今回は、特別編その3として、作中での重要シーン等の考え方をお示しした上で、作中において極めて意味深なシーンである2巻第6話前半に関して詳細に考察します。

↓↓リンク先↓↓

「渡くんの××が崩壊寸前」作品紹介

考察項目・計画


今更、そして自分から申し上げるのも何ですが、本ブログは、平成30年5月の時点で5巻しか刊行されていないラブコメ漫画の考察に特化している(おそらく)異例なものです。5巻までの話数がトータルで29話であることに対し、平成30年5月20日の時点で投稿数が37回という状況であり、なおかつ文字数についても時折アメブロの文字制限に達しています。冗長な文章で以って微に入り細を穿つような話ばかりしていますが、今回の投稿は、その傾向が更に先鋭化したものとなっており、かつ内容の半分は、「渡直人の不安(前半)」において一度考察したものです。完全に好事家向け(そもそも、そんな人がいるのかすら疑問ですが)の内容であり、読まれた方の多くは、おそらく困惑されるかと思います。

しかしながら、万一、好事家の方が本ブログをご覧になった時、考察の信憑性等に疑念を抱かれたら無礼にあたりますので、失礼を承知で考察させて頂きたく存じます。普段の投稿に輪をかけた、更に意味の分からない内容のものをお目に入れることにより、ご気分を害してしまったり、あるいは貴重なお時間を浪費させてしまうかもしれないことについて、予めお詫び申し上げます。

では、まず、「作中の重要シーン等の考え方について」から述べさせて頂きます。


作中の重要シーン等の考え方について

本作品においては、作中のセリフのみならず、様々な演出や表情の描写により、それぞれの場面の位置付けや登場人物の意図を読み取ることができます。

作中での演出による重要シーンについて述べた上で、表情等による意図の判別について述べたいと思います。それらを踏まえた上で、作中での読み取り方について例を挙げて説明させて頂きます。

その1:作中の演出について

演出による重要度の判別要素は、大きく「①コマ割り」と「②黒塗り台詞」の2つがあります。

①コマ割り

ページが大きければ重要度が高いのは当然のことですが、見開きページ(2ページ使って一コマ描くこと)はそのシーンが極めて重要であることを示しています。

(見開きページの例)

上の例は4巻第4話において、渡直人が館花紗月に語りかけるシーンです。3巻ラストからずっと怒っていた館花紗月に対し、一緒にいてくれと必死で呼びかけています。この後、何とか仲直りできたという、作中において極めて重要なシーンです。

黒塗り台詞

基本的にネガティブな意味合いを持ち、かつ相当に重要であることを示します。心の闇を表す台詞によく使われます。また、他のセリフとの重みを際立たせるといった感じでも比較的多用されます。

(黒塗り台詞の例)

上の例は4巻第2話における館花紗月の台詞です。海において石原紫が帰ったら渡直人に告白すると宣言、館花紗月としては起死回生を期して渡直人にキスをするも効果がなかったことがこの直前のやり取りで判明し、館花紗月としては絶望した状況での発言だったものと思われます。こんな台詞が実現したら、この物語の存続自体がピンチです


特に、見開き+黒塗り台詞の場合は、ストーリー上の節目的な内容であることを示している場合が多いと思われます。

(見開き+黒塗り台詞の例)

上の例は、1巻第5話において、渡鈴白の満点のテストを見つけた時の状況です。渡直人はこの後、逃げるように家を出、館花紗月との会話などを経て、結果シスコンから一歩脱却する決意を抱くこととなります。物語の分岐点とも言えるシーンです。


その2:表情による意図の判別について

本作の登場人物は非常に多彩な表情を見せます。表情と感情は当然ながらリンクしているので、セリフがなくとも内心等をある程度は把握可能です。以下に館花紗月及び渡直人の表情及び感情に関する表を示します。

①館花紗月の表情と感情

最初にお示しするのはネガティブな表情の表です。

(館花紗月のネガティブな表情及びその意味)

目が発光している左上2つの表情は、非常に緊迫度の高い表情と言えましょう。それぞれ作中一度しか登場していません。

次にお示しするのが、ポジティブな表情などの表です。

(館花紗月のポジティブな表情及びその意味)

左上の目を細める表情の時は、館花紗月が渡直人をからかう時などによく見せます。顔の赤らみなどと合わせて、渡直人をからかい親近感を示したりします。

②渡直人の表情と感情



(渡直人の表情及びその意味)

渡直人は館花紗月にいじられたりして、汗をかいて慌てることが多いです。何かと汗をかきます。一滴のときは取り敢えず動揺してますサイン、二滴以上のときは大慌てって感じでしょう。あと、印象的なのが黒目が小さくなる場合です。大きく動揺したりする時などに見られます。


その3:作中での「応用例」

前述した内容を踏まえ、作中のシーンから如何にして登場人物の意図を読み取るかの例を示します。

(4巻第5話抜粋)

