木村拓哉が……。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 これを言うと、芸能界でしっかり地位を確立してちやほやされている同世代の同性に対する妬みとしか思って貰えないだろうと思い、今まで誰にも打ち明ける事はなかったのだけれど、今回の騒動に乗じて思いきって打ち明けると、昔から今一つ木村拓哉の事が好きになれない。他のメンバーは割と好きなのに、木村拓哉ひとりがどうにも受け付けないので、SMAPのメンバーが勢揃いする番組はあまり観た事がない。
 お茶の間にその存在が浸透し始めた割と早い時期から、どうもその雰囲気に厭なものを感じていたのだけれど、決定的に僕が木村拓哉の事を嫌いになったのは、テレビで観たある企画が原因だった。
 もう随分昔に観た内容なので詳細は覚えていないけれど、確か木村拓哉が二十代最後の年を迎えるに当たって、それを記念して企画された内容だったと思う。様々な職業に就いている木村拓哉と同年代の素人が、木村拓哉とテレビカメラの前で対談するという企画だ。中卒のヤンキー風の大工とか、一流企業のOLとか、確か医者も登場した気がするが、要するに自分の仕事に誇りを持っていて、俺だって、あたしだって、目の前の大スターに何ら気後れする事のない充実した人生を送っているんだぜ、そうよ、そうなのよ……とアピールしたがる暑苦しい連中が次から次へ登場する内容だった。
 力んだ自意識が暑苦しい素人連中にも、そういう暑苦しい自意識にとってつけたような共感の弁を述べる木村拓哉にも、微塵も共感の念など覚えなかった僕は、もちろん最初から最後までがっつり観ていた訳ではなく、他局がCMに入った時のみ、ちらちらっと観ていただけだったが、そういう素人の中で一人、とても地味で大人しそうな青年を相手にした時の木村拓哉の言動だけは今だ忘れる事が出来ない。
 そもそも何を勘違いして番組に出る気になったのかは知らないが、その木村拓哉と同い年の青年は特に仕事に誇りを持っている訳でもないフリーターで、その時は近所のペットショップにアルバイトで勤めている状況だった。
 そして木村拓哉とその青年との対談は始まった。
「へぇ……動物が好きなんだ?」
「いえ、特には」
「え、じゃあ、何でペットショップで働いてるの?」
「いや、特に理由はなく、家の近くでアルバイト募集していたから、それで……」
「……それって、ちょっとヤバいんじゃねーの?」
「……ヤバいですか?」
「うん。ヤバいと思うよ。因みにそのペットショップのアルバイトで幾ら稼いでいるの?」
「まぁ十五万円ほど」
「……やっぱりヤバいと思うよ、それ」
「……ヤバいですか?」
「うん。ヤバいよ。そもそも月々に稼ぐ金がそれで、ちゃんと生活成り立ってるの?」
「あ、僕、実家に暮らしてるから、そんなに生活費が掛からないんですよ」
「……だから、ヤバいってそういうの」
 大まかな処、そんなやり取りだったと記憶している。
 その当時、あまり社会的に上手くいってなかった僕は(まぁ今も大差はないが)、木村拓哉がその時その青年に取った言動がどうにも不快で仕方なかった。「ヤバいよ」と連呼するその時の口調とその表情には、うだつの上がらぬ日々を送る同年代に対する明らかな蔑みが感じ取れたのだ。
 そしてその後、青年の現状を冷ややかに全否定した木村拓哉の、あまりにも思い上がった説教が始まるのだけれど、完全に上から目線の横柄なその態度を見ていたら、まるで自分が侮辱を受けているような悔しさが堪え難く、思わずチャンネルを変えてしまったのを覚えている。
 以後、テレビで木村拓哉が映ると咄嗟にチャンネルを変える行為は半ば習慣と化して現在に至る。あれから干支が一巡する歳月が流れても、うだつのあがらぬ他者を上から目線の傲慢さで切り捨てたあの時の木村拓哉の言動にどうしても許し難い感情が湧いてしまうのだ。
 という次第で、木村拓哉が主演のドラマやバラエティ番組は実は殆ど観ていない。今回の騒動に当てられて、思わずSMAPを題材にした記事を前回アップしてしまったが、話題にするほどSMAPに対する思い入れがあるのかと改めて考えれば、実はそれほどでもない。ただTwitterのタイムラインで拾った今回のSMAP騒動の、これがどうやら真相と思える記事に目を通せば、木村拓哉って、やっぱりそういう奴だったのだな……という感慨が湧くばかりだ。
 しかしそれほど感心が湧く訳でもない連中に敢えて感想を述べさせて貰えば、ここまで来てしまったら、もう一緒に活動する意味がないから解散したら?……という意見もちょくちょく見かけるけれど、メンバー間の信頼関係が完全に崩壊した状態で、それでもSMAPというブランドを存続させるというそれのみの繋がりで、今後のキャリアをどこまでドライブさせてゆく事が出来るのか、ちょっと見てみたい気もする。
 そう、他のメンバーから孤立したとて、木村拓哉ならどうって事なく、歌って踊ってSMAPを存続させてゆくだろう。そういうエゴイズムと傲慢さが、あまりにもビシッと板に付いているから木村拓哉は長きに渡って木村拓哉でいられたのだ。