きっとフィリップ・K・ディックも似たような事を考えていたのだろう。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 僕は今43歳。
 だけど自分が43年間も生きてきた実感が全く持てない。

 今から三十年前、
 僕は本当に生きていたのだろうか?

 或は自慰を覚えてしまった猿のようにおちんちんばかり弄りながら、
 少年のピュアな心とは無縁の薄汚れた日々をちゃんと生きていたのかも知れないけれど、
 三十年前の思い出が
 全部後から作り上げられた嘘っぱちのように思えてしまう。

 そう、
 僕は自分が生きて来た気がまったくしないのだ。

 どうせ全てが嘘っぱちなら、
 お願いだからプログラマーよ、
 僕に新たな記憶を刷り込んで下さい。
 もっと気の利いた、
 明日への生きる縁(よすが)となるような楽しい記憶を
 容量一杯になるまで入力して下さい。

 まるでシャンソンの歌詞の一節に歌われていそうな、
 秋の枯葉を踏み締めながら刻んだ美しい恋の情景みたいな思い出を
 僕の記憶の回路に刻んで下さい。

 職場の工場の
 その裏地の
 夜更けの駐車場の
 その片隅の物置ボックスの前で
 生まれて初めてのキスをした
 香とのあの出来事の
 あの胸ときめくような記憶をもっと僕に詰め込んで下さい。
 或はあの夜に感じた香の唇の柔らかい記憶も
 後から刻まれた嘘っぱちなのかも知れませんが、
 それならそれで、
 香とのその後の日々も
 もっと楽しいあれやこれやとしてデータを入力して下さい。
 香との結婚生活も幸せな日々として入力して下さい。

 いや、いっその事、
 今夜眠りに落ちたその時に、
 香との事も含めて、
 十八歳以降の記憶として入力されたデータを全部消去して貰っても構いません。
 その代わり、
 明日の朝に目覚めたその時には
 僕の日常がまったく違ったものへと様変わっているように
 もう根本からデータを何もかも作り直して下さい。

 明日の朝、
 目覚めた僕の傍らに綾瀬はるかが裸で眠っていたとしても
 その事に何の違和感も覚えないような記憶を僕の回路に刻んでおいて下さい。
 
 僕はもう、
 完全に三流のプログラマーに入力されてしまった失敗作のような、
 この貧しく稚拙な記憶を生きるのが真っ平なのです!