上の場面は、4巻第5話にて、石原紫と交際することになった渡直人が館花紗月がバイトするMEI MEI飯店にて、それを徳井に報告しているシーンです。

①で館花紗月は目を細めていることから、不機嫌になっていることが分かります。やはり渡直人が石原紫と交際することになり愉快ではないのでしょう。

②では渡直人は黒塗りに近い台詞を発し、かつ大汗をかいていることから、石原紫とのことを館花紗月に聞かれて気まずかったのだと思われます。あたかも彼女に浮気がバレた人のようです。

③において渡直人は汗をかいているので動揺が見て取れます。館花紗月の言う通り、普段ならこういった状況ならば館花紗月は「プクゥ」と嫉妬して見せるのにそれがないので何でだよと慌てているのでしょう。

④で館花紗月は目を細め頰を赤らめいます。渡直人の反応が面白く、ちょっとからかってみようと思ったのでしょう。「何?妬いて欲しいの?」という彼女の台詞は図星なのでしょう。

⑤では目からちょっと光が消えています。不機嫌モードです。館花紗月はこのバイトの服はあまり気に入っていないので、徳井の発言があまり面白くなかったのでしょう。 

⑥で渡直人は何故か汗をかいてきます。ちょっとした照れなのでしょう。「ここ」と強調してることもあり、館花紗月と同じ店でバイトできることが楽しみだったのかもしれません。

⑦、⑧で館花紗月の目の光が薄れています。おそらく落胆してしまったのでしょう

⑨の表情は目が細くなり、目の光も薄れています。かつ台詞のフォントも普段と異なります。店を辞めてしまい、渡直人と一緒にバイトできなくなるのが残念なんだと思われます。

⑩ですが、渡直人が発したこの前の「」は黒塗り台詞です。渡直人としては相当にショックだったのでしょう。黒目も小さくなり、汗もかいているため、相当に落胆し動揺していることが分かります。館花紗月と一緒にバイトできなくなったことが相当にショックだったのでしょう

11 の前のコマで館花紗月は無表情であり、目の光がなくなっています。表情もシリアスです。館花紗月としてもショックだったようです

12の館花紗月の表情は、打って変わって目を細めて顔が赤らんでおり、渡直人をからかっているように見えますが、よく見ると眉間にシワが入ってます。台詞や態度は明るく見せつつ実は悲しいという状況だと思われます。渡直人の表情も照れだけにしては汗の量が多かったりするので、彼としても悲しい気持ちだったんだろうなと思われます。あと、気持ちを見抜かれたバツの悪さもあると思われます。そして、お互いに落胆してるのが分かったので、館花紗月としてはスキンシップも取りたくなったのでしょう。

以上を踏まえ、表情から推定される感情を反映した2人の実の会話を以下に記します(カッコ内が推定。赤が館花紗月青が渡直人

館花紗月「(石原紫と付き合うことになっちゃったんだ、あーあ)」

渡直人「紗月(まずい、今の話、館花紗月に聞かれた!)」、「紆余曲折あったんだよ(言い訳しないと…)」

  館花紗月「ふーん、良かったじゃん、おめでと」

渡直人「え、それだけ?(普段、こういう時って「プクゥ」とかって嫉妬するのに何でそうじゃないんだ?)」

館花紗月「何?妬いて欲しいの?(反応分かりやすっ!)

   渡直人「違う…(見抜かれた…)」

渡直人「(いやいや、怒らないで!)」

渡直人「オレこれからバイトの面接なんだよ、ココの(館花紗月と同じ店でバイトできる。だから機嫌直して!)」

⑦、⑧館花紗月「(えっ…?!私、ここ辞めちゃうじゃん)」

館花紗月「私、今日でここ辞めるんだよね(あーあ、渡直人と一緒にバイトできたのに残念…)」

渡直人「(え?!辞めちゃうの?そんな…一緒にバイトできると思ってたのに。すごく残念…)」

11  館花紗月「ゴメンね、一緒にいてあげられなくて(私だって残念なんだよ。隣に座ってあげる。)

      渡直人「別に(残念… ってか気持ちバレてるし。距離も近いし照れる。)」


表情の要素を加味して読み解いてみましたが、渡直人と館花紗月はこの短いやり取りの中で痴話喧嘩してみたり、一緒にバイトできないことに2人して凹んだりしてます。本質的に仲が良く、そして心が通じ合っているんだなというのが良く分かりますし、そして、とにかく一緒に居たいという2人の思いが良く伝わってくる、実は素敵なシーンだということが分かります。


2巻第6話前半の詳細考察

2巻第6話の電車の中での館花紗月と渡直人との会話のシーンは非常に意味深です。考察については一通り実施しましたが、一部、説明が不十分なところがありましたので、補完的なものとして、以下の2点について詳細に考察したいと思います(考察➡︎こちら

