黒川氏(東京検察庁前検事長)が記者らとの賭けマージンをしていたことが発覚して辞職しました。
その処分は「訓告」。
退職金は検討中で、支払われるということです。(森法務大臣の発言)
これに対して野党は懲戒処分を求めています。
公務員の懲戒処分には、5つの種類があります。
厳しい順から「免職」「降任」「停職」「減給」「戒告」です。(国家公務員法第82条。地方公務員法第29条)
<免職>
職を失います。(解雇)
免職処分を受けると、退職金が支払われません。
<降任>
地位を引き下げられることです。
降任処分を受けると、俸給表の階級や職位が下がります。
退職する必要はありませんが、処分日以降、給与や手当が下がります。
<停職>
出勤停止です。
期間は最低1日~最高1年までです。
停職処分を受けると、停職期間中は給料が支払われません。
<減給>
減給処分を受けると、最長でも1年間、最大金額でも、俸給の月額の1/5が減ります。(残り4/5は支給されます)
<戒告>
注意です。
戒告処分を受けると、文書で内容を通知されますが、給与も地位も変わりません。
しかしながら、(履歴が汚れ)昇進に関わります。
黒川氏は法律を守る立場にあり、ましてはコロナの状況で自粛を求められている最中に行われた違法行為は懲戒「免職」といかないまでも「降任」または「停職」に当たると思います。
それが「訓告」とは!あきれてものも言えません。
「訓告」は懲戒処分に含まれません。
訓告とは 公務員の実務上の処分のひとつであり、法律上での処罰にはなりません。
職員の義務違反に対して責任の確認と将来を戒める行為で、主に口頭や文書で注意をします。
「訓告」の場合は、給与などに影響しないことが多くなっていますが、訓告が3回累積すると戒告一回分相当とされています。
この場合、給料に全く影響しないということです。
退職金は給料の何か月分と決まっているので退職金も減りません。
今回の黒川氏の場合、罪を諫め、裁く検察の幹部が賭けマージャンという違法行為を行っていたということです。
レートは低いと言っても、額(レート)に関わらず罪は罪です。
それも常習的にということはもっと罪深いと思います。
この黒川氏の処分は政権の「お手盛り」だと思います。
この「お手盛り」的人事を可能にしようとしたのが、今国会での成立が見送りになった「検察庁法」の改正案だと思います。
そのことに関連して「問われる検察の独立性」という解説がありました。(NHK時論公論より)
① “異例”の定年延長
黒川氏は緊急事態宣言の最中、新聞記者らと賭けマージャンをしていたことが明らかとなり、辞職しました。
法務省の調査では3年前から月に1~2回の割合で行い、現金をやりたりしていたということです。
国民が生活を自粛し、我慢していた最中に、検察幹部が{3密」で賭けマージンというのは許しがたいことです。
黒川氏は異例の定年延長で役職に留まり続けていました。
国家公務員の定年は国家公務員法での60歳です。
黒川氏など検察官の定年は検察庁法で63歳、検察トップの検事総長だけが65歳とされています。
黒川氏は2月の誕生日で63歳、つまり2月で定年のはずでした。
ところが、政府は直前に1人だけ8月まで延長する閣議決定をしました。
検察庁法に定年延長の仕組みはなく、国家公務員法が適応されました。(森法務大臣のいう法解釈の変更?)
