花の美しさに見惚れた。
名も知れぬ花のその美しさに立ち止まった。
旅先の、
土産物屋の店先に咲いていたその花の名前を、
たまたま店先に出ていた店員の彼女が教えてくれた。
いい名前だ、
と思った。
教えてもらった
その良い名前と共に
改めてその花を眺めた。
でも名前を知る前と
名前を知った後で
花の美しさに変わりはなかった。
きっと忘れちまうのだろうな、
と思った。
せっかく教えてもらった良い名前も
僕の場合、
すぐに忘れちまうのだろうな……と。
忘れて、
また何処かの街角で見かけたら
その花の美しさに見惚れるのだろう、
そう、
名も知れぬ花の美しさよ……と思いながらね。
花の名前を教えてくれた気持ちの良い彼女のことも
残念ながらすぐに忘れて、
どこかの街角ですれ違っても
きっと気づきもしないのだ。
そんな風に忘れながら、
でも改めて美しいものや、
心地よいものに出会いながら、
僕はこの瞬間を生きている。
この瞬間しか生きられない。
せめて平熱のこの瞬間の繰り返しの中に
出来るだけ豊かなものを感じ続けていたい……
そう願いながらねマリーゴールド。