人の世に溜め息ひとつ
そっと吐き、
適応能力が著しく欠けた身には
あまりにも悪意に満ちた辛く切ない世と思う。
夜ふけの帰路の折れた心に
思い出ぽろぽろ蘇れども、
それが、
鈍臭く不器用ゆえの哀しみと恥辱が満ちる思い出ばかりならば
立ち止まり、
見上げた夜空に見つけた月も
そ知らぬふりしてそっぽ向く。
あぁ吹き抜ける風も心地よく
この世は美しく魅惑に満ちているのに、
僕の人生は失意の吐息にまみれっぱなしで、
鳥に憧れながら
地べた這う道程だった。
花に見惚れながら
その美しさに傷つけられる日々だった。
だけど人の世に居場所が見いだせないならば
せめて思い出を花鳥風月に塗り替えて
人間の息吹から遠く離れた場所に
夢見る心それだけでも逃したい。
心地よく美しい憧憬と戯れながら
微笑む月の幻想に惑溺していたい。
そう、人の世に溜め息ひとつ
惨めな溜め息また繰り返せども
僕はもう一つの世を育み広げてゆくだろう。
(二十代後半に使用していた大学ノートより抜粋、改稿)。