資本主義は、スローンのマーケティング革命によって「市場の有限性」を超克した。同時に、GMの好敵手、自動車王ヘンリー・フォードは、大衆消費社会を誕生させた。自動車王の偉業は、ベルトコンベアシステムによる生産性の劇的な上昇だけではない(生産性については、「テイラーの生産性革命」にて詳述する)。
フォードの最大の偉業は、生産性の上昇率に比例して実質賃金を上昇させる、インデックス賃金を導入したことにある。所謂「5ドルの日」である。
当時の平均日給は2.5ドルであったが、フォードは、自社の従業員の実質賃金を倍増し、5ドルに引き上げた。フォード社の従業員の年収は1,000ドルを超え、自社製品である、T型フォード(850ドル)の購買が可能になったのである。
自社の従業員の賃金を倍増させることで、自社製品の顧客を作り出すフォードの戦略は、それまで一部の資本家階級の贅沢品に過ぎなかった自動車を、大衆の必需品に置き換えることに成功した。
従業員の賃金を上げることで購買能力が増大し、商品売上は増加する。商品売上の増加は企業利益を向上させ、投資の増大を促す。従業員の賃金は更に上昇し、消費は一段と刺激されて、商品売上の増加に向かう。
[賃金上昇] ⇒ [売上増加] ⇒ [利益向上] ⇒ [投資増大] ⇒ [賃金上昇] ⇒ [売上増加] のサイクルは、第二次世界大戦後に始まり、1970年代中頃まで続く「資本主義の黄金時代」を演出した。フランス経済学派のレギュラシオン理論は、上記のサイクルを「フォーディズム」と呼んだ。
まさに「フォーディズム」こそ、「大衆消費社会」を生み出し、戦後の世界経済を牽引した、「正のスパイラル」であったのである。
大衆消費社会の誕生によって、資本主義社会は、「市場の有限性」を超克した。スローンのマーケティング革命は、自動車の購買能力を有する階級に対し、買い替え需要を刺激する市場の「質の拡大」であった。それに対し、フォーディズムは、自動車の購買能力を有する階級を創造する、「量の拡大」であったと言える。
マーケティング革命とフォーディズム。車の両輪が揃って初めて、資本主義社会は、新しいステージに進んだのである。
フォーディズムが世界で最も成功した例は、おそらく、本家の米国ではなく、戦後の日本であろう。1960年、池田内閣は、10年以内に国民総生産を二倍(1960年度の13兆6000億円の倍、26兆円)にする長期経済計画を発表した。「所得倍増計画」である。
中期目標としては、年間平均11%の経済成長を維持し、3年で17兆6000億円に到達することを目指した。「所得倍増」そのあまりにも遠過ぎる目標は、夢物語に過ぎない、非常識な計画であると誰もが思ったはずである。
しかし、日本経済は、予想と計画を遥かに上回る速度で、驚異的な成長を遂げた。実質国民総生産は6年後に26兆円を超え、国民一人当たりの実質国民所得は、7年後に倍増した。まさに、所得が倍増したのである。所得の倍増は消費を産み、消費は企業利益の向上になって、更なる所得の増加を促した。
戦後の日本経済の高度成長は、人類の歴史上、類を見ない「奇跡」の現出に他ならない。
フォードの最大の偉業は、生産性の上昇率に比例して実質賃金を上昇させる、インデックス賃金を導入したことにある。所謂「5ドルの日」である。
当時の平均日給は2.5ドルであったが、フォードは、自社の従業員の実質賃金を倍増し、5ドルに引き上げた。フォード社の従業員の年収は1,000ドルを超え、自社製品である、T型フォード(850ドル)の購買が可能になったのである。
自社の従業員の賃金を倍増させることで、自社製品の顧客を作り出すフォードの戦略は、それまで一部の資本家階級の贅沢品に過ぎなかった自動車を、大衆の必需品に置き換えることに成功した。
従業員の賃金を上げることで購買能力が増大し、商品売上は増加する。商品売上の増加は企業利益を向上させ、投資の増大を促す。従業員の賃金は更に上昇し、消費は一段と刺激されて、商品売上の増加に向かう。
[賃金上昇] ⇒ [売上増加] ⇒ [利益向上] ⇒ [投資増大] ⇒ [賃金上昇] ⇒ [売上増加] のサイクルは、第二次世界大戦後に始まり、1970年代中頃まで続く「資本主義の黄金時代」を演出した。フランス経済学派のレギュラシオン理論は、上記のサイクルを「フォーディズム」と呼んだ。
まさに「フォーディズム」こそ、「大衆消費社会」を生み出し、戦後の世界経済を牽引した、「正のスパイラル」であったのである。
大衆消費社会の誕生によって、資本主義社会は、「市場の有限性」を超克した。スローンのマーケティング革命は、自動車の購買能力を有する階級に対し、買い替え需要を刺激する市場の「質の拡大」であった。それに対し、フォーディズムは、自動車の購買能力を有する階級を創造する、「量の拡大」であったと言える。
マーケティング革命とフォーディズム。車の両輪が揃って初めて、資本主義社会は、新しいステージに進んだのである。
フォーディズムが世界で最も成功した例は、おそらく、本家の米国ではなく、戦後の日本であろう。1960年、池田内閣は、10年以内に国民総生産を二倍(1960年度の13兆6000億円の倍、26兆円)にする長期経済計画を発表した。「所得倍増計画」である。
中期目標としては、年間平均11%の経済成長を維持し、3年で17兆6000億円に到達することを目指した。「所得倍増」そのあまりにも遠過ぎる目標は、夢物語に過ぎない、非常識な計画であると誰もが思ったはずである。
しかし、日本経済は、予想と計画を遥かに上回る速度で、驚異的な成長を遂げた。実質国民総生産は6年後に26兆円を超え、国民一人当たりの実質国民所得は、7年後に倍増した。まさに、所得が倍増したのである。所得の倍増は消費を産み、消費は企業利益の向上になって、更なる所得の増加を促した。
戦後の日本経済の高度成長は、人類の歴史上、類を見ない「奇跡」の現出に他ならない。