黒川氏は官房長や事務次長を歴任し、野党から官邸寄りという指摘もありました。
また、検事総長は定年前でも2年ほど勇退することが多く、現在の稲田検事総長は7月でまる2年になります。
このため、8月までの定年延長で黒川氏に次の検事総長への道が開けた言うことになります。
それが今回の賭けマージャンで辞職に追い込まれたということです。(政権の思惑が外れた)
この異例な定年延長について、森法務大臣は「複雑・困難な事件に対応するためだ」と繰り返してきました。
「複雑・困難な事件」とは。
具体的な説明もないまま「訓告」処分で辞職し、国民の理解を得ようというのでしょうか。
② 検察庁法改正案の問題点
国会で成立が見送られた「検察庁法」の改正案は定年延長が焦点となっていました。
法案は検事長などの定年を65歳まで引き上げ、同じく定年を引き上げる国家公務員と同じにします。
一方で、役職定年制を設け、いわば平の検察官になります。
これを見れば、平等に見えます。
高齢化の中、定年制度の議論は必要でしょうが、ここに特例規定が設けられました。
内閣や法務大臣が必要と判断すれは、検事総長は68歳、検事長などは66歳までポストに留まることが可能というものです。
これが大きな議論を引き起こしました。
検察庁法は憲法と同じ昭和22年に作られました。
一般の公務員とは異なる裁判官に準じた身分の保証と待遇を定めています。
改正案について政府は「豊富な知識や経験活用」を活用するためとしています。
しかし、検察OBや弁護士などから「政府の介入につながる」という反対の声が上がり、Twitter上で著名人からの抗議の投稿も相次ぎ、大きなうなりとなりました。
そして、今国会での成立が見送られました。(政権は世論に弱い)
今年2月に解説委員は「黒川検事長の勤務延長をめぐる解釈変更」の検討内容に関する文書を法務省に情報公開しました。
2か月待って示されたのは「不開示決定」通知者でした。
その理由は「作成しておらず、保有していない」。
(普通では考えられない。
行政の仕事は法的根拠をもとにするものですから、それを検証するために文書のやり取りで行います。
口頭ではかなり軽微なものであり、必要な時は後で文書に残します。
こんな大切なことが文書として残っていないとは・・・
最近では情報公開が叫ばれるとともに、保存場所の制限のためもあり、文書がデジタル化されて(内部、外部とも)閲覧し易い形に移行しています。
国でこういうことが起こっているとは驚きます。)
政府は以前、定年延長の法解釈について法務省内部で検討してメモなどを明らかにしています。
ただし、その後の解釈変更を決めたのは大臣の「口頭決済」。
(重要な事案なので「口頭決済」はあり得ない。
必ず事後に文書と残すのが普通です。)
その後の黒川氏の検討部分は今回の文書不存在、そして閣議決定。
この間の文書がないということはブラックボックスになっている。
人事に関するため、すべての公開は難しいとしても文書がなかれば検証することもできません。
まずは文書を残し、透明性を確保することが不可欠です。
(極端に言えば、国民にわからなけば何でもできるということになり兼ねない。)
もう一つは検察庁法の改正案に盛り込まれている特例規定です。
「どんな場合に幹部の役職が継続されるのか」という基準が今も示されていません。
今後法案を審議されるのであれば、特例規定を取り除くか残す場合は公正な基準を示して議論すべきだと思います。
将来、時の政権の意向で都合の良い幹部だけ定年延長されないようにする仕組みが必要です。
③ 求められる検察の姿
検察権は強い権限を持ち、時には政界に切り込むだけに、政治権力からの独立が求められます。
一方で、強権的な捜査やえん罪を生む組織に陥らないよう自ら律することも欠かせません。
今回の賭けマージャンもその背景に傲りはなかったのでしょうか。
問われるのは「独立」と「自律」のバランスをどうとるのか。
その土台は「国民」です。
ただ、「綱紀粛正」だけでなく、「独立」と「自律」を両立できている上で、今回の問題にどうけじめをつけ信頼をはかるのか。
国民はそこを注視していることが大切です。
戦前も検察の独立を求める声が強まり、昭和13年に検察庁法案が作られたことがありました。
廃案となりましたが、その中に定年の規定があります。
「検事総長は65歳、その他の検事は63歳」
これは今の検察庁法と同じです。
ただ、この後ろには定年延長の記述がありました。
「司法大臣による3年以内の定年延長を認める」というものです。
これは前からあった定年延長の仕組みを引きついたものです。
戦前の検察独立の動きには限界がありました。
戦後作られた今の検察庁法にこの定年延長の記述はありません。
これは、戦後法案の作成にかかわった大審院次長検事(当時)佐藤祥樹氏は
「戦時中、大臣が検事に直接注文を付けるなどして次席も検事正も知らない間に突然検挙が始まったりする苦い経験をした」
と語り、法案の作成では個々の事件を干渉されないようにしたというものです。
このことについて専修大学(行政法)春山一穂名誉教授は
「検察庁法の規定が検察官の独立性と公正性を守るため勤務延長を設けなかったものと同じ発想からだ。」
と考えられると指摘しています。
今回、問われているのは単に個人の問題や綱紀粛正に留まりません。
戦後先人が築いてきた「検察の独立をどう守り、検察もどう自らを律しているか」が国民の信頼ため大切なことと思います。
この流れを見ていると、この法案の成立は国事行為を私物化としたという安倍総理の「桜を見る会」の問題に対する責任追及逃れに関係しているのではないかと感じます。
さらに、コロナ問題で世界中が大混乱になっている中、それ紛れて法案を成立させようとする行為は絶対許すべきものではないと思います。