①冒頭で館花紗月が落ち込んでいた訳

②渡直人が聞けなかった質問

まず最初に、2巻第6話前半における話の流れ及び2人の表情に関するまとめを以下に示します。

(2巻第6話前半における2人の表情の変遷、黄色の矢印は会話の流れ)

会話が進むに従って、館花紗月の表情はどんどん暗いものになり、「私はこっちでいい」の発言の時は、悲しげな笑顔で黒塗りの台詞を発するという、作中でここしか見られない異様な雰囲気を示し、最終的には目が発光するという緊迫した状態となることが分かります。渡直人もその態度の変化を感じ、不安や焦りがどんどん増大していることが分かります。

これを踏まえ、前述の①及び②について考察します。

①冒頭で館花紗月が落ち込んでいた訳

訳を推定する材料としては3つ挙げられます。

その1:石原紫を見かけたこと

電車に乗る前、水着売り場で渡直人と話している時、館花紗月は渡直人を尾けてきた石原紫を見かけます。

(尾けてきた石原紫)

渡直人は石原紫に好意を抱いていることは館花紗月は承知していますが、石原紫はわざわざ尾けてくるくらいですから、彼女も渡直人に対して好意を抱いていることが分かってしまったのでしょう。

その2:表情の相違

電車に乗った時の館花紗月は、俯いて目は光を失いかけた表情をしてきます。作中において彼女が同様の表情を見せたのは、4巻第1話において、朝に部屋から出てきた時です。

(4巻第1話の館花紗月の表情)

この時の状況としては、前々日に海にて石原紫から旅行から帰ったら渡直人に告白すると宣言され、このままでは渡直人の側に館花紗月の居場所がなくなってしまうという絶望感を抱いていたものと思われます。

その3:館花紗月の後の台詞

その後、館花紗月は、自分のせいで石原紫との関係が上手くいっていないから自分のことを洗いざらい皆に話し、石原紫と付き合えば?といった趣旨のこと、そして私は居なくなるとも解釈できる趣旨のことを話しています。


その1~3から推定するに、館花紗月は、いずれ居なくなる自分は渡直人の隣に恋人として座る資格はなく、また、その座は今も後を尾けて来ているであろう石原紫に渡すべきだと思ってしまったのではないでしょうか。渡直人の側の居場所を手放す悲しさが、この時の表情に現れているのだと思われます。


②渡直人が聞けなかった質問

おそらくなのですが、多くの方が思い浮かべるこの時の渡直人の質問の内容は、好意の有無の確認ではないでしょうか?好意を持っているから親切にするのか?という質問だと考えるのが自然だとは思います。

しかしながら、館花紗月の発言と渡直人の独白との整合性を考えると、「いずれ居なくなるから先に償いをするのか?」という質問が筋が通るのかなと思います(あくまで文脈上の整合性の話です。勢い的には、例えば6年前の好意の有無の確認などもありなのかなと思います)。話の流れについて、下の図で説明します。

(2巻第6話前半の話の流れ)

館花紗月のこの時の一連の発言は、上段の「居なくなる系列」と、下段の「尽くす系列」に区分されます。渡直人が発した質問は、「尽くす系列」のものです。しかしながら、一連の話を経た渡直人の独白は、「居なくなる系列」となっていますが、これに繋がる質問が欠落しており、唐突に独白に繋がっている状態です。

仮に、出来なかった質問が好意の有無の確認だったとすると、下の図のようになります。

(言えなかった質問が好意の確認だった場合)

館花紗月の発言と渡直人の独白の間にギャップがある状況は変わりません。

これに対し、「いずれ居なくなるから先に償いをするのか?」といった意味合いの質問だとすると、下の図のようになります。

(言えなかった質問が居なくなる系だった場合)

館花紗月の発言から渡直人の独白へと繋がりますので、文脈的にはこちらが妥当なのかなと思います。

なお、単に居なくなるのか?といった質問である可能性ですが、「それって、罪滅ぼしのつもりかよ?」という質問に繋がる内容であるかと思われますので、居なくなること単独に対する質問の可能性は低いと考えます。

あと、1巻第4話においても質問しかけて途中でやめています。この場合は、おそらく過去の好意の有無を尋ねようとしていると思われますが、この時と全く表情が異なります。

(1巻第4話における質問の中断)

1巻第4話の渡直人の表情は、若干汗をかいている程度で切迫してる雰囲気はありません。

表情の切迫ぶりから考えても、居なくなる系列の質問の可能性が高いと考えます。


以上、特別編その3でした。

長く、かつ好事家向けの内容となってしまい大変失礼しました。


今回の特別編では、表情から館花紗月と渡直人の気持ちを推察し、隠れた話の流れを追うということを4巻第5話と2巻第6話という、いわば両極端のシーンを対象としてやってみましたが、台詞だけからは読み取れ切れない意外な流れが潜んでいることが分かりました。特に4巻第5話での2人の仲睦まじさにはじんわりと来ました。作者様の仕掛けの巧みさに改めて敬服しますm(_ _)m


最後まで読んで頂きありがとうございました。