「はい、ありがとうございます。ご無理を言いました。でも、助かりました」
「どこかで必ず楽になりますよ。まだ、若いんでしょう。頑張ってね」
「ありがとうございます。一生、忘れません」
顔を合わせることもなかったが、彼女は、まさに恩人だった。静かに、手を合わせた。極度の緊張であった。こみあげてくる吐き気を必死でこらえた。
大きく丸印を作りながら、コンビニに停めてある車に近づいていった。小谷野も、了解とばかりに大きな丸印でこたえた。(男として今どんな気持ちでいるんだろう…。辛かろうに)しかし、小谷野の心情を気遣って言葉をかけるほどの度量の大きさは持ち合わせていなかった。
「ご苦労さん!大変だったね。いくらで売れた?」
「最初は御徒町のオトッツァンと同じ返事だったのよ。毛皮は業界としてひきとらないってね」
「そうか…動物愛護だね、本来はそれでいいんだよ、けどね…。今回ばかりはねー」
「そう、今回ばかりは、はい、そうですかって帰ってくるわけにはかないでしょう。事情を話して、あとはお願いしますを連呼したわ」
「粘ったね。ショー君にからむこととなると貴女はホントすごいね」
「自分でもそう思ったわ。三十三時間もあんなに苦しんで、必死で生まれてきてくれた子を不幸にする気か、しっかりしろ!バカヤローッてなもんよ」
「母は強しだな。すごいよ」
「でもね、空っぽの風呂敷を持って歩きながら思ったわ。私って因幡の白兎みたいだねって」
「因幡の白兎って、たしかサメだかワニだかをだまして皮を剥がされたっていう話だよね」
「そうよ、同じじゃないの。私も、唯一の財産の毛皮を持っていかれて丸裸じゃないの」
「本当だ、確かにその通りだ」