デヴィット・ボウイの訃報に触れてあれこれ思った事。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 以前このアメブロで、デヴィット・ボウイに関して、こんな感想を述べた事がある、

 全盛期のデビット・ボウイに関しては、当然CD再発で追体験したのだけれど、二十代から三十代半ば辺りのかなり長い歳月に渡って、相当聴き込んだ記憶がある。追体験でこれだけ盛り上がるのだから、リアルタイムでその活動を追いかけた世代がこの人の事を神格化するのも無理ないよな……と、よく思ったものだ。アルバムを発表するごとに音楽性の激しい変化を繰り返しながら、それでいて一貫してコマーシャルなポップミュージックを作り続けた存在って、70年代のこの人とビートルズ位しか思い浮かばないのだけれど、イメージの攪乱を繰り返すカリスマという役柄に疲れ果てたのか、80年代に素の自分を曝して以降は一気に失速してしまった感がある。レッツダンス以降のアルバムも何枚か聴いてみたのだけれど、アルバムごとに何者かを演じる事をただならぬ緊張感で繰り返していた全盛期の神秘性が見事に消え失せて、妙に薄っぺらい印象しか感じられなかったのだ。やはりロックスターも、そしてネットの人気者も、何処かに謎を残して、リアルとは別の何者かを演じ続けている人の方が、いつまでも新鮮で、長く商品価値を保っているような気がする。

 再掲載した上記の感想に更に付け加えれば、90年代以降のデヴィット・ボウイの作品に関しては全く接していない。どういう活動をしていたのか、その詳細も知らぬ。要するにその全盛期の、いちばん美味しい処のみを漁って、その後のキャリアに関しては知らんふりを決め込んだ、およそ誠実とは呼べぬ浅いファンの一人だ。ここ数年は70年代のアルバムの数々を聴き返す頻度もめっきり減っていたしね。
 それでも突然の訃報に触れれば、それをきっかけに何か語りたくなるのが人情というものだろう。世の中を斜に眺めて悦に入った馬鹿が、よく、「有名人が亡くなる度に、たいして詳しくもない俄ファンが、あれこれ聞いた風な事を語り始めるのが鬱陶しい……」と逆に聞いた風な口を聞いて冷笑したがるが、その有名人に魅力を感じて追いかけた時期が少しでもあるのなら、例え今は熱が醒めていたとしても、その訃報を取っ掛かりに、自分が夢中になっていた頃の記憶を紡いで何か語りたくなるのは、全く恥ずべきでもないし後ろめたくもない、寧ろ自然な形の心情である。作家やミュージシャンの死と共に、その作品が再び注目を浴びて売れるようになるのも、これも又、自然の摂理。口の悪い連中は、「死肉に漁るハイエナみたいな連中だ」と見下したような批判を繰り返すけれど、そういう連中には逆に問いたい、「そんなに世の中を斜に眺めて、冷笑家を気取ってばかりで、人生楽しいですか?……」と。
 例えばこの間亡くなった野坂昭如を例に上げれば、僕は彼の著作は一作も読んでいない。あの灰汁の強いキャラクターが生理的に受け付けなかった事も手伝い、どうも今一つ関心が抱けなかったのだ。しかしその訃報をきっかけに、野坂昭如の著作に夢中になった時期を過ごした連中が一斉にその思い出や魅力を語り始めれば、そりゃ好奇心は当然湧く。今度BOOK・OFFに寄る機会があったら、試しに野坂昭如のコーナーを漁ってみようかな……という気にもなる。何ら疚しさを感ずる必要もない、至極まっとうな好奇心の発露である。
 同じように今回の訃報をきっかけに、その名前すら知らなかったような若い子達がデヴィット・ボウイに興味を抱いてくれればいいと思う。ミュージシャンが死ぬ度にその関連作品を大量に仕入れるレコード店……というのは確かにちょっと俗っぽいかもしれないけれど、しかし決してゲスの極みという程のものでもない。そして興味を惹かれてそのCDを買う客というのは、何ら批判される筋合いのものでもない。それをきっかけに、その世界の素晴らしさを知った新たなファンが増えれば、亡くなった当事者としても本望だろう。特に今回、あたかも己の死をもエンターテイメントとして組み込んだかのような壮絶な新作の発表の仕方をしたボウイならば、己の死を祝祭として派手に扱って貰う事を寧ろ望む筈だ。
 確かソウル・フラワー・ユニオンの中川敬もインタヴューで似たような発言をしていたと思う、「誰かが死んだら派手に話題に上げて、お祭りにしてあげればいいのだ……」と。中川敬が死者を追悼する形で、そのカヴァー曲の発表を繰り返すのは要するにそういう事なのだと思う。こういう処も彼は健全で、人情の機微とか、そういうものをよくわかっていると思う。
 最後に蛇足ながら一つ付け加えれば、往年のファンが、「この作品をきっかけにデヴィット・ボウイの失速は始まった……」と悪しき一枚として上げる事が多い『レッツ・ダンス』。しかし僕はこのアルバムもそれほど嫌いではない。寧ろ初心者には、これ位コマーシャルな世界から入っていった方が取っつきやすいかもしれない(考えてみれば80年代半ばから後半に掛けて発表された彼の他の作品も、まぁ全盛期と比べると厳しいけど、しかし言われているほど悪くはない気もするのだよな。~今度90年代以降の作品もチェックしてみよう)。

https://youtu.be/N4d7Wp9kKjA