前回は、渡直人の館花紗月に対しての好意的な言動について、4巻第2話までの事例を列挙し、個別的な考察を行いました。


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「渡くんの××が崩壊寸前」作品紹介

考察項目・計画

今回は中編として、4巻第2話以降の事例の列挙及び個別的な考察をを行い、その後に全般的な考察等を行いたいと思います。


好意的な言動の列挙及び個別的な考察

青字が作中の事例赤字が個別的な考察になります。

なお、番号については、前編からの続きになっております。ご了承下さい。


22 4巻第3話において、渡直人は渡鈴白から促されて仲直りのために館花紗月の部屋を訪れる。部屋の鍵が壊れていたため入ったものの館花紗月は不在だった。部屋の中には物が何もなく寂しい状況であり、渡直人は館花紗月の身の上を思い、窓際に寂しげに佇む彼女の幻を見る。その直後、6年前の逃避行を終えて別れる際の館花紗月のとても寂しそうな笑顔を思い出す。渡直人は「あの時オレがひと言でも声をかけていたら、何か変わってたんだろうか?」と心の中で思う。

部屋の鍵が壊れていたり、部屋の中が極めて殺風景だったたことから、渡直人の中で館花紗月に対する切なさが募り始めたのだと思います。その思いもあり、また、「もう関わらない」宣言をされたことによる悲しさなどが渡直人に館花紗月の幻を見させたのかもしれません。今まで思い出せなかった6年前の彼女の表情を思い出すなど、渡直人の中で危機感も高まってきたのかもしれません。


23 4巻第4話において、渡直人は館花紗月と臨時で着ぐるみのバイトをすることとなった。館花紗月はずっと怒った態度でいる。館花紗月がナンパされている時に助けに入り、ボロボロになりつつもナンパしてきた人達を退散させる。

館花紗月が困るようなことがあったら、彼女が怒っていても助けてしまうのでしょう。


24 臨時バイトが終わった後、館花紗月から何故バイト先が分かったのか問われ、結果、不法侵入がバレてしまう。館花紗月はまあいいやと言い、その場を立ち去ろうとする。渡直人は去り行く館花紗月に不用心だからドアを治すことや、何かあったらどうするんだ?とか、家族が心配するだろ?などと語りかけるが、館花紗月はつれない態度を取り続ける。渡直人はたまらなくなり、「オレが心配する!!!」と叫び、また「幼なじみだろ、なにがあってもそれだけは変わらないよ。幼なじみとして心配するくらい別にいいだろ。」、「もう関わらないなんて寂しいこと言うなよ。」と語りかける。

(渡直人の絶叫)

渡直人としては、館花紗月の部屋を見た時点から、彼女の寂しい生活に心を痛め、また、6年前の去り行く彼女の寂しそうな笑顔を思い出して声を掛ければ何か変わったのかもしれないという後悔を抱えていた状況だったのでしょう。そんな気持ちを抱きつつ館花紗月に身を案じる言葉をかけても、彼女はつれない態度を示し続けるので、彼の中で焦りと不安がどんどん大きくなっていったのでしょう。そして、「家族だって心配するだろ?」という問いかけに館花紗月が「しないよ」と素っ気なく答えたことで、焦りと不安、そして彼女に対する切なさが頂点に達してしまったのでしょう。結果、館花紗月の家族が彼女のことを心配しないのなら、渡直人が心配するという、彼女がある意味最も望んでいるであろう構図を示した状態となりました。そして、「もう関わらないなんて寂しいこと言うなよ。」は、渡直人の切実な懇願なのでしょう。館花紗月が徳井と登校していた時の態度、そして渡鈴白から仲直りしなくていいの?と問われた時の表情からも、渡直人が「もう関わらない」宣言を気に病み続けていたことが分かります。


25 24の発言の後、喜ぶ館花紗月からサービスされ、真っ赤な顔で館花紗月を見る。心の中で、「オレにとって、紗月はただの幼なじみだ」(黒塗り台詞)と連呼し、最後に「…だよな?」と疑問を抱く。

(渡直人の疑問)

今までは、主に館花紗月からのアプローチにより関係が深まってきていましたが、今回ばかりは渡直人から歩み寄っています。それも相当大幅に。家族代わりに館花紗月を心配すると宣言し、そして今後も関わりを持ってくれとお願いをするのですから、これまでの2人の構図が全く逆転している訳です。また、渡直人自身の一連の言動、そして館花紗月の嬉しそうな表情や仕草を目の当たりにすることにより、彼の中で彼女への想いを封じているものが壊れ始め、朧げながらではありますが、ようやく館花紗月への好意を意識し始めたのでしょう。


26 館花紗月を部屋まで送って行った後、彼女から石原紫からの告白の有無、そして付き合うか否かについて問われる。渡直人は躊躇った後、「紗月だから言うけど」と、悩んでいることを打ち明ける。そして、悩んでいること状態を館花紗月から肯定してもらい、はっとする。

