淡々として、ビジネスライクに徹した言い方だった。
(随分と簡単に言うのね。他人事っていう感じだわ。お力落としでしょうが、くらいのセリフを吐いてもバチは当たらないんじゃないの。貴方にとっては一つのケースに過ぎないかもしれないけど、こっちにとっては、生きるか死ぬかの瀬戸際なのよ)。悔しさに身をよじって言った。
「大人しく身を引けっていうことですか?」
「勝ち目はないだろうと申し上げているんです。第一ね、失礼だけど軽率過ぎますよ。プロジェクトを立ち上げようというのに、相手と覚書ひとつ交わしていない。口約束だけで事を動かすなんて、赤ん坊同然ですよ」
グウの音も出なかった。弁護士の言っていることは、世の中を渡る上での<いろは中のいろは>であった。明日を憂えるあまり、我を失った挙句に陥った落とし穴だった。全身から、血の気が引いた。
弁護士は、言葉を続けた。
「関係を断ち切るしかありません。取り返そうとするよりも、これ以上は支払わないことです。今後、契約や金銭に絡む問題の時には、弁護士を立てることですね。今回の件は、社会勉強だと思って、早く忘れてしまうことです」
すべての相談は、これで終わりであった。ただ自らの愚かさを再認識するためだけに、わずか三十分で六千円という高額の相談料を支払い、事務所を出た。フラフラと日比谷公園を歩きベンチに腰を降ろした。