直人は気付かずに俯いてその場を足早に去って行った。

(渡直人の嫉妬?と動揺、そして石原スルー)

不安かどうか微妙なところですが、渡直人が明らかに挙動不審になり、なおかつ思いを寄せているはずの石原紫の呼びかけ(しかも告白しようとしている)すら耳に入らないという状態なので取り上げました。抱いている感情自体は嫉妬なのかもしれませんが、館花紗月の行動の変化にすぐ反応し、そして動揺することは、彼女の行動が気になって仕方ないということなのでしょう。


④4第3話での館花紗月の部屋

渡鈴白から促され、仲直りのために館花紗月の部屋を訪れた渡直人は、鍵がかかっていなかったため、部屋の中に入ってしまい、そして何もない殺風景な部屋の様子を目にする。そこで窓際に寂しげに佇む館花紗月の幻を見、また、6年前の畑荒しの前日の別れる間際の彼女のとても寂しそうな笑顔を思い出す。

(館花紗月の幻を見る渡直人)

渡直人の館花紗月に対する、彼女の境遇に対する切なさ、存在感の希薄さへのたまらなさ、そして言いようのない不安が高まってくるシーンです。4巻第2話において、館花紗月から「もう関わらない」と言われたのが実は相当に応えている状況で、生活感の希薄な寂しい部屋を見てしまい、渡直人の中で、自分が彼女を引き止めなければという危機感が募ってきたのでしょう。その危機感が前日には思い出せなかった、6年前の逃避行終了後に別れる際の彼女の寂しい笑顔を思い出させたのでしょう。この後、渡直人は館花紗月のバイト先に向かいます。

バイトが終わる時間が分かっているのだから、その時間を見計らって再度部屋を訪れたら不法侵入を咎められたりすることもなかったのでは?とも思いますが、そうしなかったのは、不安に苛まれ、判断力が低下していたためかもしれません(詳細な考察こちら 


⑤4巻第4話での仲直りまで

なりゆきでのバイトの後、渡直人は駅前の階段で館花紗月に何故バイトしていることが分かったのか尋ねられる。部屋に無断で入ったことを自白し、館花紗月は不法侵入と咎めるも、それ以上追及することなく立ち去ろうとする。去り行く館花紗月に対し、渡直人は部屋の鍵を治すよう声を掛けるが、立場紗月はもう渡直人とは関わらないなどと言い、取り合わない。渡直人は何かあったら困るだろ?と焦りながら声を掛けるが、館花紗月は相変わらず取り合うことなく、誰も困らないと答える。更に焦った渡直人は、家族だって心配するだろ?と言うが、館花紗月はつれなく「しないよ」とだけ答える。一瞬の沈黙の後、渡直人は「オレが心配する!!!」と館花紗月に向かって叫び、そして「幼なじみだろ、何があってもそれは変わらないよ」、「幼なじみとして心配するくらい別にいいだろ」、「もう関わらないなんて寂しいこと言うなよ」と語りかける。

渡直人の絶叫@立○駅前)

渡直人の館花紗月に対する根源的な不安がまさに頂点に達したシーンでしょう。去り行く館花紗月を見、6年前の後悔(逃避行を終えて別れる際、何が一声でもかければ何か変わったかも)が脳裏をよぎったのでしょう。そして、何が何でもここで引き止めなければという焦り、そして不安がこの時の彼を突き動かしたのでしょう。また、最後のセリフから見るに、渡直人はもう関わらないなんて言われて、寂しくてたまらなかったのでしょう(詳細な考察→ こちら 


⑥4巻第2話での館花紗月の新バイト疑惑

バイト初日後、石原紫と待ち合わせの予定のはずだったが、制服姿で新しいバイト先に向かっている館花紗月を見かけ、嫌な予感がしたため追いかけたところ、大人の街で姿を見失った。

(新バイト疑惑)

高校生らしからぬバイトをしているのではないか?との疑いを抱いた渡直人は気が気でなく、石原紫との待ち合わせに遅れ、また、会話もうわの空だった。石原紫と別れた後、結構遅い時間(10時前?)だったが館花紗月の部屋を訪れ、高校生らしからぬバイトをしているのではとの疑念を述べた後、お金のことで困ってて家族に頼れないのなら、オレに相談しろよ、一人で抱え込まないでくれよと言う。

結局は渡直人の杞憂だった訳ですが、この時も館花紗月のイレギュラーな行動に不安を抱き、すぐに反応して追いかけるという行動に出ます。そして、危ないバイト疑惑で頭が一杯になってしまい、石原紫とのデートもうわの空、挙句、遅い時間に一人暮らしの女性の部屋に突撃するという行動を取ってしまう訳です。館花紗月への発言も、取りようによっては求愛そのもの、プロポーズと取られてもおかしくありません。それも夜9時とか10時な訳です。不安に絡め取られたら、完全に冷静さを失い、無我夢中で行動してしまうという行動パターンです(詳細な考察→ こちら


考察

館花紗月がイレギュラーな行動を取ったら、すぐに反応してしまい、気が気でなくなるということが渡直人の全般的な行動の傾向だと言えましょう。④では徳井と登校し、普通に話しているのを見かけるだけで見る影もなく動揺しており、また、⑥では制服姿でバイトに行くのを見かけただけで嫌な予感を抱いたりしてます。①でも館花紗月の境遇に動揺し、気持ち的に完全に石原紫シフトだったのが、館花紗月にも気持ちが向いています。結局、とにかく館花紗月のことが気になって仕方ないのでしょう。

館花紗月が居なくなってしまうという渡直人の根源的な不安も表面化しやすいものなのでしょう。②において館花紗月からその不安を看過されていますが、喧嘩(?)の翌日とはいえ、朝に渡家に来ないだけで、その不安を抱き始める訳です。館花紗月が居なくなってしまうことに常にビクついている状態なのかもしれません。そして、不安に火がついたら冷静さは完全に失われます。不安を解消しようとして直情的に行動するので、④に関しては不法侵入したと館花紗月から怒られますし、立駅前の雑踏の中でオレが心配すると絶叫もします。⑥においては遅い時間に部屋を訪れ、また、求愛めいた言葉すら口にします。④においては館花紗月の幻すら目にしています。また、そうなったら石原紫のことも眼中から消え去ります。

結局、渡直人の頭の中は館花紗月への関心と不安で満たされているのでしょう。いつか館花紗月がいなくなってしまうという不安が彼の心の中で大きな位置を占めており、何かの拍子にすぐそれが刺激されてしまうのでしょう。館花紗月がイレギュラーな行動を取ると不安が刺激され、挙動不審になったりもし、そして、不安が高まったら冷静さを失って直情的に行動してしまうのです。

そんなに気になって仕方ないなら、交際を始めて一緒にいる時間を増やせばいいのでは?そしたらずっと見守れて安心できるんでは?とも思ってしまいます。幻見るだなんて尋常な思い入れじゃありません…


以上、渡直人の不安に関する考察になります。

最後まで読んで頂きありがとうございました。