「ねっ、そうでしょう。だいたい私は昔から自分の干支が好きになれなかったのよ。兎って耳が長いだけで何の取り柄もないでしょう。名前だって四月生まれだから卯月でしょう。ずっと、猪年の葉月になりたいと思っていた。うちの姉よ。いいところは、全部姉に持ってかれちゃったんだもの」
「僕は自分の干支をそこまで深く考えたことはないな。馬力があるくらいに思ってきたけど、痩せ馬の先走りってこともある。アハハ、こりゃ、いいや。貧馬の先走りだとさ」
「アハハハ。ねっ、干支ってその人をよく表しているのよ。だけど、兎はサメだかワニをだましたんでしょう。私が誰かをだましたかしら? その逆じゃないの、それなのに…ひどいわ」
「大黒様が現れて、救ってくださるのを待つしかないなあ」
「さあ、どうでしょう。望み薄じゃないのかしらね」
大きな袋を肩にかけ 大黒様が来かかると
ここに因幡の白兎 皮をむかれて丸裸
取りつかれたように何度も歌った、小谷野は黙ったままだった。
年が変わり息子はまもなく幼稚園を卒業であった。露木さんとの雇用関係はすでに終止符が打たれていた。息子の小学校入学を控え、生きるステージをどこに置くか、決断をせまられていた。