「一万円って、いくらなんでもそれはないでしょう。新品のロングで、百三十万円もしたんですよ」
「売れないって説明したでしょう。悪く思わないでくださいよ。イヤならいいですよ」
「ひどすぎます。売りません!」
この上、涙を見られたくはなかった。踵を返した。
「どこへ持って行っても、同じかしらね。でも、どうしよう。何とかしないと…」
「三河島へ行ってみるか?」
「三河島?」
「実家のそばだよ。良い思い出がないから寄り付きもしないところだけど、あの辺りは人情味が厚いからね。最後は、故郷だよ。故郷なら、何とかしてくれるかもしれない」
「そう信じましょう。次も私がいきますから」
「わかった、貴女の気の済むようにしよう」
当たって砕けるしか、なかった。
当たりをつけた店は、コンクリートの三階建てで、およそ質屋のイメージとはかけ離れた堅牢にして豪奢な店だった。折衝も、対面ではなく、会話はすべてインターホン越しであった。そして、予想に反して、声の主は女性だった。
(良かった。女同士ならわかってもらえるかもしれない)。細い、細い光の条を見た思いだった。しかし、ここでも答えは同じであった。とはいえ、今度ばかりは、怒りに任せて引き下がるわけにはいかなかった。息子の笑顔と、ママちゃんと呼ぶ声が鉄の女へと変身させた。
「そこを、何とかお願いします。明後日には、一つ手形をもらえるんです。でも、それまでがどうしてもつながらないんです」
「ご商売なの?」
「はい。でも、業界全体が底冷えで、ずっとお金に追いまくられています」