館花紗月から話を振られた状況ではありますが、石原紫と交際するかについて悩みを打ち明けています。これも、困ったときには館花紗月を頼る傾向の表れであり、そして、彼女になら弱音を吐けるという信頼感の現れなのでしょう。


27 4巻第5話にて、館花紗月がバイトするMEIMEI飯店で石原紫と付き合うことになったと徳井に報告していたところ、館花紗月が現れて色々と話しをする。

一緒にバイト出来ず嘆く二人)

3ページの中に渡直人と館花紗月の痴話喧嘩やら一緒にバイトできないことに落ち込む様子などが濃密に描写されているシーンです(詳しくは→リンク先特別編その3 

渡直人としては石原紫と交際を始めたことに対して館花紗月に嫉妬して欲しいようであり、また、館花紗月と一緒の店でバイトしたかったようです。しかしながら館花紗月は、この日を最後にバイトを辞めてしまうとのことであり、渡直人は非常に落胆していました(蛇足ですが渡直人としては、夏休みは朝は渡家で館花紗月と畑の世話をし、昼からは館花紗月と一緒に同じ店でバイトをするみたいに考えていたと思われます)。


28 5巻第2話において、野菜を食べている館花紗月に対して、痩せたんじゃないか?と問いかけたところ、(胸の)サイズダウンはしてないよと返される。そして、「心配してくれてるんだ、〝幼なじみとして」と問われ、照れたような様子で「そうだよ、幼なじみとして」と答える。館花紗月は意味ありげな笑みを浮かべる。

(何もかも見抜いてる感の館花紗月)

この時点で渡直人が館花紗月に好意を抱いていることは、おそらく彼女にはバレています(4巻第2話での反応や第4話での態度などから、館花紗月としては、相当の確信を持っていると思われます)。また、渡直人としても好意を自覚し始めています。お互い渡直人が館花紗月に好意を抱いていることを分かっていながら「幼なじみ」だと確認しあうという、面倒なことをしています。館花紗月はそれが分かっているのでからかい半分な態度なのでしょう。また、館花紗月の態度にも随分と余裕があり、お互いの関係が1巻の時からすると相当変わったことが伺えます。


29 5巻第2話において、渡直人がバイトを終え、石原紫のもとに向おうとしていたところ、新しいバイト先に向かうと思われる制服姿の館花紗月を見かける。嫌な予感を抱き、館花紗月を追いかけるも、大人の街で彼女を見失う。また、第3話において石原紫と話をしていても館花紗月のことが気掛かりであり、石原紫との会話も上の空となる。

結果から言うと、館花紗月の新しいバイト先はステーキ屋であり、何も心配するようなことはなかったのですが、渡直人は普段と違う館花紗月の様子に不安を抱いてしまいます。館花紗月に対して潜在的な不安を常に抱いており、それが刺激されてしまったのでしょう。そして、その不安は、石原紫との関係よりも上位に位置づけられるのかもしれません。


30 5巻第3話にて石原紫と別れた後、「家族」という言葉から館花紗月の暮らし振り、以前の彼女とのやり取りを思い出し、たまらなくなって館花紗月の部屋を訪れる(時刻は9時~10時頃?)。

(石原紫とのデート後の胸の高まりも「家族」から連想する状況ですぐに消失)

館花紗月の部屋に上がり夕方見かけた話や新しいバイト先のことを気にしていることを告げた上で、「どうしても金が必要で、そんでもし家族に頼れないんだったら、オレに一言でも相談しろよ。何も役に立てないかもしれないけど、一人で抱え込むなよ。」と彼女に語りかける。

(誤解を招きかねない台詞、そして状況)

館花紗月のことが心配になり、後先考えられなくなる状態になっています。まず、石原紫に遅れた理由を言いかけていましたし(言ったところで石原紫の心証を損ねるだけだと思うのですが)、そして、遅い時間にも関わらず館花紗月の部屋を訪ねて上がり込んでいます(館花紗月に新しいバイトのことを聞きたければ、翌朝には畑の手伝いに来てくれるのですから、その時に聞けばいいのでは?とも思います。なお、あくまで一般論(ラブコメに一般論を持ち込むのはナンセンスだと重々承知していますが)ですが、こんな時間に一人暮らしの女性の家に上がり込んで男女が二人きりになった場合、間違いがあっても言い訳出来ない状況だと思います。館花紗月はそれを目論んで部屋に上げた節もありますが)。その上、この台詞です。渡直人にそのつもりがなくても、一連の言動は誤解を与えるに十分過ぎるのではと思います。自己の行動が全く客観視できなくなるほど、館花紗月の新しいバイト疑惑は彼の中で重大な問題だったのでしょう。


31 5巻第5話において、館花紗月が大雨の夜、バイト帰りに渡家に来て渡鈴白のプランターをしまってくれたことに対してお礼を述べる。

直前に館花紗月が石原紫の声色を真似て渡直人をからかったこともあり、ぶっきらぼうな口調でのお礼でした。ただ、1巻の頃から比べると、素直に感謝を述べられるようになっています。


考察

最初に渡直人の館花紗月に対する好意的な言動についてパターン分けし、その後にそれらの元になっている意識について考察したいと思います。

好意的な言動のパターン分け

渡直人の館花紗月に対する好意的な言動は、大きく以下のパターンに分けられます。

館花紗月が怒ったような態度を示すとすぐ弱気になる

最初は渡直人が怒ったような態度でいても、館花紗月が怒ったような態度を示すと、すぐ弱気になり、モゴモゴと言い訳を始めたりします。

館花紗月が落ち込んだような態度を示すとフォローしようとする。

館花紗月が凹んだ様子を見せたり、申し訳なさそうな態度を取ると、すぐフォローします。

館花紗月のことを悪く言わない、言わせない

2巻第6話で館花紗月が指摘していますが、渡直人は他人に館花紗月のことを悪く言いません。

また、4巻第2話の時の様に、他人が館花紗月のことを悪く言っていたら猛然と反論します。

守ろうとする

館花紗月がナンパに絡まれていたら守ろうとします。

とにかく心配する

2巻第4話の下着履いてない疑惑の時や、4巻第2話の新しいバイト疑惑の時が好例でしょう。何かあると館花紗月のことが気になり、心配します。

また、館花紗月のことを家族代わりに心配するとも宣言したりもします。

突発的に後先考えず行動する

館花紗月に何かあると、後先考えず突発的に行動します。スカート捲れを防ぐために抱きついた時や軽い女扱いされていた時の反論が好例でしょう。

心配になると理性や判断力が低下する

館花紗月への心配が募ると理性や判断力が低下し、無我夢中で行動します。5巻第4話の一連の行動が好例でしょう。

嫉妬するし嫉妬して欲しい

館花紗月が徳井と話しながら登校してるのを見かけただけで挙動不審になりますし、石原紫と交際し始める時に館花紗月が素っ気ない態度を示すと「え?!」となるなど、いつものように嫉妬して欲しいような反応を見せます。

困ったりすると頼る

何が困ったことがあると館花紗月に頼ります。何だかんだでよく悩みを相談しており、また、2巻において石原紫を迎えに行く時も思わず一緒に来てと頼んだりしています。


行動パターンの動機

これらの行動パターンの動機としては、以下の意識があるのかなと思われます。

①「守りたい」という意識

渡直人としては、館花紗月を「守りたい」という意識がとにかく強いのでしょう。そのため、ナンパに絡まれていたらヤバい相手でも助けに行きます。悪く言われていたら反論もします。また、部屋の鍵のことを気にしているのも、館花紗月の身に何かあって欲しくないためでしょう。

②「大切にしたい」という意識

渡直人は館花紗月のことを大切に思っているのでしょう。それが最も先鋭的に現れたのが新しいバイト疑惑の時でしょう。危なっかしいバイトなんかしないで欲しい、自分の身を大切にして欲しいという思いがあそこまで理性を失わせたんだろうと思われます。また、館花紗月が怒った態度や凹んだ態度を示すと、すぐにオロオロするのも彼女の気持ちを大切にしようとする気持ちの表れではないでしょうか。なお、館花紗月が痩せてることもよく気にしています。

③信頼感

高圧的な態度で接することもあるものの、結局、渡直人にとって館花紗月は自分の弱い部分を見せられる相手であり、良き相談相手でもあるのでしょう。そして、困った時はついつい頼りたくなる存在でもあるのでしょう。内心では相当な信頼感を寄せているのだと思われます。

④一緒に居たいという気持ち

渡直人はとにかく館花紗月と一緒に居たいのでしょう。4巻第5話のMEIMEI飯店でのシーンではその気持ちがコミカルに描かれていました。そして、彼の6年前の心の傷は館花紗月と会えなくなったことであり、彼の根源的な恐れも館花紗月がいつか目の前からいなくなってしまい、一緒に居られなくなってしまうことなのでしょう。

⑤好意

渡直人の館花紗月に対する最も強く根源的な感情だと思われます。守りたい、大切にしたいという意識の大元は好意なのでしょう。嫉妬も好意の裏返しでしょう。そして、館花紗月に好いてもらいたいという意識もまた強いのでしょう。4巻第2話において、館花紗月が渡直人が彼女を嫌な奴と思ってるとの認識を示したら、あわてて否定しました。また、館花紗月が嫉妬してくれないと不満も抱くっぽいです。

⑥不安

渡直人の心中において不安とは、好意とはいわばコインの裏表の関係にある意識だと思われます。「渡直人の不安➡︎リンク先前編後編」において示したように、彼はいつか館花紗月が居なくなるかもしれないとの懸念を抱いています。そのことが彼の心を大きく占めており、それが刺激されることにより、後先を考えない行動に結びついてしまうのかと思われます。


以上、渡直人の館花紗月に対する好意的な言動に関する動機でした。

次回(後編)においては、これだけの好意的な気持ちを抱いているにも関わらず、何故、渡直人は館花紗月の気持ちを受け入れないのか?何故、自分の中の好意を自覚しようとしないのか?について考察したいと思います。


最後までお読み頂きありがとうございました。